修学旅行①
「気を付けてね」
「うん、じゃあ行ってきます」
修学旅行当日の朝。
お母さんに見送られ、予定通りの時刻に家を出る。
荷物の確認も三回くらいしたので、忘れ物はないはずだ。
足取りも軽く学校に向かう。
学校の行事がこんなにも楽しみなんて何年振りだろう?
校門が見えてきて腕時計を確認すると、出発時間の30分ほど前だった。
さすがに早く来すぎたかと校門をくぐると、校庭にはすでに結構な数の生徒がいた。
その中に理亜の姿を見つけて駆け寄る。
「おはよう、理亜。皆結構早いんだね」
「おっはよ、麻里。あはは、昨日興奮してあまり眠れなかったんだよね」
苦笑いしながら答える理亜。
「理亜も?実は私もなんだよね」
「じゃあ今ここにいる人は皆そうなのかもね」
さすがに全員ではないだろうけど、なるほど、と納得してしまう。
5分くらいしたところで白河さんも来た。
「おはよう、二人とも早いんだね」
「「あはは・・・」」
私と理亜は顔を見合わせ、苦笑いする。
当然、白河さんは不思議そうな表情になるが、その理由を理亜が説明した。
「なるほどねー。理亜はともかく、芳野さんまでとはちょっと意外かも」
「かーすーみー。私はともかくってどういうことー?」
理亜は冗談っぽく、ふてくされた表情で問い詰める。
「あちゃー、聞こえちゃってたか。でも実際理亜って、翌日楽しみな事があると眠れないタイプなんじゃない?」
「う・・・」
図星なのか、何も言い返せず押し黙ってしまう理亜。
「まあまあ、それだけ理亜は素直ってことじゃない。あ、出席確認したらもうバスに入ってていいみたいよ」
白河さんの言った通り、数人の生徒が校門の外に待機しているバスに向かい、歩き出した。
私達三人も先生に出席報告してバスに向かう。
すると、ちょうど校門に入ってきた桜木君と足立君の姿が見えた。
二人ともこちらに気付いたらしく、軽く手をあげて近づいてくる。
「おっす、今日はよろしくな」
「おはよう。料理は苦手だから頼りにしてるよ」
「おはよう、お二人さん。こちらこそよろしくね」
一番前を歩いていた白河さんが二人に挨拶をして、私と理亜もそれに続いて挨拶する。
今更だが、学校に私服でいつものメンバーと顔を合わせるのは新鮮に感じる。
「じゃあ私達、先にバス行ってるねー」
理亜が手を振り、再びバスに向かう。
足立君の荷物がやけに少ないのが少しだけ気になった。
バスに乗る前に大きい荷物をバス横の荷物入れに入れる。
そして私は手に持った小さいカバンから酔い止め薬を取り出し、忘れずに飲んでおく。
その様子を見ていたのか、理亜が声をかけてきた。
「麻里、乗り物酔いしやすいの?じゃあ窓側の席座っていいよ」
「あ、気使わせてごめんね。小さいときと比べたらだいぶ良くなったんだけど、山道走るから念のためね」
バスに乗り込み、少しすると続々とクラスメイトが乗り込んでくる。
15分ほど経ったところで全員集まったらしく、点呼をして最終確認を取る。
目的地までは約2時間半。
バスのエンジンがかかり、いよいよ出発だ。
窓から見える景色がゆっくりと動き出し、二泊三日の修学旅行が始まりを告げた。