神遊戯
神様がいるのなら、お願いを叶えてくれるのかな。
そんな万能の神様は困ってる人を見捨てないでくれるのかな。
いいや、そんなことはしないよね。
神様だって、自由奔放が大好きな子供のように自分勝手で残酷なんだもの。
やっぱり、遊びといったらゲームだよね。
だから創造が出来る神様はみんなが楽しめる場所を作り出したよ。
ルールは単純に神様が演じる「勇者」と悪いことばかりする「魔王」の戦い。
でもね。
神様達は人をはじめから全て作るのを待つほど我慢強くなかったんだ。
だから神様は別の世界から「魔王」の役目を押しつける人を7人連れてきた。
その人達に倒される役目任せようとしたんだ。
でも連れてこられた人は8人。
連れてくる人数を間違えた神様のミスだね。
クーリングオフなんて出来ないからせめて、退屈しないような日常をプレゼントしよう。
でもって冒険なんてしてもらおうか。
きっと楽しい毎日になるんだろうな~。
そんな頭お花畑な人とは違い真剣に生きようとする主人公が哀れな様子。
僕、園田翔は目の前の現実から目を背けて、考えていた。
人は生きているからいつか死んでしまう。
それが遅いか早いかの問題だけだ。
楽しい日々とか充実した毎日とかなく、ぼんやりと暮らしてきて「退屈だった」というのが一番に出て来る感想だ。
しかしその退屈もそれほど悪いというわけでもない。
数時間前までは、確かにそう思っていた。
待ちに待った、ゲームの発売日になった。
朝早くから、行列に並んでようやく手に入れたものをさっさと帰ってプレイしたかった。
これから暑くなってくる7月下旬。
もうすぐ夏休みが始まる。
ラジオ体操なんて無視して家で涼んでいよう。
宿題なんて知ったことか!
これから最高にハッピーな引きこもり生活が始まる。
そう思っていた。
しかし、そんな僕の勝手な事情などお構いなしに、目の前に車が飛び出してきた。
前触れはあったかもしれない。
横断歩道を斜めに突っ込んできた車はガードレールを無視して真っすぐ突っ込んできた。
飛び出してきた車は僕を跳ねた。
そしてそのまま動かないかと思っていたが、車は強引にバックを繰り返し、元の車道に戻ってそのままいってしまった。
ひき逃げだ。
この僕をひいておいて逃げるとは卑怯者め。
この場合、浮かれて注意不足だった僕が悪いのか、ふらふらな運転をしていた運転手が悪いのか。
結局は、運が悪かっただけと言うことかな。
せっかく頑張って今までにやってきた勉強や筋トレとか全部無駄に終わってしまった。
それにもう楽しみにしていたゲームも出来ないだろう。
いろんなものをこの一瞬で全部なくなってしまった。
後悔しかない。
やり直せるなら、悔いの残らないような選択をしていきたいな。
意識が戻って、気がついたら、両手両足がない。
もうダルマにしか見えないような体だ。
あるいはこけしかな。
そりゃあ、車に轢かれて何度もごりごりと削るように潰されたらこうなるのかな。
なんとか動かせる頭と目で周りを見てみると、真っ白で縦も横も10mほどしかない場所にいた。
病院でもないし窓やドアもない。
そして両手両足がなくなっているのに血も出ていない。
包帯も巻かれていない。
まるで元からなかったようにきれいに肩と腕のくっついているところが途切れてしまっている。
ここがどこかも分からないし、なぜここにいるかも、なぜ車に跳ねられたのに生きている?のかも分からない。
あの時。
車に跳ねられて体中の骨が砕けて内臓もぐちょぐちょに潰されて顔も何もかもがバラバラになって死んでしまったんじゃないのだろうか。
「きーついた?」
何もなかったはずの場所から声が聞こえた。
そこは真っ白で、真っ平らな床で何もなかった場所だ。
それなのに、下から土が盛り上がってくるようにして形が出来ていく。
等身大の顔も起伏もないマネキンのようなモノがゴスロリの衣装を着て、目の前に出てきた。
違和感が半端ない。
「このすがたなら、はなしやすいかな?」
不自然に不思議な人形は勝手に話を始めた。
「ここにいるってことは、なにかいやなことでもあったかな?まず、ここはなんでもできるばしょでどんなねがいももうそうもほんとうにおこるんだ。どんなものでもつくれる。そしてここよりもうえにカミサマがいる。そのカミサマにたのしんでもらいたい。そのためにおまえはここにきた。」
すごい説明口調だ。
台本でも読みながら話しているように棒読みだ。
子供のようなものが説明口調で話しかけてくる。
意味不明だ。
文句を言おうにも口が開かない。
唇も頬も1ミリも動かない。
どれだけ喉に力を込めても、声が出ない。
向こうの話は聞こえてもこちらからは何も言えない。
一方通行な会話。
あっちの話は聞くだけで、こっちの話は聞かないなんてルールでもあるのかな。
「あんまりながくはなすと、おこられる。とにかく、きみはいせかいいきになったよ。がんばってね。」
・・・。
それだけ!?
そんな説明で納得出来るわけないだろ!
大声で怒鳴りながら、文句を言いたくなった。
でも、何も言えない。
言い返せないことが、こんなにも腹立たしかったなんて知らなかった。
「とりあえず、これをあげる。それはいきていくためのちからだよ。たいせつなものだからたいせつにしてね。」
すると、その手の部分から蛍のような小さな光が胸の辺りに飛んできて、すっと入ってきたと思ったら、胸が急に暑くなった。
一言もしゃべらないで話は終わってしまった。
そしてこれからは異世界で生きていかなければならない。
話にもついていけずに、異世界での生活を強要されてしまった。
とんでもない理不尽で、とんでもない不条理だよ。
怒るにも怒れない、この状態が本当に恨めしいな。
「おうえんしてるよ。すこししたらボクもサポートにいくからまっててね。」
この場所が突然崩れ始めた。
ガラスが割れるように、絵の具が乾燥でひび割れるように崩れていく。
このままではどこかに放り出されるのだろうか。
幸先が不安でいっぱいだ。
そうして意識がなくなり、人生の走馬燈のようなものが始まった。
赤ん坊の頃からついこの前だと思う電機屋の前までで終わっていた。
次はどんなことが起こるのだろうか。
今では期待も不満も同じくらい高まっている。
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目を開けて初めて見たのは、シワシワのおばあちゃんのような老婆だった。
体はやせこけ、頬の肉もなく、くぼんでいる。
手には木で出来たスプーンがあり、それはもう片方の手で持っていた皿からすくった液状のスープを食べさせるような仕草だ。
口を強制的に開けさせられ食べさせられる。
離乳食だ。
この味は昔、まだ赤ん坊だった弟の食事が何か気になって食べたあれと同じ味だ。
つまりは離乳食だ。
あの頃はもう小学に上がったばかりで離乳食などまずかったとしか覚えてない。
しかし予想を超えてうまかった。
それは甘くないが食べやすく、味もさっぱりとしていて、いくらでも食べられそうだ。
だが一口二口と食べていくにつれて、すぐにお腹がいっぱいになった。
どこまでいっても満たされないような数分前の空腹感など完全になくなってしまった。
数時間後、またお腹が空いた。
おぎゃあ、おぎゃあと泣いて食事をくれた老婆を呼ぶ。
赤ちゃんがなぜすぐに泣くのか分かった。
まだしゃべられないから泣く以外に注目される手段がないのだ。
ご飯を食べて、しばらくしたら眠気に襲われた。
すぐに寝てしまい、起きたときには、またあの老婆が食事を持って待っていた。
それからは毎日が食べては寝て食べては寝ての繰り返し。
飽きたと言うこともなかった。
こんな生活にも慣れたと言うことだろう。
しかし考えなければいけないことは多くあった。
まずあの白い部屋が崩れて、走馬燈を見終わったところで目が覚めたのだ。
ここはどこだろう。
この揺りかごから出たことはない。
一度たりとも、出ることは出来なかった。
食事も何もかも気がつけばやってもらっていた。
最強のニート状態だ。
赤ちゃんだから仕方がないというのもあるかもしれない。
だからといってこのままというのも、悪くはないのか。
いや、だめだ。
やはり、行動しなくては何も始まらない。
そう、明日から・・・、いや、来月あたりから始めよう。
そうしよう。
そうと決まればあとは眠るだけ。
寝る子は育つと言うしな!
自分に言い訳しながら、一年が過ぎた頃、1人で立つことも出来るようになり、離乳食もとっくの昔に終わっている。
ここは、王宮だそうだ。
家庭教師を名乗る男がいろいろと教えてくれた。
この世界のこと。
そして自分が王族であることも。
王族、いずれ次代の王となって国を治める者。
しかし自分は王位継承権第二位だ。
第一王子に何かない限り、王様になんてならない。
そんな面倒な役目は人に押しつけるのがいい。
そんなある日、王宮が騒がしくなる一日があった。
それが現王と后の王宮への帰還の時だ。
一年に一度ほどしか帰ってこない父と母。
寂しくもなく、会えてうれしいわけでもない。
むしろ、うっとうしい。
毎度、帰ってくるたびに僕の自室に来ては、抱きついてくるわ、キスしてくるわ、年齢に合わず高い高いまでしてくる。
両親の溺愛ぶりにも困ったものだ。
それが当たり前のような日常で変化がないことに退屈しながらも平和な毎日はわりと充実していた。
しかし両親が帰ってからしばらくした、ある夜。
その日は無性に胸がざわざわして眠れなかった。
いつもであれば寝ている時間だというのにまだ起きている。
全く眠くなかったため、暗くなった天井をずっと見ていた。
そして、突然に扉が勢いよく開くと、剣を持った男の騎士が数名入ってきた。
何をするのかと思うと、こっちを見てなにやら話し込んでしまっている。
その中でリーダー格のようなゴツい体をした騎士が剣を振りかぶって突き刺してきた。
痛みと熱さが同時に襲ってくる。
激しい痛みに耐えられず、気を失ってしまった。
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「はっ。」
息苦しい感覚が全身を襲ってきた。
深呼吸して冷静になると、あの光景を思い出してしまう。
剣が刺さって痛く熱く、そしてだんだんと体が冷たくなってくる感覚。
これは慣れるとか慣れないとか関係なく根源的な恐怖。
つまりは死んだと言うことだろう。
しかし死んだのに生きている。
この矛盾は何だろう。
これは前にも経験した前世での最期に似ているが、ここは牛小屋のようなワラが大量に積まれている場所だ。
そして目の前には子猫のような生物。
あまりにも愛らしい。
「何をじろじろ見てる?そんなに珍しいものでもないだろうに。」
!!
突然しゃべり出した。
いや、頭に直接言葉が届いた。
「あんたは一回死んでるよ。それは間違いない。だって、農民のあんたに『王威』なんて王族しか持てないスキルがあるわけなもの。そして特殊スキル『無限転生』。これを持ってるのは異世界人だけだね。じゃあ、あんたを守る役割があたしって訳か。」
「突然何なんだ?あんまり一気にしゃべらないでくれ。」
「理解が遅いね。まぁ、いいわ。ここはね、7人の魔王が支配する世界なの。ここで生きる人は、色々な特性とスキルを持って生まれてくる。でもね、与えられた役割以上のことは出来ないようになってるの。これは、天の意志だって呼ばれてるわ。」
「つまり俺はここで生きていかなければいけないのか?」
「そうね。でも危険はないはずよ。だって最強の神獣の1柱であるこのわたし、白虎があんたに憑いてるんだもの。安心安全に冒険でも自堕落な生活でも何でも出来るわよ。」
安心安全を自分で謳うか、このネコは。
しかしこの機会をなくせばもう返事を返すことは出来ないだろう。
「よろしくお願いします。俺を守ってください!」
「潔いわね。まぁ、そんなところは好きよ。それでどうするの?冒険する?探検する?それとも何もせずにこのまま死んでいく?」
「死ぬのはいやですよ!とりあえずは街に行って、冒険ですかね。・・・ところで、僕の両親は?」
「急に一人称が変わるわね。その両親ってここに昔あった国の王様のこと?それとも今のあんたの両親?」
「昔、あった国ってことは?・・俺が短い間とはいえ住んでいた王宮とかはなくなってしまったんですか?」
「昔っていうかあたしの感覚だから、あんた達、人の感覚だと200年前ってところかしら。その頃に魔王だとかがこっちの世界に来て、暴れ回ったのよ。小国なんてすぐに滅んだわね。帝国なら残っているけど、残してもらってるって感じね。魔王達が本気を出したらすぐに世界は終わるわよ。」
「じゃああなたたち神獣とか原住民の方々は反抗しなかったんですか?」
「反抗はしたわよ。倒そうともしたけどね。・・倒せないのよ。」
「・・・はっ?」
「だからあの魔王達には致命傷を与えられないってこと。どれだけ追い詰めてもトドメをさせないの。」
「それじゃあ魔王は不死身ってこと?」
「そうでもないのよね。魔王が現れてから数十年くらい経った頃かしらね。勇者を自称する人がいっぱい来たの。もう数十人くらい。その勇者達だったら魔王に攻撃できていたわね。ま、すぐに倒されるんだけどね。」
「じゃあ、その勇者達に協力すればいいんじゃないのか?」
「相性の問題ね。勇者達は良くも悪くも強すぎるのよ。成長が早いってだけなんだけどね。それに勇者って輩はもう街にいる人と大して変らない人数になってるから誰かひとりを選ぶことが出来ない状況なの。」
「そんなに勇者がいるなら、全員で魔王を倒しにいけばいいのに。」
「そうなのよね。勇者達も協力が出来ればいいのにね。」
「その言い方だと全く出来てない。そうすることが出来ないってこと?」
「察しがいいわね。そうよ。勇者は集団で行動するけどそれは普通の冒険者や教会から選んでくるの。決して勇者同士が手を組むことはないわ。いや、手を組んだことはないわ、だったわね。」
「じゃあとりあえず
出てくる人は大まかに
王族ー基本血族でまとまっていて、人々をまとめる特別な力を持っている。
平民ー王族が支配する土地で働いたりする人たち。
奴隷ー平民に仕える人。無給で無休のかわいそうな人たち。
村人ー王族が支配する土地以外に住んでる人たち。畑仕事とかして暮らしてる。
蛮族ー村人が王族を討とうとしてまとまった集団。盗賊とも言う。
竜族ー人に危害を加える悪いやつ。頻繁に村とか町を襲いに来る。知能が低い。
龍族ー人に知恵を与えたりするいいやつ。でも時々しか人前に現れない。知能が高い。
亜人族ー獣人とか竜人とか人に似ている容姿の人たち。
精霊族ー魔法使うときに必要な奴ら。精霊の力がなかったら基本は魔法が使えない。