表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラユキ  作者: えるす
21/23

修学旅行⑥

 意識が覚醒する。

薄く目を開けると、カーテンの隙間から差し込む光が朝を迎えたことを教えてくれる。

昨晩はなかなか寝付けなかったが、目を閉じてじっとしているうちになんとか眠れたようだ。


(いたた・・)


 上半身を起こすと、足が筋肉痛がであることを主張してきた。

そんな筋肉痛もどうでもよくなるくらいの出来事を思い返す。


(昨日のこと・・・夢じゃないよね?)


 ぼーっと昨日の事を思い返して立ち上がる。

洗面所のほうを見ると、灯りがついていて少し物音が聞こえる。

布団を見ると、かすみが先に起きているようだ。


「おはよう」


「おはよ、麻里ちゃん。理亜は当然まだ寝てるわよね?」


「うん、もう少ししたら起こす?」


 朝食の時間まではまだ余裕があるので、すぐじゃなくても大丈夫だろう。


「そうね。あ、もう終わるからちょっと待っててね」


 かすみが歯磨きを済ませ、私が洗面所の前に立つ。

顔を洗い、歯を磨いてる最中に、かすみの声が聞こえてくる。


「ほら、理亜ー。そろそろ起きなさい」


「・・・うーん、あと5・・・」


 理亜の寝ぼけ声も微かに聞こえる。


「あと5分?」


「・・・5時間」


「長いわっ!」


 漫才のようなやりとりに、思わず吹き出しそうになった。

歯磨きを済ませ、着替えをし始めたころに、ようやく理亜が重たそうな上半身を起こした。


「おはよう、理亜」


「ふぁ~、おはよー」


 あくびを噛み殺しながら挨拶する。

そして眠そうに目を擦りながら、ふらふらと洗面台に向かい顔を洗う。

私がちょうど着替え終わったところで、理亜が洗面所から顔を出す。


「待たせるのも悪いし、二人とも先に行っててー」


 その顔は、まだ瞼が重そうだった。


「まだ時間あるけど、どうするかすみ?」


「んー、まあ本人がああ言ってるし、先に行っちゃおうか」


 ということで、先に二人で朝食に行くことにした。


「二度寝しちゃだめよー」


「ふぁーい」


 歯磨きしているであろう理亜の声を聞いたあと、部屋を出る。

食堂に着くと、どうやら朝食はバイキング形式だった。

色々なものが少しずつ食べられるので、割と小食な私にはありがたい。

トレーの上に二つお皿を置いて、何を食べようかと思っていた時だった。


「おはよう。芳野さん、白河さん」


「おはよ、桜木君」


「お、おはよう」


 ふいに後ろから声をかけられ、ドキッとしてしまう。


「あれ?姫野さんは?」


「あはは・・・あの子、ちょーっと寝起きが悪くってね。まあそっちの相方さんも同じみたいだけど」


 かすみは苦笑いしながら『ちょっと』の部分を少し強調する。


「はは、ご明察」


 そんな挨拶を交わしたあと、三人とも思い思いのものを選んで同じテーブルに座る。

私は小さいロールパン二つに、サラダ、ベーコン、スクランブルエッグを盛りつけた。

桜木君とかすみのトレーをなんとなく確認すると、少し笑みがこぼれてしまう。


「ふふ、皆同じようなの選んでるね」


「ホントだ。ははは、考えることは三人とも同じっぽいね」


「昨日は和食だったからね」


 三人とも洋食なのはたまたまかもしれないが、付け合わせまでほぼ被っているのは珍しい。

少し食べ始めたところで、トレーを持って辺りを窺う理亜の姿が見えた。

私は周りの迷惑を考え、声を出さず手だけ振ってなんとか呼びかける。

すると、気付いたようでこちらに向かってくる。


「おはよう、姫野さん」


「おっはよ。あれ?航君は?」


「理亜と同じみたいよ」


 あっけらかんと答えるかすみ。


「あはは。でも私のほうが早く来てるってことは、航君はもっとひどいんだね」


「よくあれでいつも遅刻しないもんだよ、ホント」


 そんな雑談をしながら再び食べ始める。

途中、足立君が来てないか出入り口のほうをたまに確認していたが、姿を見ることはなかった。

もしかして、もう違うテーブルに座って食べているのかもしれない。

皆食べ終わり、そろそろ出ようかという時だった。


「おはよーっす、ってもう食べ終わってるし!義隆、旅行で一人飯は虚しいからもう少し一緒にいてくれよ~」


 足立君はどうやら今来たところらしく、桜木君に冗談っぽく懇願する。


「しょうがないなあ。じゃあコーヒーもう一杯飲む間だけな」


「じゃあ私達、先に行ってるねー」


 理亜、かすみと席を立ち、私も席を離れてなんとなく振り向くと、桜木君が笑顔で手を振ってくれた。




「あ~、これも欲しいなあ」


 お土産売り場のお菓子に理亜は悩まされていた。


「どれも美味しそうなんだもん。でも全部は買えないし、いくつかに絞らないとだよね・・・」


 独り言、というより自分に言い聞かせている感じだ。

私はというと、もう選び終えて買い終わっている。

かすみは工芸品を見たいと、奥の売り場に一人行ってしまった。


「うーん、これでいいかな」


 ようやく決まったようで、レジのほうに向かう理亜。


「芳野さん、もう買い終わった?」


 横から掛けられた声に、意識しすぎて少し緊張する。


「あ、うん。桜木君は?」


「これでもうやめとこうかなって感じかな?」


 持っていた紙袋を持ち上げて示す。

そしてなぜかキョロキョロと辺りを見回した。


「これ、プレゼント。安物で悪いけど・・・」


 私の耳元でそう言って、手元に小さい包装紙に包まれたものを差し出す。


「えっ?あ、ありがとう」


「それじゃあ、先にバス戻ってるね」


 困惑しながらそれを受け取ると、桜木君は足早に行ってしまった。

プレゼント・・・当然、付き合った記念ということだろう。

少し遅れて嬉しさがこみ上げてくる。

中身は何だろう?今見てみたいが、理亜の会計がもうすぐ終わりそうである。


(・・・)


 ひとつの方法を思い浮かび、理亜のもとへ向かう。


「理亜、ちょっとお手洗い行ってくるね」


「はーい。じゃあそのままバスに戻ってて。私はかすみ探して戻るから」


 お土産売り場を出て、近くにあるお手洗いに向かう。

が、入ることはなく立ち止まる。

そして手に持った包みを見つめて開けてみる。


(・・・綺麗)


 それは星がモチーフになったペンダントだった。

昨晩の出来事を再び思い出す。

そう、星がきっかけだった。

両手でペンダントをきゅっと握りしめる。


(バレない・・・よね?)


 私は周りを見渡し、ペンダントを身に着ける。

そして胸の中に温かさを感じながら、バスに戻った。



 まもなく時刻は正午。

二日ぶりに学校に帰ってきた。


「ふあ~あ、帰ったらもうひと眠りするかな」


 バスから降りるなり、足立君は大あくびをする。

帰りは皆疲れが溜まっているのだろう。車内は静かで、私もウトウトしてしまった。


「家に帰るまでが修学旅行だよ、航君」


「え?あ、ああそうだよな」


 理亜の一言に、困惑気味に答える足立君。

それは遠足のような気がするが、まあ似たようなものか。

バスのトランクから大きい荷物を受け取り、先生から簡単な話を聞いたあと解散となる。


「は~、今日は帰ったら足を休ませてあげないとだね」


「うん、帰るまでがちょっと辛いけどね」


 かすみと顔を見合わせ、苦笑いする。

そして校門を出て一旦立ち止まる。


「じゃあまた来週ねー」


「気をつけて帰ってね、麻里ちゃん」


「うん、ありがとう。二人も気をつけてね」


 手を振って二人と別れ、歩き出す。


(・・・)


 まだ昨晩の余韻が残っている。

あの告白された瞬間のことを思うと、ふわふわした気分になってしまう。

でも夢じゃない。肌に触れるペンダントの感触が、それを教えてくれる。


(そういえば、理亜とかすみに報告しないと・・・)


 どんな反応をするだろう?

ちょっと緊張するが、反応が楽しみではある。

この修学旅行は、私にとって忘れられないものとなった。

かすみとより仲良くなれて、理亜の過去を知り、そして桜木君と・・・。

空を見上げる。

そこに独りぼっちだった頃の気持ちはどこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ