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no,4

「……あの~」

「煩い黙れ口を開くなこの魚類」

「……」


 アオイの言葉に身を竦ませたサラは黙って後をついて歩く。

 今朝の出来事は……彼女的に未来永劫忘れることにした。


 裸で男性を抱きしめて眠るなんて。

 子供の頃から聖典を見続けて王子様との純愛を夢見て来たのにだ。


 起きてから一通り大騒ぎして……それから怒る相手に全力で謝り続けた。

 迫害時代のことを長老たちから聞かされていたのもあって咄嗟にやってしまった凶行だ。

 だからこそ素直に迫害されていたことを説明した。口封じしようとしたことはただの恐怖だったと説明した。


 黙って聞いていた彼は、ネチネチと嫌味を言ったが最後は許してくれた。

 殺そうとした自分を"デコピン"なる額を指で弾く行為一回で許してくれたのだ。

 弾かれた額を両手で押さえサラは心の底から驚いた。


 それから二人で食堂に出向いた。

 女性店主に『昨日はもう……色々と凄かったみたいね』と言われて顔を真っ赤にさせた。

 剣で刺されたアオイは血で汚れた服を洗濯出来るか確認していた。


 昨夜の食事の話も有耶無耶になっていたので、お詫びの意味も込めてサラは食事を奢った。

 出来上がるまで他愛もない会話で時間を潰すはずだった。

 また失敗してしまった。


 つい相手の職業である『神官』について質問してしまったのだ。

 朝食や依頼を求めて客席が8割がた埋まっている食堂で。


 結果とんでもない騒ぎになった。


 冒険者をしている神官の大半はパーティーに加入しているものだ。

 どこのパーティーにも加入していない神官など、冒険をしている者から見れば喉から手が出るほど欲しい逸材だ。


 勝手に始まった争奪戦に辟辟していると……五人組のベテラン風のパーティーが勧誘して来た。

 近くで発見された遺跡の探索に来たパーティーだ。

 全員が街売りでは無い武器や防具を装備していた。


 それを見てサラは純粋に思った。『これでお別れか……』と。

 何故そんな風に思ったのかは分からない。でも悲しくなったのは事実だ。

 苛立った様子でアオイは五人組のパーティーに向かい口を開いた。


『男共とつるんで仲良くする趣味は無い。俺を誘いたかったら最低でもそこに座って居る程度の美人に生まれ変わってから出直して来い』と。


 呆気にとられた。食堂に居た全員がだ。


 どう見ても良い話に思えるのに……それをアオイはあっさり蹴り飛ばしたのだ。

 男たちは額に青筋を浮かべつつ、『気が変わったら声を掛けてくれよな』と言ってあからさまに怒りながら食堂を出て行った。


 前を歩くアオイはずっと怒ったままだ。

 食事の最中も、その後も怒っている。


 確かに自分の口が災いして起こった。

 でも……謝る機会をくれないのは酷い。


「……アオイ?」

「……」

「ごめんなさい。神官であることを隠しているとは知らなかったので」

「……」


 反応が無い。相手は無視を決め込んでいるとはっきりと解った。


「本当にごめんなさい」

「……」


 と、彼が足を止めた。

 ガシガシと頭を掻いてからこっちに顔を向ける。


「分かった。だからもうどっかに行ってくれ」

「……」

「俺は誰とも組む気は無い。面倒ごとはたくさんなんだ。一人が良い」

「そうですね。ごめんなさい」


 ベコッと頭を下げてサラはその場から逃げるように走り出した。

 ポロポロとこぼれる涙もそのままに全力で走った。




 言いようの無いイライラとした物を出すようにアオイは深く息を吐いた。


 泣いていた。

 ポロポロと涙をこぼして走って行った。

 女性のそんな姿を見て笑っていられる精神は持ち合わせてない。


 分かっている。自分の職業がバレるのは時間の問題だ。

 早いか遅いかだけで、たまたまそれが今朝だっただけだ。


 自分の行為がただの八つ当たりだと分かっている。

 彼女の知恵が足らないことぐらい昨日からの付き合いで理解できている。


「っだよ! もう誰とも係わらないって決めたんだろ!」


 声に出して揺れ動く心に言い聞かせる。

 一人で活動するのに不満は無い。

 唯一気掛かりなのが……相手を泣かせてしまったことだ。


 胸が痛いほどに苦しい。罪悪感で押し潰されそうになる。

 だから女性は嫌なんだ。最後にあんなズルい武器を使って来る。


 追い駆けたくなる衝動をどうにか押さえつけ……アオイは覚悟を決めてその場に座った。

 動かない。しばらくすれば相手は何処かへ行ってしまうだろう。

 基本街の外で夜営して暮らすと言っていたから会うのは朝夕くらいだ。

 それだって気を付ければ回避することぐらい出来るはず。


 大丈夫。涙は女の武器だから惑わされるな。


 出会ってまだ一日も経っていない相手をそんなに気に掛けることの方が変なんだ。

 幾重にも言葉を重ねて自分自身を説得し、アオイは立ち上がると……とりあえず近場で素材集めを始めた。


 今日ぐらいは真面目にやらないと、今夜の食事代が怪しくなって来た。

 適当に歩いては手当たり次第に素材を集めて行く。

 素材を入れる"袋"がいっぱいになるまで……夕方まで素材集めに精を出したアオイは村に戻ることにした。


 この時間帯で戻るとサラとまた出会ってしまいそうだが、その時は部屋に逃れて時間をずらせば良い。

 方針を定めて歩き出した彼は……目を点にした。


 カッビィー3体に追われている人魚(ばか)が居たからだ。




(C) 甲斐八雲

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