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サクラユキ  作者: えるす
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4月①

スマホや携帯電話を物語に出したくなかったので、90年代前半をイメージして書いています。

誤字、脱字、文法の誤りがあれば、指摘していただけると幸いです。

 四月初旬。

高校二年生となった始業式の日、去年と同じような鬱な気分でいた。


(なるべく「ハズレ」が少ないといいな・・・)


 そんなことを考えながら、掲示板に貼られたクラス表から自分の名前を探す。

芳野麻里・・・あった。最初に確認したA組の中に自分の名前を見つけた。

他の名前を確認していると、一年の時と同じクラスの名前を数人見かけたが、特に親しい人がいるわけでもないのでそこまで気には留めない。

問題は「ハズレ」がいるかどうか、だ。

全て確認し終えて、自分の知ってる範囲でそれは見当たらなかったので少し安心する。


 できるだけギリギリの時間になってから自分の教室に移動し、黒板に書かれていた席表を確認して着席する。

私が最後かと思ったが、程なくして最後とおぼしき人が入室してきた。

 五分ほど待ったところで担任の先生がやってきて簡単な自己紹介と挨拶があり、生徒も教壇の前に出て自己紹介しろとのこと。


(ああ、煩わしい・・・)


 この学校では恒例なのだろうか?去年も同じことをやらされた。

当然ながら周りからは批判っぽい悲鳴があがるが、そんな雰囲気もお構いなしに先生は出席番号順に出るよう促す。

 名前を言ってから「よろしく」等の簡単な挨拶で次々と自己紹介が進む。

男子から始まったので、私はどうやら最後みたいだ。

最初よりは断然いいけど、最後というのもどうも気分が悪い。

 そして私の番が回ってきた。

教壇の前に立ち、声を発すると同時に私はチカラを使う。

人の心、感情を知る力。

はっきりといつから、という記憶はないがこの力に気付いたのは中学三年になる前の春休みだった。


 人見知りが激しかった私は中学生になってから陰口、いじめ等、人の醜い部分を何度か目撃し、より人と接するのが苦手になった。

人の心が、考えが分かればいいのに。そうすればどういう言動をしたら相手を不快になるかがわかるし、自分が被害者にならずに済む。

いつしかそう強く思うようになっていった。



 しばらくして不思議な夢を見た。

靄がかかったように視界がぼやけているが、辺りは薄桃色だ。


(これは・・・桜?)


 何やら白い雪のようなものもちらついてる。それよりも見覚えがない景色だった。

夢は記憶を整理するために見るらしいので、自分が行ったこと、見たことがない場所が現れるものなのだろうか。

 声だけが聞こえる。

男の人の声だというのはわかるが、途切れ途切れではっきりとは聞こえない。


「・・だ、、めだ!そ、、な、心、、チカラ・・・求め、、ちゃ・・・」


 この人は誰?

それよりもなんでその事を知ってるの?

私はチカラが欲しい。人の心が分かればきっと、今より学校生活が苦痛でなくなる。

だから・・・邪魔しないで!


 その夢のあと、たまに妙な体験をするようになった。

頭の中に直接声が響くのだ。


『なんなのあの子、ホントむかつく!』


『あいつなんか死ねばいいのに!』


『何やってんだあの野郎!』


 聞こえてくるのはほとんど負の感情だったが、稀に幸せな感情も聞こえた。

本当に心の声が聞こえるようになった?

数回体験したあと、人の多い商店街へ出向き、意識を集中してみると騒がしいくらい色々な声が聞こえてきた。

間違いない。私が望んでいたチカラを本当に手に入れた!

何年振りだろう、こんなわくわくした気持ちになったのは。

 

それから春休みの間、この力を何度も使ってみていくつかわかった。

対象人物の距離の近さ、感情・想いが強いほど大きくはっきり聞こえるし、意識しなくても聞こえてくる。

意識を集中すると割と細やかな心の声や感情も聞こえる。

犬や猫等、動物にも試してみたがどうやら人だけにしか効果はないみたいだった。

でもこれで中学最後の一年は、平穏無事に過ごせそうだ。

この時はそうなるものだと信じていた・・・。


 中学三年。

私が思い描いてたとおりに学園生活を送れたのは、せいぜい数週間だった。

人の心を読むことが当たり前になり、できるだけ良くない感情や声が聞こえる人には近づかないよう立ち回る。

しかしそれは心で思ってるだけであって、表面上は仲良くなろうとしたりするのが人間だ。


「芳野さんだっけ?よろしくね」

『うわー、この子暗そうだなあ』


 あまり好ましくない人物に話しかけられた時、私は精一杯の作り笑顔で対応したが、相手から嫌悪感が大きくなるのが聞こえるときもあった。

そういうことが続くと教室にいるのが苦痛になり、授業中以外は外で一人になることが多くなる。

そうすると良からぬ心の声が聞こえ、ますます孤立する。まさに悪循環だ。

 心を読み、行動することでなんとか直接的ないじめや嫌がらせに遭うということは避けられたが、私は中学三年、高校一年の二年間を孤立して生きてきた。



 ______私は教壇の前で自分の名前を発する。


『結構可愛いな』


『おとなしそうな子』


『真面目そう』


 聞こえてきた心の声にそこまで悪いものはなく、少し安堵した。

人の印象は五秒ほどで決まると聞いたことがある。

私の場合、その場で相手の印象を知ることができるので、恐ろしくもあるがその後の立ち回りを考えると便利でもある。

 席に戻り、プリントが数枚配られる。今後の行事日程や時間割だ。

その後、先生から一言二言あり、その日は終了となった。


 とりあえず初めて見る人の中にも、明らかに「ハズレ」と思われる人物はいなかったが油断はできない。

なにしろ私にとっては、ほとんど全員が猫を被ってるようなものだ。

今までの二年間と同じように、できるだけ交流を避けて過ごそう。

そんなことを思いながら帰宅の途についた

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