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俺の部下の異世界無双  作者: 十六夜やと
序章~異世界転移~
5/12

第四話 俺の部下と生まれた意味

ちょっとグロ注意。次はもっとグロいけど_(:3」∠)_

あと少しで序章終わります。

 私なんて――生まれてこなければよかった。

 今ほどそう後悔したことはない。



「ボーワドンさん!」


「ティナっ、来るんじゃない!」



 農機具を保管する倉庫から大急ぎで駆け出し、昔から私の面倒を見てくれた老人が叫んだ方向に向かう。

 小さい頃から見知った村だ。

 少し開けた村の広場で響いた声だとすぐに分かった。


 広場に辿り着いた私を待ち受けていたのは――見知らぬ男がボーワドンを縛り上げて右腕に剣を突き立てていた光景だった。他にも見たことのない鎧を着た人たちがたくさんいる。ちょうど肩の間接辺りに無理やりねじ込んだため、大量の地が地面を紅く染めている。

 一瞬だが本能的に声が出た。

 しかし、私の身体はボーワドンさんに向かった。



「おやおや? 自ら赴いてくださるとは……」



 王族や貴族が着るような豪奢な飾りをした、白いローブのようなものを返り血に染めた男は、私の姿を目視すると握っていた剣をさらにボーワドンさんに突き刺す。

 思わず私は叫ぶ。



「止めて下さい!」


「えぇ、構いませんよ。……私の目的は貴女なのですから」


「――へ?」



 刹那、私の身体は俯せの状態で取り押さえられた。

 後ろの兵士みたいな人達に気付かなかったからだ。精神的に気付く余裕がなかったとも言える。

 手を後ろに組まされ、その兵士が全体重を使って私の動きを押さえているのだが、肺にある空気が強制的に押し出されて、軽い呼吸困難を覚えた。


 上半身の節々が悲鳴を上げる。

 それでも上の兵士は緩めることはなかった。



「はははっ、地面に這い蹲る姿。見事に滑稽ですね、異端者(ゴミ屑)が」



 見上げようと動かした頭を足で踏みつけられる。

 彼の仲間らしい鎧を着た人間の嘲笑が密かに耳に入り、いつの間にか私の近くまで移動していた白いローブの男の声が上から吐き捨てられた。


 なぜこんなことを?

 私の中に生まれた疑問も、上からの声に氷解するのだった。



「七年……そう、七年も探しましたよ。ミクトラン王国第三王女にして、『盗人の瞳』の異能を持つ忌み子――ヴァレンティーナ・フォン・ミクトラン殿下?」




   ♦♦♦




 十五年前、私は人間の治める地域に繁栄する国の一つ、ミクトラン王国の第三王女として生を受けた。妾の子ではあったが、その国ではそこまで重要視することでもないし、正妻の子であった血の繋がらない兄姉とも仲が良かった。

 王位継承権が限りなくないに等しい第三王女という立場であったが、どこかの国の貴族や王族に嫁ぎ、一生を暮らすことができるくらいには恵まれた身分だったと思う。

 そうなるような教育を受けてきたし、当然のようにそうなると思っていた。


 私が自分のスキルにない異端の力――『盗人の瞳』を宿していなければの話だったが。


 稀に種族問わず、スキルにない力を宿して生まれるものがいる。私の宿した力もその例外に漏れず、『盗人の瞳』とは『ありとあらゆる魔術やスキルなどの術式・構成・法則を読み取り、本来ならば扱うことのできないそれを使用条件を無視して行使する能力』である。一人の人間が持つには破格な異能であり、決して存在を許されない悪魔のような力だ。

 そのような能力を宿していると分かった七年前、当時ミクトラン王国の国王であった私の祖父は、私を人があまり立ち入らない村へと隠した。

 村の人々は、私が忌み子だとしても温かく接してくれた。


 当時の私には、なぜこのような村に身を隠さなければならないのか理解できなかったが、成長してボーワドンさんを始めとする村の人々に教わって知った。

 『盗人の瞳』は教会では最上級の禁忌とされる異能で、見つかり次第即処刑しなければならない忌まわしき能力だと聞いた。特に『盗人の瞳』を持った人間は、そのほとんどが悲惨な最後を遂げたという。


 故に――私は村から出たことが一度もなかった。

 見つかると確実に殺されることになるからだ。自由はなくとも、命を守る方が大切だ。

 ひっそりと村で暮らし、ひっそりと年を取って死ぬ。物語やお伽噺のような、素敵な男性との恋も夢見たこともあったが、所詮は夢だと諦めていた。



 それなのに――




   ♦♦♦




「……これで全員ですね」



 村に住む人々全員が教会の騎士達に捉えられ、それを確認した白いローブの男は、簡易的に急遽作られた処刑台の前に手足を縛られた私を跪かせ、満足げに頷いていた。

 時折仲の良かった村のおばさまやおじさまが必死に私に向かって何かを訴えていたが、近くにいた騎士達が力によって黙らせる。そのたびに悲鳴を上げそうになるが、猿轡のように布で口を塞がれた私に声を出す術はない。

 逃げだすことも、叫ぶことも。


 白いローブの男は両手を広げる。

 仰々しく演じるように。



「さぁ、天上に住まう我等の神よ。これより神に代わり、私ことルーファス・タルコットが異端者に神の鉄槌を下します」


「「「「「異端者に死の鉄槌を!」」」」」



 口をそろえて叫ぶ騎士達に、村の一人が憎しみを込めて叫ぶ。

 それは村に住む全員の気持ちを代弁したものだった。



「我等は……平和に静かに暮らすことすら許されぬのか!? 貴様達に何の害も及ぼさないだろう!? どうして姫様が処断されなければならんのだ!」


「存在していること、それが罪だからですよ」



 白いローブの男は口を歪めて即答する。

 自分の発言こそが正しいと瞳が語っており、信仰を超えた――そう、狂信的に笑う顔に鳥肌がたつ。

 騎士達も同じような表情を浮かべている姿を目視し、ふとオウカ様の『やっぱ宗教絡むと面倒だわ』という本音を思い出した。



「神から与えられた『スキル』という恩恵。その枠組みから外れた『異能』が、果たして許されると思いますか? ふん、ましてや『盗人の瞳』とは……忌々しい。彼女が天上に召されることは決してないでしょう」



 あぁ、と思い出すように白いローブの男は言葉を付け加える。



「この村に住む者全員同罪です。この異端者を処刑した後、そこにいる全員を処分しなさい。村は火を放って痕跡すら残さないこと」


「――っ!?」



 彼等は関係ないのに!?

 私の表情の変化で考えているのを察したのか、穏やかに笑いながら私の心を磨り潰す。

 忌み子は何があろうと許さない。心をへし折って絶望の縁に叩き落とし、生まれてきたことを後悔させながら殺してやる……そんな鋼の意志が宿っていた。



「どうして? もちろん貴女のせいですよ」


「……っ」


「貴女さえ存在しなければ、大勢の人間が苦しむことはなかった。貴女さえ生まれなければ、先代国王も退位した後に元国王に暗殺されることはなかった。貴女さえ居なければ――この村の人間が殺されることはなかった。ヴァレンティーナ王女殿下、貴女こそが諸悪の根元なのですよ」



 私の顔の近くで朗らかに笑う白いローブの男。

 彼の言葉を聞いた瞬間、込み上げる吐き気を覚えた。

 どろりとした気色の悪い何かを言葉が生み出し、私の心の臓を侵食して黒く染めていくような気がした。……いや、本当にそうだったのかもしれない。



「本当に残念です。貴女のせいで多くの人間が死ぬのですから!」


「………」


「否定しても無駄ですよ。実際に貴方に関わったものは死ぬのですからね。何度でも言いましょう――貴女が彼等を殺す(・・・・・・・・)!」



 私が……村の人達を……殺す?

 まだ幼かった私を一生懸命育ててくれた彼等を、私が、私のせいで、殺してしまう?


 頭の中が混乱している中、騎士の誰かが私の前に火のついた銀色の桶を持ってくる。何か細い棒のようなものが入っており、今もなおパチパチと火花を弾けさせながら燃えていた。

 私には何なのか分からない。

 しかし、村の人達は知っているらしく、必死に騎士達を押しのけて来ようとする……が、着用している白銀の鎧に相応しい強さで村の人達を止める。



「猿轡を外しなさい」


「はっ」



 近くの騎士に外されて口が自由になり、白いローブの男はその意図が分からず困惑する姿を見せる私に満足して――腹部辺りから私の来ている服を裂く。

 布の引き裂かれる音と共に、下腹部だけが露わになるように裂かれる。下着が見えることに羞恥で顔が赤くなってしまうが、次に私の前に立った一人の騎士が持つ物体に青ざめた。私の身体は他の騎士によって固定されているため、逃げることも許されない。


 その騎士が持っていたのは――さっきまで銀色の桶の中に入っていた棒だった。先端辺りが不思議な模様を模した形をしていて、そこが真っ赤に燃えるような色をしている。

 さすがの世間知らずな私も理解できた。

 だからこそ肺が酸素を求めて息が荒くなる。



「異端者の恐怖に歪む顔……たまりませんねぇ。――やれ」



 騎士は白いローブの男に一礼すると、その棒を私に全力で押しあてた。

 一切の手加減をすることなく、二人がかりで私の身体を固定しているだけあって、下腹部にめり込むように鈍色の棒――焼き鏝は肉の焼ける音を静かに響かせる。

 しかし、その焼ける音が誰かの耳に入ることはなかった。何時間もゆっくり火で加熱された棒は熱く、身を裂かれるのと同じくらいに痛いのだ。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」



 喉から絞り出される私の悲鳴。

 本当に私の口から発しているのかさえも分からぬほど、その焼き鏝を押されている部分は痛い。悲鳴を上げなければ気絶してしまうくらい熱く、止めてと叫びたいのに口からは言葉が出ずに悲鳴のみが自然と口から出てくる。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 脳が考えることを放棄してしまう。

 いや、いっそ放棄してしまいたい。



「ははははっっ、素晴らしい音色だ! いつ聞いても愚かな異端者の悲鳴は私の心を満たす! さぁ、もっと泣き叫べっ!!」



 どれ程叫んだだろうか、とにかく叫んだことだけは覚えている。

 声帯が潰れ、声すら出なくなった頃に焼き鏝から解放された。どのような模様が腹部につけられたのか確認する気力もないが、騎士達に運ばれて台の上まで運ばれて座らされたことまでは認識できた。

 もう村の方々が何を言っているのかも理解できない。

 なぜ私がこんな目に遭わなければいけないのか。どうして誰も助けてくれないのか。

 それだけが私の心の中で渦巻いている。



「楽しい楽しい処刑の時間です。大丈夫ですよ、王女殿下。貴女の首は王国の首都で十日ほど晒し首となり、貴方の胴体は大聖堂の前で串刺しのまま広場で公開されます。貴女の魂が楽園に向かうことなど、未来永劫ありえません」



 処刑台の下から優しく微笑む男。

 その言葉を聞いた私が思ったことを察することが出来たのか、ひどく楽しそうに――私が思ったことの答えを叩きつけた。



「『なぜ、私がこんな目に?』とでも言いたげですね。簡単なことです。だって貴女は――










―—化物(・・)なのですから」










 あぁ、そうか。

 私は化物だったのか。


 騎士が隣で剣を構える間に、私は涙を流す。

 私が知りたかった答え……残酷で悲惨な事実に、抵抗する気力も失せた。このような扱いを受けることにも、誰も助けてくれない状況にも、どうして彼等が笑っているのかも、その一言だけで納得してしまったからだ。


 歌やお伽噺に出てくる化物。

 それは共通して退治される運命にある。だって人々と化物は違う生き物、そんな理由で退治される。

 化物に平穏を求める権利などない。だから私は……こうやって殺されるのだろう。彼等という名の英雄によって、化物の私を。


 溢れる涙が処刑台の地面を濡らす時、ふと私は彼の話を思い出した。

 今思い出した理由は分からない。昨日やって来た旅人を名乗る二人のうちの一人で、『勇者』なのに『化物』である私に優しくしてくれた男の子の話を。

 彼は結局旅などをしたこともなかったのだろう。今思うと彼の話は突拍子もない冒険や日常を詰め合わせたようなもので、まるで現実味を帯びていなかったのだ。そもそもLv1の彼が冒険などできるはずもなかったのだから。


 しかし、彼の話は美しかった。

 話を聞いているときは――まるで自分の話を語り聞かせているように綺麗で眩しいものだった。



 神話の神々と語る話。

 幾多もの悪魔を退治する話。

 美しい光景を見たときの話。

 英雄譚のように雄々しくも勇ましい話。



 どれも宝石箱のようにキラキラで、楽しかった。

 このような冒険をしてみたい。自由に世界を巡りたい。

 彼の話は綺麗で美しくて儚げで――羨ましかったのだ。



「私は……どうして生まれてきたんだろう……?」



 私は死ぬだろう。でも、もし次があるのなら。

 もしも、もしも生まれ変わったのだとしたら。

 彼のように自由に生きたいなぁ――






「んな難しく考えんなよ。答え出る疑問じゃねぇぞ」


「――えっ」






 優しく包まれる感覚。

 力強くも温かさを併せ持つ腕に包まれながら、なぜか処刑台の上で私は――オウカ様に抱きしめられていた。唐突に何が起こったのか理解できなかったけれども、結果だけが目の前にある。

 彼は白いローブの男のような裏に冷たさを感じるような笑みではなく、本心で私だけに向けてくれる温かい微笑みを宿していた。



「つわけで失礼、っと」


「っ!?」



 そんな笑みも束の間、私とオウカ様は処刑台の奥の方に転がっていく。

 どうしてそんなことを?と聞こうと思ったが上手く言葉が出ず、質問よりも先に答えを出していくオウカ様。起き上がって低い姿勢のまま私を抱えた彼は、ひどく洗練された動きで近くの家に駆けこんだ。外の騎士達には死角になるように私を胸に抱きながら、開いた扉の外にいる幼い少女――アイリスちゃんに言葉を届ける。

 彼女は会った時からの仏頂面を隠そうとせず、見覚えのない禍々しい黒い大鎌を担ぐ。



「アイリスお前肉盾役な! あと鎧着てる馬鹿共を一人も逃がすんじゃねぇぞ!? とにかく目の前に居る僧兵を狩ることを第一に考えろ!」


「肉盾は酷い」


「お前のステなら剣刺さってもドットダメージも受けないだろ」



 私は持てる限りの声を絞り出した。



「ダメ……です……! オウカ……様がっ、殺されちゃう……!」


「あんな連中如きに死ぬくらい記憶が鈍ってなきゃいいけど、ねぇ!」



 オウカ様は私に着ていた服を押し付けると、不思議な形をした曲がった棒を構え、引きつった笑みを浮かべながら空いた手で私を抱える。

 その手は震えていて、必死に勇気を振り絞っているようにも見えた。



「あぁ、もう! なんでこんな面倒なことに巻き込まれなきゃいけなかったんだろうなぁ!? どーして俺は剣と魔法の世界で二百人相手にハンドガン持って銃撃戦しようとしてんのかねぇ!? わっかんねぇわ、俺の人生!」


「桜華、指示を」



 Lv1の少年は家に隠れて少女に指示を出す。

 端から見れば腰抜けだと指を差されそうだが、今の私には、そう――






「こっち来る人間は皆殺し、それ以上に指示いるか!? さぁ――宗教戦争とやらを始めようぜ!」






 ――本物の勇者に見えた。





【次回予告】


「何なんだ……何なんだ貴様等はっ!?」

「君が化物なら……俺達は何なんだろうな?」

「仲間は見捨てない、それが私達の掟」

「お久しぶりです、隊長殿」


「私は――」

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