顧問と部長!
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不良軍団をボコした決流は、あるものを探し回っていた。
実は今日から部活動体験というのが始まる。それぞれが好きな部活動のところに行って体験するというものだ。部活動体験は1週間で、その1週間のうちなら、1日ごとに部活変えようが、1週間同じ部活を体験しようが構わない。
決流はもう入る部活を決めていた。
そもそもこの学校に入学したのはその部活に入るためだからだ。
「すみません。ファイト・ガン・ワールド部ってどこでやっているか知りませんか?」
「なんだてめぇ。そんな部活しらねぇよ!さっさとうせろ」
道行く先輩に聞き回っているが、誰も場所を知らないようだ。
何故だろうと思いつつ次へと聞いて回る。
「すみません。ファイト・ガン・ワールド部ってどこでやってるか──」
「ファイト・ガン・ワールド部ー?なんじゃそれ」
「え?」
そして諦めかけていたその時に聞いた先輩に、そう答えられた。
確かに薄々気づき始めてはいたのだ。部活をやっている場所ぐらい誰でも知っているはずだ。1年生ならまだしも、最低1年は通っている先輩方が知らないなんておかしいのだ。
ファイト・ガン・ワールドは大きなスペースを要する。だから、学校にあるということは、特別な建物が建てられるか、特別な部屋があるということ。そして、その存在を在校生が知らないはずがない。
「ファイト・ガン・ワールド部を……知らないんですか?」
「そんな部活知らねーよ。そもそもこの学校にないんじゃないのか?」
その先輩はそう言い残してその場を去っていった。
残された決流は脳内で──
──ファイト・ガン・ワールド部が……ない……?
そんなことを考えていた。
でもそんなことはありえない。確かに学校の説明パンフレットにはファイト・ガン・ワールド部の文字があった。しかも2年前、勝林高校のファイト・ガン・ワールド部は、地区大会1位通過の県大会3位、支部大会も出場し、ここの地区では有名な功績を残している部活だ。まぁ去年は地区最下位の結果なのだが……。
だからない、ということはないはずだ。ましてや2年前まではあったのだから、3年生が知らないわけがない。
「……そうか!今まで聞いていたのは2年生の先輩だからか!」
2年生ならば知らなくてもまぁ仕方はない。
そう勝手に決めつけ、ファイト・ガン・ワールド部探しを再開しようとした時。
「そこの君。ちょっといいかな」
ちょいと低く、ずっしりとした声が背後から聞こえてきた。
その声から生徒ではないと判断した決流は、後ろを振り返る。
「なんでしょうか?」
そう答えた時、案の定教師だったその男は、少し驚いた顔をしてからまた口を開く。
「たしか……火野決流……」
「はい、僕は火野決流ですが……?」
何故かその先生は彼の名前を知っていた。
だが、その疑問の答えはすぐに返ってくる。
「先程の不良退治は見事だった」
(ギクッ……)
「3階から飛び降りて、不良軍団を1人でやっつけて。素晴らしい運動神経と格闘術を持っているようだな」
「アハ……アハハハ……それはどうも……」
笑って誤魔化すしかなかった。
あれは立派な退学処分の材料になる。今思えば、何故あんなことをしてしまったのか自分でもわからない。
「……まぁそんなことはどうでもいいのだが……君」
「はい?」
「ファイト・ガン・ワールド部がどこにあるか知っているか?」
予想外の質問に無意識に入れていた力がスッと抜けていく。
「先生もファイト・ガン・ワールド部をお探しなんですか?」
「『も』ってことは、君もか?」
「はい。僕もどこにあるのかわからなくて困ってたところなんです」
「そうか……では一緒に探すとするか。君と話したいこともあるからな」
☆☆☆
ファイト・ガン・ワールド部を探しに、ひたすら学校内を歩き回ることにした。先生もどうやら他の生徒に聞いて回っていたらしいが、知っている人は誰もいなかったと言う。
「それで、先生は何故ファイト・ガン・ワールド部を?」
「今日から急遽、ファイト・ガン・ワールド部の顧問を務めることになってね」
「…………」
(え?)
「顧問の先生!?」
決流は驚き、飛び跳ねた。何故飛び跳ねたのか自分でもわからないが。
まさか隣にいるのが自分が入ろうとしている部活の顧問だとは思ってもいなかった。
「まぁな。まぁそんなことより、何故誰もファイト・ガン・ワールド部を──」
とすぐさま話題を変えようとしたその時。
「おいお前ら。ファイト・ガン・ワールド部をお探しのようで」
不意に背後から声が聞こえてきた。背後とは言っても、声の反響からして少し遠くにいることだろう。しかし廊下というものはよく響くものだ。
振り向くとそこには制服の前ボタンを全て開け、両手をポケットの中に突っ込んで、少し顔を上げて見下しているよに見てくる、『ザ・不良』の男が立っていた。
白髪で目つきが悪い男だ。
「あぁそうだが。君、場所を知っているのか?」
すぐさま対応したのは先生だった。さすが先生、というべきだろうか。冷静にすぐさま答える。
「あぁ。なんにせよ俺はファイト・ガン・ワールド部の部長だからな」
「なっ」
「ほう」
まさかこんな短時間に、ファイト・ガン・ワールド部の顧問と部長に会えるとは思ってもいなかった。今日は素晴らしく強運である。
「まぁ俺について来な。部室に案内してやるよ」
その男、部長は悪そうな笑みを浮かべた。
☆☆☆
歩いている途中彼はこんなことを言っていた。
「お前らがファイト・ガン・ワールド部を探してるってのを耳にいれたもんでね」と。どうやら聞き回っていたのが噂になり、それが彼の耳に入ったようだ。
「ちなみに……」
そしてある部屋の前に止まった。何やら怪しげな雰囲気を醸し出しており、辺りには1人も人がいる気配がない。
しかしこの扉の向こうには何かあるような気がしていた。
「この学校でファイト・ガン・ワールド部なんていう名前は通用しない」
「えっ?」
「ファイト・ガン・ワールド部……通称FG部。このFG部でしかこの学校で名前は通っていない。だからファイト・ガン・ワールド部と聞いても誰も知らないんだよ」
「FG部……」
確かにファイト・ガン・ワールドは名前が長ったらしいので略称して『FGW』『FG』『FGワールド』等色々ある。しかし、大会名としてはファイト・ガン・ワールド大会という名前で、略称無しで通っている。
略称だとしても、本当の名前を知らないことなんてあるのだろうか。
「そしてここが部室だ──」
そう言って扉を思いっきり開ける。
少し薄暗い廊下を歩いていたので、扉からこぼれてくる光が異様に眩しく見え、目を閉じてしまう。
ガチャンと扉が開き終わった音がしたのでゆっくり目を開けてみる。
「ようこそFG部へ──楽しもうぜ?」
そしてその男、部長は不気味な笑みでそう言った。
決流は中の光景を見て唖然としてしまった。
荒れ果てる部室。
ゲームをしている部員。
携帯を弄っている部員。
お菓子を食べまくっている部員。
寝ている部員。
しかし端には同じく部活動体験に来ているであろう1年生が数人いた。
「これは……」
「どうした柊翔」
そんな中1人の部員らしき人がこちらに近付いてきた。
「新しい体験入部のやつと、こっちは新しい顧問だそうだ」
「今日からこの部活の顧問になった、鷺沼聖人だ。よろしく」
【鷺沼聖人!?】
そこにいた人のほとんどが驚きの表情を見せた。皆動きを止め、鷺沼の方を見る。
驚くのも無理はない。
鷺沼聖人。
第5回ファイト・ガン・ワールド大会プロの部優勝チーム『チームファイヤーボルト』の守備担当の者だ。
そう、日本のファイト・ガン・ワールド界では知らぬ者はほとんどいいない人物。
しかし、何故そんな男のことをここまで来るのに気付かなかったのか、と言われても仕方がない。別に決流が知らない、というわけではない。むしろよく知っている。よく知っているからこそ、この男が鷺沼聖人ということを信用できなかった。
しばらくの沈黙に、皆の思っていることに気づいた鷺沼は口を開く。
「……俺は2年前、交通事故に遭った。その際、顔の部分を大きく損傷してしまってな。誰にも見せれないような姿になってしまった。だから、整形をした」
「整形……?」
「そうだ。だから、君達が知っている鷺沼聖人の顔はもうない。今の鷺沼聖人の顔はこれだ」
衝撃の発言に部室が静まり返る。
それはそうだろう。こんなことテレビでも放送されてない内容だからだ。
そして鷺沼はこそっと最後に「この話はオフレコで頼む」と付け加えた。
そして沈黙の間の末、部長が口を開く。
「……俺はここの部長、白菜柊翔だ。よろしくな」
「よろしく」
「……鷺沼聖人が新しい顧問とはねぇ……」
「そうだが?何か問題でも?」
「てめぇ。円崎先生に何しやがった」
「円崎?円崎がどうかしたのか?」
「聞いてるのはこっちだ黙れ。てめぇ。円崎先生に何を吹き込みやがった。なんで急にいなくなった!」
「落ち着け」
「落ち着いていられるか!てめぇ………」
「落ち着けと言っているだろう」
雰囲気がまるで違う。別人だ。
その圧倒的な威圧に押されてしまう柊翔。次の言葉を出そうにも出なかった。
「……たった今決めた。俺はこの部活を変える」
「……ほう。具体的には何するんですかねぇ鷺沼せんせー」
「勝負をしようじゃないか」
「勝負?」
(なに?)
「あぁ。今から30分後、君達部員と、私が選んだメンバーとでファイト・ガン・ワールドで勝負をする」
「ほう。なめてんのか。たかが素人に俺達が負けるわ──」
「──負けるのが怖いのか?」
「……ほう。てめぇ強気だな」
「あぁもちろん」
「たった30分でいいのかぁ?」
「あぁ。それでいい」
「了解。じゃあ30分後にな」
「あぁ」
この二人の会話についていけてる人は極わずかの3年生だけだ。
決流も2年生も1年生も何もわからない。急に切れた柊翔に対して、勝負を持ちかける先生。
何のための勝負なのだろうか。
何の意味があるのだろうか。
それよりも1度に色々なことが起きすぎて頭がついていけていない。
そんな整理できていない決流に鷺沼はこんなことを言ってきた。
「──火野決流。君には前衛として参加してもらう」
「は?」