ストーカー退治!?
☆☆☆
「決流!朝だよ!遅刻するわよ!?」
「あー!遅刻だぁぁぁぁ!」
4月中旬の快晴の空の早朝。決流は遅刻ギリギリに起きてきた。
慌てて布団から飛び起き、急いで制服に着替える。そして走って自分の部屋を飛び出して1階に降りて、母親が作ったパンをくわえる。
「こら!慌てて食べないの!喉詰まるわよ!」
「わかってるって」
そう言いながらパンを食わえて、学校のカバンを持って玄関に走り出した。まぁ遅刻ギリギリなのだから仕方がない。
決流は「いってきまーす!」と言って、勢いよく家を飛び出した。
学校までは徒歩通学だ。大体走れば10分程で着く。決流は全力疾走で学校に向かった。
勢いよく飛び出して数分後、走っていた決流と、曲がり角から急に飛び出してきた女子と衝突してしまった。
決流は男なので、ぶつかってきた女子を勢いよく飛ばしてしまった。
「いててて……おい!危ないだろっ!どこ見てんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
女子の声は高く、初々しかった。まるで今まで声を出したことが無かったかのように。
決流は別に痛くはないはずだが、反射的に「いてて」と言ってしまう。
遅刻ギリギリになのに、と女子への苛立ちも束の間。女子が飛び出してきた方から、数人の男達がやってきた。
「おいおいお嬢ちゃん。そんなに逃げないでくれよ」
「別に俺達は君とちょーっとお話がしたいだけなんだよ」
「……ッ」
女子の声にならない恐怖──その時、決流はことの流れを悟った。
だから決流は──
「おいおいてめぇら。そーいうの……ストーカーって言うんだぜ?」
──ちょっと違うけど。
「んだとてめぇ!」
「貴様に用はないんだよ!」
だが、決流は女子の前に堂々として仁王立ちした。
さらに頭に来る男達。
「そんなにこの女に用があるなら……まずは俺を倒していきな?」
「え……」
いきなり庇ってきた決流に動揺する女。
決流は女の服を見て気付いた。自分と同じ学校の人だということを。だからこそ、放ってはおけなかったし、怯えてる女を前にして逃げる程、弱い男ではない。
「言ってくれるじゃねぇか……」
「喧嘩売ったこと後悔させてやる」
「こい!」
男の1人が決流目掛けて拳を振ってくる。
もう1人の男は決流の足を蹴ろうとしてくる。
この男2人の息の合った同時攻撃。これは並大抵の男達ではなさそうだ。
女はその光景を見て思った。これは避けられない、と。
自分を助けようとしてくれた人が目の前でボコボコにされるところなんて見たくない、と、目をつぶった。
だが、その必要はなかった。
目を開けると、男達は決流によって吹き飛ばされていた。
決流は飛んでくる拳を右手で掴み、蹴ろうとする足を左足で受け止め、攻撃を一時停止させる。そして次の瞬間、素早く足を入れ替えて右足で拳を振ってきた男を蹴り飛ばし、そのまま回転しながら蹴ってきた男まで回し蹴りで蹴り飛ばした。
(かっこいい……)
女は決流のことを心の中でそう呟いた。
「こんな程度か?」
さらに挑発をかける決流。
「くっ……きょ、今日のところはこれで引き上げてやる!」
「貴様……覚えておけ!」
そう言い残して男達は慌てて去っていった。
一段落して決流は改めて女の手を取り、立たせてあげた。
「怪我はないか?大丈夫か?」
倒したのは自分じゃねぇか!とあとで気付いた時にはもう遅かったが……。
「助けていただきありがとうございます」
女は律儀に頭を下げてお礼を言ってきた。ここでまた男が出る。
「ったり前のことをしたまでよ!怯えてる女を助けるのが男の務めってもんでしょ!」
と、綺麗事を並べる。自分で言っていても恥ずかしいのだが、実際そうなのだから仕方がない。
しかしどうしてこの女は狙われていたのだろう。
まぁでも気にする必要はないと思った。
「……私の名前は椎崎守と言います」
「俺は火野決流!よろしくな!」
急に名乗ってきたのに驚いたが、すかさず自分も名乗る。まぁどうせ同じ学校だし、見た目的に同い年だろうから、知っていて損は無いし、教えても問題ない。
「決流君……そう呼んでもいいですか?」
「おうよ!俺は守って呼んでいいか?」
「えぇ是非」
「あと俺1年だから、敬語使わなくていいぞ!」
「同い年だったんですね」
「おおやっぱりか!てか、敬語使わなくていいって」
「わ、わかった……」
しかし、そんな仲良く喋っている暇はこの2人にはないはずだ。
それを思い出した決流。
(………)
そう、何故なら──
「遅刻だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
☆☆☆
なんとか間に合った決流は、守と校内で別れて自分の教室に入っていった。守は友達と一緒に教室に行くと約束していたらしい。
教室に入った決流は1人、自分の机に座り、1時間目の授業の準備をし始めた。
決流はここ『勝林高校』の1年生。勝林高校は遠いところから来る人が多い。決流みたいに近所の生徒は極わずかだ。でもそれだけでは何故1人なのかは説明がつかない。
しかし、この教室の現状を見れば説明がつく。
ボロボロの教室、落書きだらけの教室・机・椅子・黒板。生徒がゲームをやり、お菓子を食い、荒れ狂う学校。
そう、ここ『勝林高校』は不良の高校。問題児の高校なのだ。
だから、不良ではない者はハブられる。この高校では生きていけないのだ。しかし、決流はここで生きていくと決めた。彼は決めたのだ。この高校で成し遂げる目標を。
「ん?」
そんな時教室に女子のグループが入って来た。
彼が驚いてるのは別に他クラスの女子グループが入って来たというわけではない。まだ入学して1.2週間だが、確かに同クラスの女子グループだと思われる。
彼はこのクラスメートに興味はなかった。だから誰が同じクラスなのか把握していない。
だが、その女子グループに1人、見知った顔の女子がいた。
黒髪のロングヘアに弱々しく感じるその体つき。
そう、先ほど助けた守だった。
「ええっ!?」
思わず声を出して立ち上がってしまった。
それもそうだろう。まさかあの彼女が同じクラスだとは思ってもいなかったのだから。
「守!?お前同じクラ──」
と言いかけた途端。勢いよくこちらに向かってきた守によって、耳を引っ張られながら教室の外に連れていかれてしまった。
しばらく連れていかれ、来たのは誰もいない廊下だった。
「あなたどういうつもりなのよ!?」
「はぁ?」
いきなり怒りをぶつけてくる守。いや、何に怒っているのか全く不明なのだが……。
「あんなクラスで大声で叫ぶなんて!恥ずかしいじゃん……」
「な、何が恥ずかしいんだよ」
「あなたと知り合いって思われるのがよ!」
「はぁ!?」
「と、とにかく!もう教室で喋りかけないで頂戴!」
そう言って守はスタスタと怒りながら行ってしまった。
取り残された決流は、訳も分からずそこに立ち尽くすだけだった。
☆☆☆
「はぁ……終わった……」
今日も1日の荒れ狂った授業が終わり疲れきっていた。別に授業の内容が難しいとかそういうことではない。そもそも授業になっていないのだ。何故なら、ここは不良高校。まともな授業が行われるわけがない。たとえ先生が授業をしようとも、生徒が受けようとしないため、ただの動物園と化しているのだ。
チラっと守の方を見てみる。
彼女と一瞬目が合ったが、すぐに目をそらされてしまった。これは完全に嫌われてしまった。しかし、何故嫌われたのか彼に心当たりはない。
よし、次はちゃんと理由を聞こう!と話しかけようと席を立ったその時。
校庭からバイクの音が無数聞こえてきた。
驚くクラスメート。
ざわつく窓際のクラスメート。
廊下から聞こえてくる声。
「おい!隣町の不良が攻め込んできた様だぞ!」
「何!?」
決流も驚き、慌てて窓際まで行く。
外を見ると、そこには大量の隣町の不良がいた。
そしてその中に、見知った顔が2人。
それは朝、守を助けるために追っ払ったストーカーの2人だった。
その不良軍団に我が高校の先生が駆け寄る。
「なんだね君達は!」
「あ?うっせーな。てめぇーには用はねぇんだよ」
そう言ったのは中でも吐出して目立っている人物。別に武器や道具は持っていない。ただそこに立っているだけ。それだけで、彼は他の者とは違う雰囲気を醸し出していた。
「俺が用あるのは椎崎守って奴と、そのお仲間の男だよ」
「何?」
「え?」
その男の言葉に、2人は反応してしまった。それにより、クラスの皆から冷たい目で見られる。
同じグループであった女子からも、冷たい、冷酷な目で見られる。
「守ちゃ〜ん……お呼びだそうですよー?」
「……」
守は何も言えなかった。そしてまた決流も何も言うことが出来なかった。
そして彼女は何も言わないまま教室を出て行った。
しばらくしてピリピリしている男の前に守が現れた。
彼女は逃げることなく彼の前に立った。
「守ちゃんよぉ……俺は俺の連れをボコした奴に会いたいんだけど……会わせてくれないかな?」
「……」
(もう決流君に迷惑はかけられない……)
「……無視ですかぁ?」
「……」
(ダメ……)
「……てめぇ……」
「……っ」
(このままじゃ……!)
無視する守に痺れを切らした男は拳をポキポキ鳴らせながらだんだんと近付いて行った。このままだと彼女は確実に殴られる。
それを見ていた決流は彼女が自分の事を言わず、黙っていることに気付いた。
だからそんなことさせてはいられなかった。
決流は閉じていた窓を開けると、反対の廊下側までスタスタと歩いて行った。そして軽くジャンプしたあと、窓目掛けて走り始めた。
「馬鹿お前!ここは3階だぞ!?」
そんな言葉を背に、決流は勢いよく窓を飛び出した。
男は拳を振りかざし、守を殴ろうとしたその時。
横から強い衝撃を顔面に受け、そのまま吹き飛ばされていく。
そして、何事か、と男の部下や守が思った時。スタンッ、と華麗に着地したのは決流だった。
「な、何!?……貴様!どこから気やがった!」
部下の1人がそう問う。
「どこって、3階の教室からだけど?」
彼は自分の教室を指さしながらそう簡単に答えた。
「馬鹿な!あんな遠いところからだと!?たとえ飛び出せたとしてもそのまま落下するだけじゃ……」
「馬鹿なのはてめぇだよバーカ。飛ぶその瞬間、壁を思っきし蹴った。ただそれだけさ」
「そんな馬鹿な……」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿うっせーな。てめぇらは馬か?鹿か?」
彼は普通の人間には出来ないことをやったのだ。
ここから彼が飛んできた教室までの距離は約50メートル。いくら走っているからと言って、ここまで届く距離ではない。確かに棒高跳びとかなら可能なのだろうが、ただ走って壁を蹴っただけでは無理な距離だ。
「そんなことより……可愛い女の子を寄ってたかっていじめようなんて……男の恥だねぇまったく……」
「んだと貴様!」「やんのか貴様!」
そう問いかけられた決流は挑発するように、チョイチョイと、「来いよ」ポーズをした。
「貴様……この人数を1人でやれると思うなよ!」
そして、その挑発に乗った不良軍団は、全員で決流に遅いかかってきた。
だが、決流はその軍団を1人で、数分でやっつけてしまったのだ。
連続で来る拳や蹴り。時にはパイプ等も飛んでくる。
だがそれらを華麗に避け、右手・左手・右足・左足、と全てを使って相手の急所に決めていった。
そして残ったのはボスの男だけだった。
「貴様……何者だ……」
「俺か?俺はただの……高校生だよ!っと」
そしてボスの男を蹴り飛ばし、決流は守に近付いていった。
「怪我はないか?」
「えぇ……」
彼が手を差し伸べ、彼女はその手を取って立つ。
だが彼女は助けられたにも関わらず、とても信用してなさそうな顔をしていた。
「……なんで私を?」
彼女は問いかけた。何故自分を助けたのか、と。喋ったこともなく、先程突き放した私を何故助けたのか。
別に私がボコられようとも、彼には支障はない。
なのに何故。
だが、その答えはすぐに彼から返ってきた。
「何故って……そりゃぁ……助けたかったから?」
まったく答えになっていなかった。
まったく納得できない答えだった。
しかし何故だろうか、とても安心した。
「……ありがとう。でも、やっぱりこれからは関わらないで頂戴っ!」
そう言って守は決流に背を向けた。
「えぇ……」
決流は悲しそうな声を上げた。
「彼の名は?」
その一部始終を部屋から見ていた、1人の男教師がいた。
その教師は興味深そうに隣の教師に、彼の名前を聞いた。
「えーと……」
隣の女教師はコツコツと端末を弄り始め、見つけたのか、彼の名前を声に出す。
「火野決流、です」
「火野決流、か……中々いい運動神経をしているようだな……是非うちの部員になってほしいものだ」
その教師は笑いながらそう言って、部屋を出て行った。