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サクラユキ  作者: えるす
22/23

11月

 修学旅行明けの月曜日。

付き合っているという事を言うタイミングが掴めないまま昼休みになる。

やはり、桜木君本人がいる前では言いづらい。

いつものように窓際に机を寄せて、三人でお昼ご飯を食べ始める。


「あそこの温泉、また行きたいわよねー」


「うんうん、三人だけで行きたいよね」


 話題はやはり修学旅行のことばかりだ。

話しの区切りがついたところを見計らって、私はいよいよ話を切り出した。


「あのさ、二人に話すことがあるんだ」


「なぁに?改まって」


 特に気に留めない理亜に対して、かすみは何かを感じ取ったのか、無言で頷く。


「んと・・・あんまり驚かないでね。私、桜木君と・・・つ、付き合うことになったの」


「え?・・・えぇえええー!んぐっ」


 時間差で驚く理亜の口を、かすみが塞いだ。


「おめでとう、麻里ちゃん」


 かすみはそこまで驚く様子もなく、お祝いしてくれる。


「んー、苦しいってば、かすみ!」


「あはは、ごめんごめん」


 理亜の口が解放される。


「おめでとう、麻里!でもいつからなの?修学旅行はほとんど私達と一緒だったし・・・まさか昨日!?」


「えっとね・・・修学旅行中なんだ」


 私はあの日の出来事をかいつまんで話した。


「ドラマみたい・・・桜木君、持ってるなあ」


「ほんとね。見届けたかったわ」


 二人とも思い思いのことを口にする。

そしてまたその時を思い出して、少し恥ずかしくなる。


「そういえば、かすみはあんまり驚いてない感じだったけど、何か知ってたの?」


「ん?知ってたってほどじゃないけどね。いつかはこうなると思ってたから」


 嬉しそうにそんなことを言う。

私が知らないところで、桜木君はそんな素振りを見せていたんだろうか?


「麻里がとうとう彼氏持ちかあ・・・。嬉しいけどちょっと寂しいかな」


 理亜が言葉通り、複雑な表情をみせる。

私はその言葉の意味がわからなかったが、すぐにハッと気が付いた。

これから桜木君といる時間が増えるということは、必然的に理亜やかすみといる時間が減る。

そう考えると私も複雑な気分になってしまった。


「えと・・・ごめん」


 上手い返答が思い浮かばず、つい謝ってしまう。

すると、かすみが理亜の頭を軽くコツンと叩く。


「こーら、理亜。困らせるようなこと言わないの」


「はぁい。ごめんね、麻里」


 しゅんとする理亜に、逆に申し訳なくなる。


「二人といられる時間は減っちゃうかもしれないけど、あんまり私に気を使いすぎないでね」


「うん!」


「麻里ちゃんのほうこそ、私達に遠慮せず彼氏さんと仲良くね」


 改めて彼氏という慣れない言葉を聞くと、少し照れ臭くなる。

そのあとも冗談っぽく茶化されて、賑やかな昼休みを送った。



 放課後。

図書室でいつも通り、委員としての活動をする。

図書委員はアルバイトのシフト制のように委員の中から二人が出て、貸し出し担当、雑務担当に分けられている。

今日は貸し出し担当なので、のんびりと椅子に座りながらパソコンで作業する。

作業が終わったら、あとは貸し出し希望者が来たときだけ対応して、それ以外の時間は読書を楽しむ。


「すいません、これ貸してください」


「あ、はい」


(ん?この声って・・・)


 返事をしてから顔を見る直前、誰だか気付いた。


「さ、桜木君。珍しいね、ここに来るなんて」


「あはは、あの時からちょっとこれが気になっててね」


 そう言って差し出した本を見て納得する。星座の本だ。


「ふふ、じゃあまた星がよく見えるところ、行かないとだね」


「うん、それまでには頑張って覚えるよ」


 図書カードに記入をしてもらい、パソコンにも打ち込む。


「今日は何時まで?」


「こっち担当の時は特に何時までって決まってないんだけど・・・あと15分くらいで帰れそうかな?」


 雑務担当が戸締りをするため、貸し出し担当は人が少なくなってきたら帰ってもいいことになっている。


「終わるまで待っててもいいかな?」


「えっ!?う、うん・・・」


 突然の発言にドキッとする。

でも、付き合ってるのならこれくらいは普通なんだよね・・・?

そう自分に言い聞かせ、納得する。


「じゃあ、向こうの席でこれ読んでるから」


 桜木君は図書室の空いてる席を指さして歩いて行った。

しかし、一緒に帰るといっても桜木君と私は校門を出たらすぐ反対方向。

付き合い始めたばかりだから、校門までの短い時間も大切にしたいということだろうか?

そうだとしたらすごく嬉しい反面、すぐお別れしなければならないので切なくもある。


「お待たせ、桜木君」


「あれ?随分早かったね」


「うん、先輩がもう帰ってもいいよって言ってくれたんだ」


 私達が話していたのを見ていたのか、雑務を担当していた先輩が早く帰してくれた。

桜木君は見ていた本をカバンにしまい、図書室を出る。


「俺達のこと、姫野さん達に報告した?」


「うん。理亜はすっごい驚いてたよ。かすみはなんか冷静だったなあ」


「ははは、白河さんは結構鋭いからなあ」


 下駄箱で靴を履き替える。

校門まではもう100メートルもない。


「桜木君は足立君とかに話したの?」


「いや、誰にも話してないよ。航には自分で気付くまで、言わないでおくほうが楽しそうだなって思ってね」


「あはは、確かに面白そうかも。理亜達にも言っておこうかな」


 あっという間に校門をくぐり、立ち止まる。

そして、少し名残惜しさを感じながら口を開く。


「えっと、じゃあまた・・・」


「あ、あのさ」


 また明日。そう言おうとしたところで、桜木君の声に遮られる。


「送っていってもいいかな?麻里の家まで」


「え?」


 前にもこんなことがあったような気がする。

そう、皆でボーリングに行った帰りだ。

あの時は距離が遠かったこともあり断った。

だけど今日は駅からでなく学校からなので、前よりは近い。

そしてお互いの距離も近くなった。


「・・・うん、お願いします。よ、義隆・・・君」


 送ってもらうことより、名前で呼ぶことに緊張する。


「ありがとう」


 目を細めて、お礼を言われる。

お礼を言うのは私のほうなのに・・・と思ったが、名前で呼んだことに対してかもしれない。

そして再び肩を並べて歩き始める。


(・・・)


 普段、理亜やかすみは割とお喋りなので忘れていたが、私は自分から話を振るのが苦手だ。

何か私からも話さないと・・・。


「最近ほんと寒くなってきたよね。秋があっという間に終わっちゃいそう」


 咄嗟にはベタな天気の話しか出てこなかった。


「ん?うん、そうだね」


 薄い反応。まずい、他に何か話すことないかな?

ちょっと焦り気味にそう考えていた時だった。

私の左手が温かい感触に包まれる。


「こ、こうすれば、少しはあったかくなるかな?」


「あ・・・う、うん」


 ふいに手を握られて顔を合わせられなくなるが、控えめにその手を握り返す。

告白された時と同じくらい、いやその時以上に心臓が早鐘を打つ。

義隆君もドキドキしているんだろうか?


『ちょっと急すぎたかな。嫌じゃなければいいんだけど・・・』


 心を読もうかと思っていたら、繋いだ手から流れるように声が聞こえてきた。こんなことは初めてだ。

私はその声に言葉ではなく、もう少しだけ手を強く握って返した。

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