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俺の部下の異世界無双  作者: 十六夜やと
序章~異世界転移~
1/12

プロローグ

この作品には以下の内容が含まれております。


・作者の現実逃避から生まれた作品

・痛々しいまでの中二病表現

・拙い文章力

・達観した主人公


以上の要素が苦手な方はブラウザバックすることをお勧めします。

それでもよろしければ、ゆっくり楽しんでいってくださいm(__)m





『さぁ! 突然だが君達には異世界に行ってもらおう!』




 校内に響き渡る拡声器を使わない騒音。

 休み時間に響く威厳溢れる少女の叫び声に周囲の人々が動揺する中、俺――櫻木桜華(さくらぎ おうか)は廊下の壁に背中を預けて崩れ落ちる。左手で目を覆い、失笑に似た口の動きで乾いた笑い声が出る。


 どうしてこうなったのか。

 なぜこうなったのか。


 先生方が廊下を走り回るのを尻目に、俺は掠れた声で呟くのだった。






「ほんとマジでふざけんなよ、暗闇(・・)……」






   ♦♦♦




 櫻木桜華は転生者である。

 宗教人類学者曰く、転生とは『現世で生命体が死を迎え、直後or他界での一時的な逗留を経て、再び新しい肉体を持って現世に再生すること』と定義しているらしいが、俺の場合は『異なる世界で死んだはずの魂と記憶が、現世に異なる肉体を持って再生した』なので少し違う。

 要するに俺は異世界の人間である。

 まぁ、異世界と言ってはいるものの、少し世界情勢の変わった現代の世界とでも思ってくれればいい。そこまで文明に差がないし、俺が生まれ育った世界が少々血生臭いだっただけで、今の俺が住んでいる日本と変わらない。


 物騒な場所で生まれ育った俺は物騒な出来事で死んで、元上司の自称全知全能の神みたいな奴に平和な現代日本へ転生させてもらい、悠々と第二の人生を謳歌していたってわけだ。

 人類史上稀にみる戦争のない平和な国・日本。

 そこに住む一般家庭の長男に生まれた時には、今まで出会い頭にチョークスリーパーホールドをキメてすみませんでした、と自称全知全能の神様に泣きながら感謝した。歩いてるだけでビルが倒壊したりしないし、自分の家が理不尽に木っ端微塵に吹き飛んだりしないし、すれ違った瞬間に殺傷沙汰へと発展しない優しい世界。俺にとってそこは天国のような場所だった。


 母親は普通の専業主婦。父親は平凡なサラリーマン。

 一つ下の妹とは物凄く仲が悪い……ってか、何故か一方的に嫌われていた。親が転勤をしないので小さい頃からの幼馴染や知り合いさんが多く、俺が現在通っている高校も小学・中学から見知る顔が結構いる。

 俺自身、前世の記憶のせいか学校の成績は中の上。運動神経も中の上。どこにでもいる普通の日本人らしい振る舞いをしていたため、目立つことなく現世を楽しんでいた。


 それなのに――



『やぁ、蒙昧で愚鈍で低俗な人類諸君!』



 どうして初っ端から人様に喧嘩を売る態度の、聞き覚えのある声が聞こえるのだろうか。

 是非とも幻覚であって欲しいのだが、



「な、何だこの声は!」


「どこから聞こえるの!?」


「校内放送じゃねーのかよ!?」



 これ全員に聞こえてるっぽいし、現実なんだろうなぁ。

 心の中で滝のような涙を流しつつ、ショックのあまり廊下のベタに尻餅をつく。

 こうして冒頭に帰るわけだ。



『おっと、まずは自己紹介がまだだったね。ボクの名前は……あー……もう、この際どうでもいいや。全知全能の神様だとでも思ってくれたまえ』



 ざわざわと非現実的な現象に教室にいるクラスメイトが騒めく。

 適当だけれど含みのある言い方に、どう反応していいか分からないのだろう。

 俺は『カンペ読みながら言ってたけど、書くの忘れたから適当に濁してるんだろうなー』と、瞳からハイライトを消して黄昏ていたが。



「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなり言われても意味が分からない! ちゃんと一から説明してくれないか!?」



 クラスメイトの中から声を上げるのは、小松原明人(こまつばら あきと)という名前の男子生徒。

 『天は二物を与えず』の故事を真っ向から否定したような、学力・運動能力・顔面偏差値の全てが高水準のリア充の敵。校内の男女共に評価が非常に高く、ラノベの完璧優等生を具現化したような、非の打ち所がない男。

 そんなクラスの核たる人間が正論を述べたので、追従する形で批難の声が上がる。


 俺でも理不尽な導入だと思う。

 こんなシナリオ考えたのは声の主に間違いがないだろうし、ちゃんと下書きや推敲してから巻き込むなら巻き込んでほしい。巻き込まれたくはないが。



『え。嫌だけど』



 だが声の主は説明はしない。



『こっちは全知全能の神様なんだよ? 君達人間に拒否権なんて当然存在しない。むしろ前置きがあるだけ感謝してほしいくらいだけどねぇ。ボクが君達を考慮する利点ってある?』


「そんな横暴な……」


『だって神様だもん』



 神は人の心が分からない――とは少し違うんだろうけど、そもそも『神』が人の心情を優先するとでも思ったのか。声の主と長い付き合いのあった俺は大きく溜息をついた。

 あれに逆らうなど愚の骨頂。

 長い経験で培われた諦めの境地を久方ぶりに発揮し、俺は自称全知全能の神様の声に耳を傾けた。



『もちろん悪いことばかりじゃない。君達に行ってもらうのはRPG風の異世界! レベルや経験値が存在し、魔法や剣が全てのファンタジーワールド! しかも君達にはチート能力を授けよう』



 適当な路銀渡されて紛争地帯に転送と何が変わらないんでしょうかねぇ。

 アホかと引きつった表情を浮かべようとしたとき、クラスメイトから「チート……本当……?」とか「RPG世界か……」と、妙に納得している連中がいるのに驚く。


 ちょっと待て。貴様等は契約書も見ないでサインする気か?

 どうして希望が生まれたみたいな顔してんの?

 美味い話どころか裏しかねぇじゃん?



「ふむ、チート能力とは具体的にどういうものだ? 能力を把握していなければ、我々は異世界の地で動きようがなく、それは貴方が望む筋書きにならないとは思わないか?」



 そう小松原とは違うクラスメイトの女子が堂々と神に進言する。

 彼女は神崎夕夏(かんざき ゆうか)。この学校の生徒会長を務めており、小松原と同じような人種……つまり才色兼備の校内で一・二位を争う美少女だ。ファンクラブらしきものも作られている噂もあり、どうしてこうも前世の友人が好きそうな王道ラノベ展開を絵に描いたようなクラスに、俺が在籍しているのか意味が分からない。

 彼女は神がどこにいるのか分からないため、とりあえず上に向かって怒鳴る。


 彼女の言い分は声の主の『楽しそうだから転移させたろ』的な雰囲気を言葉の端から感じ取り、それを逆手に取った発言で情報を引き出そうとしているようにも見える。

 さすが生徒会長様……と称賛したくもなるが、アイツ確か心も読めるはずだから思惑バレバレだと思う。



『ほうほう……それもそうだねぇ』



 分かってて乗っかるのがアイツの悪いところだ。



『詳細なんてそんなの異世界でステータス確認すれば一発分かるだろうから伏せとくとして、少なくとも超しょぼい能力ではないことはボクの名に懸けて保証するよ。そのチート能力を使って世界を救うなり、ハーレム作るなりすればいいさ』


「そ、そんなぁ……」



 名前伏せてるだろってツッコミは置いといて、涙声で訴えるのは俺の幼馴染・工藤葵(くどう あおい)

 気が弱くて守ってあげたくなるような小動物系で、密かに人気があるため、告白して玉砕した男子生徒は数知れず。俺ん家のお隣さんで交流があって色眼鏡で見られることもあるが、こういうタイプの悪女を前世で何千回もシバき倒した経験がある俺にとって、悪意がなくとも彼女は物凄く苦手な部類に入る。

 そして彼女の魅力がアイツに通用するわけがないので、話は唐突に切り替わった。



『それじゃあ説明はこのくらいかなー? それでは、良き異世界ライフを!』


「待っ――」



 展開についていけないクラスメイトの数人が待ってと叫ぶ声を無視して、見たことのない幾何学模様の魔法陣みたいな何かが教室中・廊下の生徒や先生一人一人の足元に浮かび上がり、一瞬にして彼等を飲み込んで跡形もなく消え失せた。

 恐らく学校中の人間が魔法陣に飲み込まれ、ファンタジー世界へと誘われたのだろう。

 俺以外は(・・・・)


 さて、俺だけ転移を免れた……なんて思うほど馬鹿じゃない。

 ひとまず俺は立ち上がろうとして――目の前に突如として現れた気味の悪い黒い魔法陣から現れた一人の美しい銀髪の少女を睨みつける。床に描かれたそれからニヤニヤ笑みを浮かべながら現れた十代前半くらいに見える少女は、この世の全ての美を集結させたような、その場にいるだけで相手を魅了してしまう美少女を模っていた。

 黒いゴスロリのふわふわした飾りをつけたスカートを翻し、俺に手を差し伸べる。



「久しぶりだね、×××――ここでは桜華、かな?」


「……チッ、何の真似だ。暗闇」



 銀髪の少女――暗闇は小柄な体格にそぐわない力で俺を立たせた。

 暗闇――俺を日本の一般家庭に転生させた、前世で俺の上司に当たる美少女で、生命というものが『畏れ』というものを抱いた瞬間に誕生した最古の生命体。特定の名を持たず、あらゆる神話の頂点に立つ神格の原点たる存在。

 自称全知全能の神とは皮肉めいた言い方だった。本当にその通りで、指を鳴らすだけで世界を終らす――なんて笑い話を本当にすることが可能で、本当にやったことのある、過去・現在・未来に生きる『自然現象』。

 俺が前世で住んでいたところ――通称『街』とも呼ばれる場所で、全知全能であるが故に街のあらゆることに不干渉を貫き、しかし面白いことには率先して参加しようとする、快楽主義の絶対者。始祖にして原点。頂点にして絶対。


 こんな少女みたいな姿をしているが、彼女に定まった形はない。

 気障な好青年にもなれるし、筋肉モリモリのオッサンにもなれる。



「ボクの導入はどうだった? 知的かつエレガントな異世界転移だったでしょ?」


「どこに知的とエレガントの要素があったのか小一時間問い詰めたいんだが? こんなクソみたいなシナリオ作ったアホは脳髄ぶちまけて死ねばいいと思う」


「そんなに酷かった!?」



 火を見るより明らかにショックを受ける暗闇。

 俺は憤りと共に、自然な流れで彼女にチョークスリーパーホールドをキメた。



「平和な第二の人生をぶっ壊しやがった背景にはどんな思惑があるのかな? 全知全能の神様? 一般企業に就職して、寿命で生涯を終える計画を潰したんだから、それなりの説明はあるよなぁ?」


「ちょ、待、痛っ……!」



 どうせコイツが人間の握力で根を上げる訳がないので、この体勢のまま彼女の話を聞く。

 美少女にチョークスリーパーホールドをかけながら話を聞く光景は、さぞかし第三者から見れば物凄くシュールに映るだろう。



「まったく……どうしてそんな夢のない計画を立ててるのさ。君にはもっと夢と希望に溢れる冒険心が足りないと、常日頃心配してたんだよ?」


「あの街は冒険心どころか化物の巣窟だっただろうが。冒険したら死ぬわ」



 誰だって紐なしバンジージャンプなどしたくない。

 あの街で冒険心を発揮するということは、それよりも無謀なことだと想像してもらって構わない。命がいくつあっても足りんわ。



「どっちにしても桜華には異世界に行ってもらうからね? これはボクが決めたことだし、もちろん拒否権はないのは……さすがに知ってるか」


「……解放されたと思ったんだけどなぁ」


「ボクとしてはチョークスリーパーホールドから解放された――あ、ごめん。今『ミシッ』って言った。待って待って待って」



 彼女が根を上げそうになった刹那、暗闇の顔面をがっちり掴んでいたはずの右手から物体がなくなり、次の瞬間には数歩離れたところで顔の側面を擦っている外見だけ美少女がいた。

 俺は鼻を鳴らし、壁に凭れ掛かりながら腕を組む。



「どーせ、お前の暇潰しで異世界に飛ばされんだ、それくらいのストレス発散くらい罰は当たらんだろ。……あぁ、俺のクラスメイトみたいに楽観視はしてないからな? 俺は異世界で何をすればいい? 加えて、そのチート能力とやらと飛ばされた先(・・・・・)は吐けよ?」



 俺の質問に振り返った暗闇の表情は不気味なまでの笑みだった。

 トラブルメーカーで面白いこと大好きな奴のことだ。物凄くめんどくさい場所に飛ばして、巻き込まれる様を高みの見物と洒落込むのは目に見えている。俺を彼等(クラスメイト)と敵対させるのか協力させるのかについても、事前情報が欲しいところだ。

 しかし――案の定大した情報は得られなかった。



「うん? 君も自由にしたらいい。どうせ桜華はボクの望む以上の成果を出してくれるんだから、むしろ自由に自分が思った通りに異世界を過ごしたらいいよ。それと、桜華のチート能力かぁ。何にしよ――」



 良いこと思いついたと、言葉を切る暗闇。

 正直嫌な予感しかしない。



「やーめた。桜華にチート能力はあーげない」


「は? ちょっと待てやコラ。ふざけんじゃねぇぞ」


「ふざけてないよ。ただでさえチートな桜華にチート能力持たせても面白くないじゃん」



 頬を膨らませる暗闇に引きつりながら悪態をつく。

 一見可愛い行為に見えるけれど、こう見えて歳は億超えてる。



「俺が人間だってこと忘れてないか!?」


「知ってるよ。だからこそ今がちょうどいい(・・・・・・・・)



 暗闇がパチンと指を鳴らすと、俺の足元に幾何学模様の魔法陣が生まれた。周囲に理解できない文字の帯がゆっくりと回り、バチバチと足元に青白い稲妻が迸る。

 クラスメイトの時とは反応が違う。

 出ようとしても阻まれることは明白。俺は目の前に居る少女の形をした何かを睨みつけた。



「櫻木桜華、異世界での行動の全てを許そう。世界を救うなり壊すなり、大いに結構! 盛大に異世界を駆け巡り、ボクを十二分に楽しませてくれ!」


「チートなしで出来るわけねぇだろボケがぁ――」



 最後の罵倒を吐こうとしたところで視界が青白く染められる。

 俺は薄れゆく景色の中、平和だった日常が走馬灯のように流れた。

 もう戻れない。そう割り切って走馬灯を脳内から追い出し、混沌とした微睡に意識を委ねるのだった。




   ♦♦♦




「彼等に与えるのは確かにチート能力だ」



「現地の住人達よりも遥かに卓越した力の権化であり、異世界の勢力図を大きく変えてしまうだろう。偽りの力に酔いしれ、自分達の愚行を正当化させてしまうくらいには強力だ。与えたボクが言うのもなんだけど、人が力に溺れて堕落していく様は滑稽だからね」



「だけど君は違う」



「今の君が築き上げたわけじゃないが、前世だとしても君自身が自分で手にした力なのは誰も否定できないだろう」



「その『力』が君を認めているのだから間違いない」



「場は整えた。役者は揃えた」



「さぁ、かつての君の力を見せてくれ」






「『怠惰の魔術師』君?」




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