悪役令嬢の取り巻き、解説をする。
この光景は・・・間違いない。
断罪だ。
と、いうわけでどうも皆さんこんにちはこんばんは。
某乙女ゲーム、元悪役令嬢取り巻き役のメアリー・ベニアリーです。実は私いわゆる転生者と呼ばれるやつでありましてですね。
「このままじゃやべぇ!」と弱冠3才にして思い立った訳でしてその日から出来るだけ主要人物に近寄らないように生活を続けてきたわけでございます。
喜べば良いのか悲しめば良いのか、なにせ私はいわゆる主人公気質といいますかカリスマのようなものは持ち合わせていないので彼らに極端に目をつけられることもなく卒業前の今日この頃まで完全にゲームとは離れた貴族生活を送ることに成功しております。
しかしながら冒頭でお話しした通り今目の前で断罪、つまりエンディングが開始されようとしているのです。なぜか卒業式で行われるはずのものが食堂で。
まぁ冷静になって考えると卒業式はこの国のお偉いさんが集いに集っている場ですからそんなところで断罪などどちらにとっても傷が深すぎるため現実的ではないと言えるでしょう。ですがこの食堂という場所にもご飯時ということもあってか人数ははっきりと公の場であると言える程度には集まっています。しかしなんだってこんなところで。
「コリン・アクリーフ。君は彼女に何度も何度も繰り返しいじめを行ってきたそうだな。」
何だか王子~!って感じのオーラを纏っている王子が話を切り出しました。
何度か聞き覚えのある台詞を吐く王子からすでに私の興味は目の前にある料理に向かっていたのですが、目線を料理に戻すまでの間に何やら面白いものを見つけました。
机を断罪シーンに向けて正面にしたうえでなにやらぶつぶつと呟いている怪しげな男子生徒。まるで実況席のようです。
スッと席をたちその生徒の近くによると、
「さあ始まりました。第一回チキチキ婚約破棄ゲーム!実況は私ソワル・カントリア」
という内容が聞こえてきました。このあと私が何をしたかなんて皆さんもうお分かりですよね?
「解説は私メアリー・ベニアリーでお送りします。本日はよろしくお願いします。」
参加してみた。おあつらえ向きに隣に一席空いていましたしどう考えてもここは解説が必要な場面であると考えたからです。
いきなり隣に座られ独り言に割り込まれた生徒は一瞬だけ私を驚いたように見た後
「よろしくお願いします。突然で申し訳ないのですが本日の見所はどこになっているでしょうか。」
と、返してきた。こいつやりおる。
「そうですねぇ。やはりどうやってあのコリン様を切り捨てるのか。そこが見所ではないでしょうか。」
お互いに恐らく初見である私たちだが驚くほど波長のあった実況解説を繰り広げていくのであった。
~
「さらにこんなに多くの証言がある。」
王子オーラをピカピカと放ちながら話している王子。
「さあ言い返してきたコリン様に対して余裕の表情!大量の証言を集めてきたようですね。」
「これは殿下うまいですね。最初はなぜこんなところで断罪を行う必要があるのか疑問だったのですが、どれだけ不確かな噂であってもこれだけの人数に王子という立場もあわせて話すとなれば嘘も事実もいっしょくたになるというわけですね。」
「なるほど。確かにそうですね。私もどの情報が正しいのかよくわからなくなって参りました。」
「えー、あくまで私個人としての調べではありますが今言われているいじめ自体は確かに全て行われたものです。しかしその中でコリン様が関与しているものは一貫して身体にダメージが入らないようになっていますね。」
「ほう。それは興味深い内容ですね。一体何故なんでしょうか。」
「彼女は幼い頃からのネグレクトに躾という名の拷問などさまざまな家庭問題を体験したことにより、傷というものに恐怖心を抱くようになっています。また今回のいじめに関しても自分を結果的に助けてくれた殿下に甘えたいという感情が暴走した結果でしょう。」
軽快に実況を進める私たち。私も前世の記憶と今世の記憶の両方を総動員して解説を行っています。
「家庭環境の問題ですか。おや、どうやらコリン様が動揺しているようですね。やはりこれだけの証言となれば厳しかったか!?」
「そんなもの証拠になりませんわ!」
非常に整っているのに何だか悪そうな顔立ちをしているコリンさんがそう言い返した。
「しかし直ぐに立て直した!」
「悪くないですね。若干必死そうな所がマイナスですがこの場で証言が証拠として働くことを許してしまえば本当にどうしようもなくなってしまうかもしれません。」
焦ったような表情を浮かべていたコリンさんが微妙な表情に変わっていますね。なにか思うことでもあったのでしょうか。
「学校中の生徒に私と彼女で質問した結果だ。十分に証拠になり得るだろう。」
「いやー私の所には来てませんしこの場にも聞かれてない方って多いんじゃないでしょうか。ここは『君のまわりにいた令嬢達が全て話してくれた。』みたいなこといっておいた方が先程言った通り人に飢えているコリン様としては牙を抜かれる一撃になったのではないでしょうか。」
「私の所にも来ていませんね。それにしても取り巻きをうまく使うんですね。権力をちらつかせてやれば確かに後からでも味方側に付きそうな感じがいたします。おっと、殿下どうした?なにやら小刻みに震えています。」
あ、ほんとですね。いい観察眼をしています。心なしか王子オーラもおうじ~んって感じになってます。
「もういいです。こんなことはやめましょう?」
なんかふわふわしてるカワイコちゃんが甘い声で言っていますね。
「さぁ、出ましたシアラさんの甘え攻撃!平民上がりという立場を乗り越えた愛を求める殿下にこの甘えはクリティカルヒットか!?」
「しかし、この場で止めても無駄でしょう。始める前から止めるようにいっていたのであれば殿下が話を聞かなかったことになりますが。しかしなぜ殿下は婚約破棄などという遠回りな方法を選んだのでしょうか。」
「そこは私も疑問に思っていました。わざわざそんなことをしなくとも貴族、それも王族となれば妾を作ることはよくある話だと思いますけれど。おや?シアラさんが少し反応しましたね。こちらには聞こえませんでしたが何か話し合いが行われたのでしょうか。突然考え込むようなポーズをとっていますね。」
急にどうしたのでしょうか。
「いや、だがあなたに危害を加える彼女を放置するわけにはいかない!」
「このままだと何をしてもシアラさんに危害を加えられてしまうのでそこから守るため、なのでしょうね。軍師でもないコリン様が全ての作戦指揮をしていると思っているのでしょうか。」
「先程のメアリーさんの話によるとわりと過激なものは全てまわりの犯行であるという話でしたよね。下手すると誰かが毒でもいれて罪を擦り付けるつもりだったのかもしれません。」
「あり得る話ではありますね。実際今断罪が行われているわけですし。仮に殿下の言葉通りにするのであれば大粛清が始まってしまいかねません。」
「おや、少々騒がしくなりましたね。何かあったのでしょうか・・・あ。」
あ、王子思いっきりこっち見てますね。あ、コリンさんも。どうやら少し声が大きくなってしまっていたようです。このざわめきはもしかして粛清の話でしょうか。余程のことがない限りそんなことは起こらないと思うのですが。
「あなたたちは何者よ!」
「君達は一体なんなんだ?」
見事に重なった声でこちらに問いかける二人。息が合っていますね。因みにシアラさんはいまだにうつむいたままです。
「どうも、あなたってなんかそこら辺にいそうよねランキング二年連続3位のメアリー・ベニアリーです。女子の部においての1位はいじめ票なので実質2位ですね。本日は解説を勤めさせていただいております。」
「どうも、お前ってなんか名前出てこないよなランキング第4位を獲得しましたソワル・カントリアです。同じく実況を勤めさせていただいております。」
立ち上がって礼の体勢をとる私達。散々言ってきた私達ですが、目の前にいるのはこの国の王子とその婚約者。当然敬意を示します。
「な、なによそれ!?初耳ですわ!!」
「安心してください。コリン様は最下位ですよ。」
「ほっ。じゃなくて!あなたたちはさっきから何をやってるの!?」
怒られた。質問に答えただけなのに。恐らくは人と関わる機会が少なかったのでコミュニケーションに慣れていないのでしょう。
「私からも聞こう。何をしている?」
改めて考えると皆わたくしとかわたしとか言うせいで一人称で誰が誰だかわかり辛いですね。今のは王子です。
「実況をしていただけなのですが、何か問題がありましたでしょうか。」
まぁ大有りでしょうね。ですがここは押せ押せです。
「解説をしていただけなのですが、何か思うところでもあったのでしょうか。」
「ねぇ!彼はともかくあなたは煽ってるわよね!?あったけど!何でそれ知ってるのって情報がボロボロ出てきて滅茶苦茶動揺したけど!」
あら?何で私にこんなに絡んで来るのでしょうか。もしかして王子がだめだからって私を・・・?
「なに体抱えながら恥ずかしそうな顔してるのよ!?だからって急に真顔にならないでよ!ああもう、ツッコミが間に合わない!」
なんてね。こうやってみるとからかい甲斐のある面白い子です。
彼の方も王子をうまいこと手玉にとってますね。向こうはガチ説教風ですか。
「さあ、食堂は混沌を極めています!一体どうしてこんなことになってしまったのか!」
「間違いなく彼等のせいでしょうね。ただでさえ卒業前で忙しい所に婚約破棄となればこうなるのも道理といえるでしょう。」
「あんたらのせいだー!!!!!」
~
後日談ではあるがこの一連の騒動は実況解説事件として語られることになる。また彼等は見た目と声に反して結構まともだった(本質的な話そうじゃなきゃ入学できない)シアラさんとコリンさんの和解もありなんだかんだうまくやってるらしい。
尚実況の彼は案外大物で、親交を深めている内に様々なイベントに巻き込まれていくことになるだなんてこの時の私は考え付きもしなかったのだった。
・・・そんなことを言っておけばこの話も連載になるのではないか、と思ったのでとりあえず言ってみた私であった。
メアリー・ベニアリー
転生者。元々はコリンの取り巻きになるはずであったキャラなのだがコリンとの初顔合わせの時、メアリーがあまりにも内気な少女であったためそうはならなくなった。そのため今回の件で一番びびってるのはベニアリー家の関係者。
よくある転生したから出来るだけ関わらないようにしよう。に学校が終わる寸前まで成功していた。周囲からの評価は1に内気な子、2になに考えてるかわからない子。個人的に情報屋を何人も雇っており学校の有名人のデータであれば基本的に解説できる。あなたってなんかそこら辺にいそうよねランキング二年連続3位の実績をもつ。
ソワル・カントリア
親が転生者。ゲームでは登場しないはずのキャラだが両親が色々やったことにより入学することになった。優れた観察眼を持っており、実況にもいかされている。なんかイベントが始まったからノリで実況始めたら乗ってくるやつ、それも初見の令嬢が来て内心めっちゃびびった。メアリーとは中高生のようなテンションとノリと時折入る謎の冷静さという部分で馬があった。お前ってなんか名前出てこないよなランキング4位を獲得している。
王子
王子。王子っぽいオーラを纏っている。実際ゲームじゃ人気だった。名前は考えていない。
正義感が強い人なのでいじめとか許せないし妾とか発想なかったしメアリーの発言を聞いてドン引きしたりしている。また、コリンを婚約者にしたのは彼女のすがるような目線に答えてあげたかったから。ただ純粋にシアラのことを愛しておりちゃんとアドバイス受けて場所変えるとか出来る人。案外冷静さは保ってる。
また結構裏で色々とやってる苦労人だったりもする。
コリン・アクリーフ
王子の婚約者。作中でも語られたが結構かわいそうな人。幼い頃から虐待三昧でまともに取り扱ってもらえず心身共にボロボロの頃に王子に出会い救われる。恋愛と友情と親愛と依存がごちゃごちゃになった感情を抱いている。今回の件を境に彼女の人生は一気に明るく変わることとなる。なにせ幼い頃から人と関わってこなかったため色んなものを自己完結させがち。メアリーによく遊ばれるせいでツッコミスキルが成長している。
シアラ
転生者。見た目も声もふわふわしてる天然系のめんどくさいやつかと思いきや結構まともだった。転生者とはいえ推しとか立場を狙ったものではなくこの世界に来てから王子に惚れた。
わりとガッツリいじめを受けていたが友人もいた。王子に卒業式でやるなんてバカなのかと場所を変えさせたりしてる。転生者であるがために妾という発想が思い浮かばなかった。聞いた瞬間あれ?それでよくね?ってなった。あなたってなんかそこら辺にいそうよねランキング殿堂入りを果たしている。