カンダールの迎え
扉を開けると絶望の色をした瞳の少女が1人、立ちすくんでいた。
テーブルには冷めきった紅茶。電気もつけずに、この少女は何をしていたのか。
聞くまでもないだろう。
これでも急いで来た方だが、少しばかり遅かったか。
「仕事が終わり次第、迎えにいくつもりだったが、かなり待たせたようだね。」
ー違う。彼女は俺を待っていたのではない。オリバーを待っていたのだ。
「さぁ、俺の家に荷物を運ぶよ。荷物はまとめてあるかい?」
「…私は此処で待ってる。だから、おじさんは帰って。」
…これは困った。そうなる予感はしていたが、これも仕方が無いことなのだろう。
「でも、オリバーが俺の家に行けと言ったのだろう?」
「だって…お父様が帰ってきた時に、この家にいなかったら寂しいよ。」
「俺はそうは思わないな。オリバーは俺の家に行けと言ったんだぞ。君が俺の家にいると信じてい出ていったんだ。帰ってきた時に君がこの家にいれば、オリバーはきっと失望する。」
「なんで失望するの?」
「コランダムが聞き分けの出来ない子だと思うからだよ。」
カンダールがコランダムの頭にポンと手を置く。それを払うように、コランダムは後に下がる。
「それでも、私は嫌。」
仕方がない。誰でも抵抗はするだろう。ならば…。
「…ならばこうしよう。君はまだ小さい。そんな小さい体で生活するのはきっと大変だ。だから、君が18歳になったらこの家に戻してあげよう。それまでは私が君を預かる。」
「…分かった。」
案外素直に聞き入れてくれたコランダムに感謝しながら、カンダールは部屋の中に入る。
コランダムの人形や服。カップなどをまとめる。
そしてカンダールは気付いてしまった。彼女はいつも1人だったのだ。まとめてみると、ほとんどがコランダムのものだ。いつも仕事で家に返ってこないオリバーだから、オリバーの私物はほぼない。あるとするならば、棚に置かれた仕事の書類や鉱石にまつわる本。それに、この金庫だけだ。
「コランダム、この金庫はオリバーのものだね?番号と鍵、何か知っているか?」
「…分からない。開けたのを見たことがないから、きっと私が寝たあとに開けているんだと思う。」
「そうか…。」
もしこの金庫の中に、オリバーが大切にしているものが入っているのならば、オリバーには申し訳ないが開けるしかない。
「そうだわ。お父様は私が寝たあとに日記を書いていると仰っていたわ。もしかしたら、日記が入っているかもしれない…。」
「なるほど、日記か。…明日にでもこれを鍵屋まで持って行って、開けてもらおう。オリバーのことが何かわかるかもしれない。」
しばらく荷物をまとめ、ようやく準備が整った。コランダムも部屋に飾ってあった家族写真を手に、家を後にする。