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サクラユキ  作者: えるす
14/23

桜の木の下で

 午前10時過ぎ。

10月だというのにじんわりと汗をかきそうな陽気の中、家を出てバス停へ向かう。


(芳野さん、来てるかな・・・)


 昨日は出来たら行くと言ってので、来るとは限らないし、来たとしても何時に来るかわからない。

会えるといいな、そんなことを思いながら歩を進める。

バス停に着き、時刻表を確認する。


(あと7、8分か)


 誰も待っていなかったので、バスが出て行ったばかりだと思ったが、そうでもなかった。

休日もたまにバスには乗るが、ここから学校方面のバスは利用者が少ないみたいだ。

 数分待ち、時間通りに来たバスに乗り込む。

いつもはたまに座れる程度だが、今日は座席が選び放題だ。

座席から見える景色はいつもと同じだが、休日という空気が新鮮さを感じさせる。


 駅前に着いて、いつも通りの道で学校に向かう。

ちょっと歩いただけで、空調の効いた車内が少し恋しくなる季節外れの暑さ。

途中にあった自販機で飲み物を2本買っておく。

そして歩く速度を少し早めて、気を紛らわした。

 閉ざされた学校の正門前まで着き、立ち尽くす。

そういえば休日に学校なんて来ることがなかったので、何も考えてなかった。


(裏門なら開いてるかな?)


 そう思いつき、再び歩き出す。

よく考えたら学校自体に用事があるわけではないので、別に入る必要はない。

とりあえず、外から校舎裏とその近辺の様子だけ確認できればいいのだ。

 校舎裏の近くまで来ると、学校のフェンスと反対側の壁際に見知った顔があった。

芳野さんだ。向こうもほぼ同時にこちらに気付き、声をかけようとしたら芳野さんは人差し指を立てて、静かにしてほしいことを伝えてくる。

銀が近くにいるのだろう。無言で芳野さんのもとに向かう。


「芳野さん、銀はどこにいる?」


「来てくれたんだね。うん、あそこ」


 芳野さんは校舎裏のほうを指さすが、見当たらない。

すると直後、銀らしき猫が壁の隙間から飛び出てきた。

そして二人で尾行して、150メートルくらい歩いた先に現れた神社に銀は入っていった。


「ここが銀ちゃんのおうち・・・なのかな?」


「そんな感じだね。やっぱり野良猫っぽいなあ」


 二人とも周りを見渡して確認し合う。


「それにしても、こんな所に神社なんてあったんだね。学校から結構近いけど全然知らなかった」


「芳野さんも?俺も知らなかったよ。あ、そこちょっと座ろうか?芳野さんはコーヒーより紅茶だったよね?」


 俺は来る途中で買った、紅茶とコーヒーをカバンから取り出した。


「あ、ありがと」


 近くにあったベンチに座り、二人で飲み物を口にする。

この神社内は四方に木々があるおかげで、日陰で覆われている。

鳥のさえずりも相まって、とても心地良い。


(・・・)


 会話がないまま3分くらい経っただろうか?

不思議とここにいると時間の流れが緩やかに感じられる。

芳野さんも黙ったままだが、チラっと横目で表情を窺うと、気まずいという感じではなさそうだ。


「さて、銀もしばらく起きそうにないな。ここが寝床っていうのも間違いなさそうだし、どうしよっか?」


「うーん・・・もう少しここにいたいんだけど、ダメかな?」


 芳野さんの意外な言葉に、驚きと嬉しさが入り混じる。


「え?芳野さんがよければ大丈夫だけど・・・」


「うん、ありがとう」


 そう言って再び沈黙の時間が始まる。

風が少し強くなり、木々が揺れる音と鳥のさえずりが、より心地良いハーモニーを奏でる。


(実はさ、俺も同じこと思ってた)


「え?」


「ん?いや、それにしても銀はいい場所に住んでるんだなってね」


 平静を装い、咄嗟に思いついたことを口に出す。


(やば。俺、声に出しちゃってたか?)


「そうだね。こんな心地いい場所にいたら、お昼寝したくなっちゃうよね」


 優しい声で空を見上げ、目を細める芳野さんの横顔に思わず見入ってしまう。

しばらくして、何かに気付いたように腕時計を確認した。


「あ、もう結構時間経っちゃってる・・・付き合わせちゃったみたいでごめんね」


「全然大丈夫だって。こちらこそ今日は来てくれてありがとう。銀のことはまた来週、白河さんと相談しようか?」


「うん、それじゃあまた来週、学校でね」


 お互い手を振り、芳野さんは神社をあとにする。

銀のほうを見ると、相変わらず夢の中だ。


(銀のおかげでいい時間過ごさせてもらったから、今度ちょっといいご飯買ってきてやるかな)


そんなことを考えながら神社を出ようとしたところ、樹の幹に巻かれた表示に目が行く。


(ヤマザクラ・・・へぇ、これ全部桜だったのか。満開の時に来たら綺麗だろうなあ)


 桜の見頃までまだ半年くらいあるが、なんだか今から楽しみになってきた。

外に出たあと一度振り返り、気分よく神社を後にした。

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