2人の共通点
「俺の家までは少しばかり遠い。荷物は最低限にと言ったが…まだ少し早かったか。」
ぎゅうぎゅうに詰まっている鞄を見て、カンダールはもう一度オリバーの家に戻る。
「いいの。これだけあれば、私は一人で生きれるから。18歳になったとき、これだけあれば…。」
カンダールはふと気が付いた。
「そういえば…コランダム、君は前まではお嬢様口調ではなかったかい?」
「それは、お父様の前だけ。お父様はいつも疲れていらっしゃるから、私がその疲れを癒してあげようと考えて、その口調をしているだけ。本当はそんな言葉使いたくないけれど。」
「ほう、これは驚いた。まだ幼いのに我慢ができるのか。しかも人格を操るなんて。」
コランダムは不快そうに返す。
「人格を操るなんて言い方はやめて。私はそんなに立派じゃないし、第一私はそんな能力じゃないの。」
カンダールは少し驚いた。『私はそんな能力じゃない』とコランダムは言った。つまり他の能力を持っているのだろうか。一体オリバーは何を教えてきたのだ…。
「コランダムは…なにか能力を持っているのかい?」
「ええ。」
カンダールは興味本位で聞いたが、まさかそんな答えが返ってくるなんて。
私たちが云う能力とは、10人に1人ほどが持っている、ごく普通と云えば普通な能力である。能力を持っていない者は、基本的に奴隷や穢多、非人の部類に入ってしまう。つまり、生まれた頃からその人の人生は大きく左右するのだ。能力によっては自ら損になるものもあれば、自分の思い通りになるものもある。通常は成人してから能力が発動することが多いが、100人に1人ほど異型がおり、生まれつき能力を使うことの出来る者がいる。コランダムはその1人なのだ。また、能力者は全員、代償を伴う、声を代償に能力を受けるものもいるのだとか。
「コランダムの能力は何なのだ?」
コランダムは少し困った顔をした。当然だろう。能力にはそれぞれハンデがある。人によっては能力を誰かに見られたり知られた場合、能力が永遠に自分に戻ってくることがなくなってしまう。
相手が自分の能力と反対のことをするとハンデと見なされる。つまり、前例の場合の能力は恐らく相手の心を読むといった内容だろう。
「ああ、言えないのならいいんだ。」
「…別にいい。ハンデじゃないから。多分。」
「私の能力は『心鬱言葉』(しんうつのことのは)。自分の発言で相手の心を撃つ能力。」
「ほう。これは驚いた。なんと心理操作の能力か。私も長い間研究してきたが、精神操作と心理操作の謎は多い。」
そう。昔から精神操作と心理操作の能力は忌み嫌われてきた。詳しいことが分からず、解除することが困難であるからだ。
「…でも…ハンデが分からないの。今まで、いろんな人に心を撃たれてきた。でも、能力は無くならない。どうしてなの、おじさん。」
「君は…自分の能力が要らないのかい?」
「…欲しいと思ったことは1度もなかった。寧ろ邪魔。友達は私の能力を気味悪がって近づかない。発言すれば皆賛成しちゃう。私以外の人の意見を聞きたいのに、皆黙っちゃう。コールが決めればいいじゃないって。私だって、誰かに否定されたい。皆の意見に賛成したい。」
「…そうか。それは大変だったね。ハンデというのは、能力者がその能力を欲し、更に相手にその反対のことをされると発動されるんだ。君は能力を欲していない。それに、君はまだ幼い。能力を使い慣らすにはまだ時間が必要なんだ。その間に、充分良い体験をするといい。おじさんも、能力者だからね。」
…っしまった。
「おじさん、能力者なの?なんの能力?」
「…私の能力は大したことじゃない。ただ少し、透明になれるだけだ。」
「凄い!おじさん、御伽噺に出てくるあの赤い女の子みたい!ほら、西の国からやってくる赤い服を着た女の子!」
興奮したコランダムを横目に
「…誰のことかな。」
コランダムは私が描いた本だということを知らないのだろう。
全く恥ずかしい。
ノリで描いて出版したものが、こんなにも有名になるなんて知らなかったのだから。
オリバーのやつ、さてはわざと…。
「あの女の子はね、最後は透明が出来なくなっちゃって、ロードマーマス城に潜り込んだまま処刑されちゃうんだ…。悲しいね。」
「…すごく悲しいお話なんだね。」
「ねぇ、ロードマーマス城に行ってみようよ!」
…へ?
「ねぇねぇ、本当にあるんでしょ?行こうよ!」
「い、いやでも遠いし…」
少女の光り輝いた眼は美しく、まるでさっきまでの瞳の色と真逆の色になったような。コランダムの名前にピッタリの色をしていた。
私はそんな彼女に…負けてしまった。
「分かった。今度行ってみようか。あそこの近くには美味しいお店がいっぱいある。折角だからそこも行こうか。」
彼女は手を大きく広げ喜んだ。