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能力の代償  作者: Xeno
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乱歩という男

…暗い部屋ーーーー。


意識が曖昧で、目を開けているのか、はたまた夢の中なのか区別がつかない。






只、一つだけ分かることがある。

コランダムの身に危険が迫っている可能性がある。

コランダムを…助けなければ…。















「…う様! お父様ったら!早く起きてくださらないと、折角の休日の朝ご飯が冷めてしまいますわよ!」


暖かいベッドに、暖かいコランダムの声。遠くからは焼けたトーストの香り。

こんな日常を、世間では幸せと呼ぶのだろうか。


ーあぁ、コランダムか。

元気だったかい…?


「何を寝ぼけていらっしゃるの?朝起きたらまずはおはよう、ですわよ!」


ーコランダム、私はまだ眠っていたいのだ…。

もう少し、眠らせておくれ…。












「…兄ちゃん?あ、やっと起きた。大丈夫かい?随分と魘されていたが…。」


状況を理解するのにさして時間は必要なかった。

冷たい床に、冷たい鉄格子。ベッドなどというものは用意されておらず、ただ床に便所がくっついただけの狭い個室。その空間にいるだけでどんどん寿命が削られていくようなひどい匂い。


そんなことよりも、夢でコランダムに会うとは…随分私も趣味が悪い。


「すまない。起こしてくれてありがとう。」

鉄格子の隙間から見える鉄色の世界には何人か人がいた。

その中の、1番関わりやすそうなやつに声をかけられていた。

いや、そんなことを考えている暇はない。

さっさと刑期を終えて、コランダムのところに戻らなければ。

「なんて事無いさ。それより、兄ちゃんは新入りだね。それじゃあ…今日はアイラかな。ところで兄ちゃん、名前は?」

「オリバーだ。」

アイラ…?

ここの囚人だろうか。

「うん、いい名前だ。ここの国の人は良い名前の人が多い。僕は、乱歩だ。遥か東の島国から来た、名探偵だ。」

名探偵とは…そう言われれば、来ている服がここら辺の者のものではないな。

ところで、アイラって誰だろう…。

「あぁ、アイラのことかい?アイラは親友を抱いた男を片端から殺してここに来たんだ。恐らく、親友さんはアイラがそんな趣味をしているだなんて思わなかったはずだ。」

少し考え、もう一度乱歩の方を見る。

「ほぉ…つまりアイラさんは親友のことを愛していたが故に人を殺したんだな。だれにも取られまいと…。」

「ご名答。」

男は自慢げに顎を触る。

ここには訳アリの囚人が来るのか…。

…ん?

「君、さっき今日はアイラかな、と言ったね。つまり昨日もその前もあったのか?」

「あぁ。毎回恒例さ。新人が入れば誰かが死ぬ。ここの常識だから覚えておいた方がいいよ。」

「死ぬ…死ぬってどういうことだ!?ここからもう出られないのか!?」

必死になって食らいつく。当然だろう。

これからコランダムに会うことはもうないのか…!?

「いや、正式には違う。御所望の外にも出れるよ。」

良かった…

「外に出られるのは、処刑の時だ。因みに、そっち側の窓から処刑台が見えるよ。そこから存分に楽しむといい。」

…は?

処刑の時…?

楽しむ…?

この人は何を言っているんだ…?

「ま、気にする事はないさ。日常茶飯事だからね。」

この男は人の死をどうでもいいと思っているのか…?

「あぁ、お説教は嫌だよ?次に君が言う言葉を当ててあげるよ。『莫迦な。何故それを知っている。』だ。」

「…。」

完全に莫迦にされている。

「お、黙り込むか。いいだろう。次は君がここに来た理由を当ててあげよう。うーん…。」

暫くの沈黙を破り、彼は口を開けた。

「ーーーーーーだね。」

「莫迦な…何故それを知っている。」

「あ、当たった!やっぱり僕の予言は当たるんだ。」

この男は何かを知っている。知っていなければ、あんな情報、何処から…。

「あくまで、全部推測だからね。あんまり宛にされると困っちゃうなぁ。」

推測…か。

この男は面白い。


そんな雑談をしていると、どこからか足音が聞こえる。


かっかっかっかっ…。


まるでさっきまでの話し声がなくなり、ここには誰もいなかったかと思わせる静寂。

さっきまで五月蝿かった乱歩が急に黙り、床に寝転がる。


「…僕は…彼女に…✕…よ…」


静寂を破ったのは、乱歩だった。

なんと言ったか…よく聞こえなかった。まぁ、後で聞けばいいか…。


「アイラ、行くぞ…。」

アイラという名前。彼女は、私が来たせいでここで首を真っ二つに…。

鳥肌、嗚咽が重なる。

再び足音が歩き出すまでは時間がかからなかった。

ここの囚人は…命乞いをしないのか?

何故…生きようとしないのだ?

「その答えは、君なら直ぐに分かるはずだよ、オリバー。僕らがここで死にたくなる理由…。」

人が死んでも良い理由なんてない…。

死んでもいいのは…アイツらだけだ…!!

「そう。それが君の答えだ。人間というものはね、人に生きろと言われなければ生きて行けない。たとえ1人に死ねと言われれば、その人間は生きる価値を見失い、『生きる』を諦めるのだ。君ならよくわかるはずだが…?」

今までの能天気とは違う。まるでさっきまでとは全くの別人みたいだ。強い殺気。生きることへの憎しみ…。すべての負の感情が、今の私の胸には深く刺さった。

「生きることを…諦める…。」

「そうだ。例えば…君の場合、娘に死ねと言われても、それでも尚生きる勇気が君にはあるのか?」

生きる…勇気…。




ザクっ




外から、ものが落ちる音、液体が流れる音。そして、それを見て喜ぶ客。


この世界に…希望はないのか…?

私はまた、『アレ』を繰り返さなければいけないのか…?

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