机の砦
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部屋の中はぐっしゃぐしゃに物が散りばめられていて、とても歩けそうにない。
そんな中ベッドの上で、頭の後ろで腕を組んで仰向けで寝ている少年がいた。
その少年、火野決流は今日の試合のことを思い出していた。
柊翔が使っていた必殺技〔疾走〕のこと。
(俺もあんな風な必殺技……)
最後らへん必殺技使っていた柊翔と互角並に戦えていたこと。
(あれはどうして……)
そう、自分でもわからないのだ。決流は必殺技なんて勿論使えない。
(それにあの時の鷺沼先生の言葉……)
勿論今日の試合には負けたわけだが、鷺沼は「私が勝たす」と言った。だから試合の後決流は問い詰めたのだ。そうしたら鷺沼はこう答えた。
「フッ。確かに勝たすとは言ったが、誰も今日勝たすなんて一言も言ってない」
そう言って副顧問とどこかに行ってしまったのだ。
(あれはどういう……まぁいっか。寝よっと)
決流は部屋の電気を消した。
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外も暗くなりもうそろ短針と長針が直角になろうとしている頃。
FGW部の戦闘会場の司令室。モニターに映る今日の試合のリプレイを観ながら、鷺沼と爺咲は顔を顰めていた。
「……何度見てもこの動き……」
「まさか……たまたまだろう。まぁ不良軍団を全滅させる程の運動能力の高さがあることは認めるが……」
「でも!……もし円崎先生が残したメッセージの人物なら──」
「──とにかく。しばらく様子を見よう。まぁその様子を見てる間に『GAME OVER』にならなければいいがな……」
「……」
その後、司令室には決流と柊翔の戦闘音が響き渡るだけでだった。
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次の日。
業後、決流はまた部活動体験の為、FG部の部室に行こうと思い、教室を勢いよく飛び出した。
その様子を椎崎は、どこかしら不安げな顔して見ていた。
走って走って部室の前に行こうとした時。部活の前の廊下で、決流の足は急ブレーキをかけさせられた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
目の前に立ちはだかる机の要塞。それが何重にも出来ており、決流の行く手を拒んだ。
「ど、どうなってんだ……!?」
「おー来たか雑魚」
「えっどこ!?」
「その目の前の机の奥だよ雑魚」
ちょっと反響して聞こえる柊翔の声。
机の隙間から奥の方を見ると、1番奥に机の上に足と手を組んで座っていた。
「な、なんでこんなことを!?」
「どうしたんだ火野。お前の声響いてるぞ──な、なんだこれ……」
その時、後ろの曲がり角から鷺沼が現れた。鷺沼もこの状況に驚いているようだ。そりゃそうだ、学校の廊下にこんなに机が砦のように並べられているんだから。
「丁度いいところに来たなせんせー?」
「白菜か。なんでこんなことをした?」
「あれれー?覚えてないんですか、せんせー?昨日試合に負けたじゃないっすか?それで負けたあんたらをこの神聖なFG部の部室に入れるわけにいかないんでね」
まぁ確かに昨日の試合は勝負を持ち掛けた側にも関わらず、圧倒的大差のボロ負けだった。勝った負けたでどうこうする話は出ていなかったが、柊翔達はこういう行動を取ったのだろう。
「えっなんで……」
「まぁただただこうしてるだけじゃつまんねぇから、新入部員10人連れてきたらこの机どかしてやるよ。1人増える事に1列ずつ減らしてやる」
しかし、この机の砦は11列ある。あと1列は……。
「そして最後。その10人集まったら、10 vs 10のFGWで勝負をしよう」
「ほう。FGWで勝負か。次は人数差無しの勝負ということだな」
「ふっ。そして、俺らが勝ったら2度とFG部に関わるな。お前らが勝ったら……俺らが出ていってやるよ」
「ほーう……それは面白い勝負になりそうだな。受けて立とう」
「それは嬉しいなぁせんせー。じゃあ期限は部登録の日までだ。待ってるぜ……せーんせ?」
柊翔が机から降りた音が聞こえるのと同時に、柊翔の声が遠くに聞こえて言った。
残された鷺沼と決流はしばらく沈黙の後、顔お合わせた。
「まずは火野。お前1人。あと9人だな」
「は、はぁ……?でも先生、昨日9人体験来たんですよ?あと1人じゃないですか」
☆☆☆
「だ、誰も来ねぇぇぇぇぇぇ!?」
机の要塞の前の教室。一応ここが仮のFG部の部室とするらしい。そこを捜査会議室みたいに机を並べ、前に鷺沼が座り、1列目に決流が座っている。教室の前には勧誘の張り紙もしてある。
しかし、決流以外誰も座っていない。
そう、つまりは誰も今日体験に来ていない。
これはどういうことであろうか。昨日来ていたはずの同級生は誰も来ていない。皆どうしたのだろうか。
しかしながら、先程からずっと鷺沼はパソコンを弄っているだけで声も発さない。
教室の中はパソコンのカチャカチャ音以外静まり返っていた。
「まぁ昨日の奴らが来ないのは無理がない。無理矢理俺が試合に出してしまったからな。来るとは思ってないよ」
「なっ!?じゃ、じゃあこのままどうするんですか!?」
「さぁな。まぁ俺は静かなところで仕事がしたかったから、丁度いい」
その言葉を聞いて決流は勢いよく席を立った。
その音は、さっきまで鳴っていたパソコンのカチャカチャ音を消し去った。
「あんた……ふざけてるんですか……」
「なんだ?聞こえない」
とても小さい小声だった。
「ふざけてんのかって言ってんだよ!俺はFGWがやりたくて、やりたくてこの学校に入ってFG部に入ろうと思ったんだよ!それなのに……それなのにあんたは……あんたは全くやる気がないじゃないか!このままじゃほんとにFGWができなくなる……」
その言葉と同時に、またカチャカチャ音が始まる。
「そもそもあんたはほんとにさぎぬ──」
「──だったらお前が部員を集めればいい」
エンターキーを押すような音が聞こえたのを最後にカチャカチャ音がまた止まった。
「俺はただの顧問だ。顧問がやることは部員を集めることじゃない。部員を育てることだ。部員を守り、部員がやりたいように部活をやらせるのが顧問の仕事だ……部員を集めるのは俺の仕事じゃない。お前の仕事だよ。火野決流」
「……っ!」
その時決流は自分の誤解に気付いた。確かに鷺沼の言う通りだ。決流は部員が来ず、自分がやりたいFGWがやれないのを鷺沼のせいにしている。自分にだって非はあるのに、人のせいにした。
(くそったれ……!)
決流は拳を握りしめ、勢いよく教室を飛び出した時。
扉の前に生徒が1人立っていた。
「し、椎崎守……だっけ?」
「は、はい!そ、その……あの……この前はありがとうございました!」
決流の教室を飛び出す勢い並の勢いで頭を下げた。
「い、いやいいっていいって。俺もちょっと喧嘩したかったっていうか、なんていうか……てか、そんなキャラだっけ?しかも関わるなって言ってきたの守のほうじゃ……」
「いえ、その、あの……私ほんとはこういう性格なんですけど……出願高校間違えちゃってここに入っちゃって……でもここって不良学校じゃないですか。わ、私も不良にならなきゃ友達できないって思って……それであんな感じに……」
「ふ、普通逆だろ……」
「え?」
「い、いやなんでもない!」
小声で言ったのがちょっと聞こえたようだ。危ない危ない。
しかしそんな子だとは思っていなかった。でも確かに最初に会った時はこんな感じで、次会った時からはなんか強気みたいだった。そんなことをしなくても友達の1人や2人できそうなものだが……。
「て、ていうかお礼を言いにここに?」
「いや、その……あの……じ、実は……」
ちょっと下を向いて顔を赤らめた後。
勢いよく顔を上げて目をかっぴらいて叫んだ。
「FG部に入部させてください!!!!!!」
「……え?」