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こちらゲーム要素はうっすらあるだけで、基本は異世界物語です。
※後書きに、簡単なキャラ設定あります。
よろしくお願いします(^∇^)
煉瓦の建物の間に迷路の様に張り巡らされた石畳の敷かれた路地が一つの観光スポットにもなっているサワーガー王国最大の賑わいの街プシナ。
いつもと変わらない朝の賑わいの中、その変化は突然やって来た。
その時プシナの中央にあるカフェに勤めるリリーは、開店前にテラス席の準備をしていた手を止めて空を見上げた。
突然ブルーがかった視界に驚いて目を凝らすと、空に白く激しい光が現れたのだ。
激しい光は流れ星のようにカーブを描きつつ落ちていく。
あの方角は、王宮?
リリーは首を伸ばして裏路地の建物の間に落ちていく光を見つめた。
落下した衝撃は感じなかっから、流れ星は途中で燃え尽きたのだろう。
今日はこの話題で持ちきりになるかもね。
リリーはそう考え、今見た光のことを店長に報告しようと店内を振り返る。
「店長、今の光を見ました?」
だが、リリーに返ってくる声はなかった。
「店長?」
さっきまで屋内の開店準備をしていたはずの店長は、虚ろな目をしてぼうっと立っていた。
「マリアさん!!店長の様子が…」
同じく準備中のはずの同僚のマリアに声を掛けたが、彼女も虚ろな目で一方向を見ている。
二人に近付いての目の前で手を振るが反応はない。
「あ、ユースは…」
リリーはもうひとりの同僚である料理人のユースを探す。
しかし厨房内には誰も居なかった。
裏口の外も覗いてみたが、人影はない。
『…しゃいませ』
店の方から接待をする店長の声が聞こえた。
さっきの変な態度は店長達のイタズラだと判断し、リリーは厨房出入口の鏡で制服をチェックし急いで厨房を出る。
笑顔で店内に戻って、お客様に挨拶をしようとした。
「いらっしゃ…?」
最後まで言えなかった。
『いらっしゃいませ』
またも店長の声がした。
しかし店内には迎えたはずのお客の姿はないのだ。
「…や、やだな。店長、またイタズラですか?」
リリーはそう言いながら、店長に近付こうとして、またしても違和感を感じる。
『お待たせしました』
そう言いながらマリアが誰も居ないテーブルに湯気の立つコーヒーを運んでいたのだ。
マリアは一旦カウンター内に戻り、直ぐにテーブルに戻りまだ温かなカップを片付けては新しいコーヒーを準備して運ぶ動きを繰り返していた。
「マリアさん…」
『いらっしゃいませ』
マリアを眺めていたその間、店長はそう繰り返していた。
マリアと同様に虚ろな目で、カウンター前に立った店長は入口の方を見て『いらっしゃいませ』と笑顔で言った後に誰かを席に案内する仕草をし、片側の椅子を引くと軽くお辞儀をしてまたカウンター前に戻るという動きを繰り返していた。
何が起きてるの?
他の人は?
リリーはそんな尋常ではない二人の行動に寒気を感じつつ、外に飛び出た。
『今から仕事かい?』
「あ、フリンさん。助け…」
隣接する花屋の奥さんのいつもの声に振り向くと、そこには笑顔なのに精気のない目をしたフリンの姿があった。
『これ、持って行きな』
一輪の花を差し出し、リリーではない誰かを見送ると店頭の鉢植えの世話を始め、また誰かに気付いたかのように笑顔で振り向いて声を掛ける。
その一連の動作を、店長やマリアのように繰り返していた。
震えそうになる体を両腕で抱き締め、周囲に目をやる。
そこに見えた光景には違和感しかなかった。
いつもお喋りな小物店の店主は店先を無言で掃除し続け、基本二人で動くはずの警備の騎士は一人で裏路地を出たり入ったりし、毎朝この時間にカフェの前を通る母子さえも…走り出した子供が道の真ん中で何かにぶつかるように転んで母親がその誰かに謝る…そんな決まった動きを各々が一定周期で何度も繰り返している。
共通なのは、だれもが虚ろな目だということ。
みんな…どうしたの!?
リリーは駆け出した。
表通りを抜けた先にある騎士団の詰所に向かって。
「助けてください!!」
しかし、常時2〜3人いるはずの詰め所には誰も居なかった。
そこでリリーは気付いた。出会った人の少なさに。
花屋には旦那さんと従業員が一人いたはずだ。
騎士は二人組の片割れ、小物店にも従業員が二人いたはず。
詰所までの通りにも同じ動きを繰り返している人の姿を見掛けたが、とにかく少なすぎた。
そしてリリーの職場でも料理人のユースが居なくなっていた。
ぞっと背筋が凍る。
あ…さっき見たあの光。
あのせいかもしれない。
あれが落ちて行った王宮に行けば何か分かるかも。
そう思ったリリーは、詰所裏に置いてある魔道二輪車に飛び乗ると王宮に向かって走らせる。
途中にある朝市も、いつもなら沢山の人でごった返しているのに店よりも少ない人数しか確認出来なかった。そして出会った人はみんな、決まった動きを繰り返していた。
その中には、猫や犬、そして鳥の姿もあった。
行動が何かに関連しているとか繋がっているのかもしれないと考え注意深く観察してみたが、各自が個別にプログラムされた通りに動いているだけみたいだった。
女王様なら…
リリーは僅かな希望を胸に、王宮への入り口を目指す。
ぐるりの堀に架かる跳ね橋は降りていた。
魔道二輪車を降りて、リリーは門番を見つめる。
やはり、虚ろな目をしていた。
「失礼します」
こんな事態でなければ、決して来ることのない場所だった。
リリーはゆっくりと橋を渡り王宮内へと足を踏み入れ、さらに奥に進む。
途中でメイドらとすれ違うが、誰一人と侵入者であるリリーを気にしていない。
彼女らも虚ろな目で同じ動きを繰り返しているだけだったからだ。
王宮のみんなもおかしくなっているの?
リリーはショックで立ち止まる。王宮は迷路のようで、誰かに気付いて貰わなければ女王の元にも辿り着けそうに無いことに気付いたのだ。
『どうぞ、女王のお部屋はこちらです』
ふと聞こえた声にそちらを向くと、やや着飾った感のある髭の男が誰かを案内するように歩き出した。
リリーは間隔を開けてその後をつける。
髭の男はコツコツと御影石の階段や通路を迷うことなく歩き回り、ある大きな扉の前に到着した。
そこまでが男のプログラムだったようで、直ぐに踵を返してその場を立ち去る。
きっと暫くしたら、また先程の場所からこの扉の前まで来るのだろう。
重厚そうな扉の向こうが女王の部屋なのだろうか。
リリーは恐る恐るノブに手を掛けた。
グッと押してみたが、開きそうもない。
コツコツコツ…階段を上がる靴音が聞こえた。
さっきここに来た髭の男かとも思ったが、階下から戻ってくるには少し早すぎる。
リリーはサッと近くの壷の陰に隠れた。
コツコツ…ザッザッザッザッ…靴音はひとり分では無かった。
リリーは現れた人物を見て、先頭にいるのがこの国の宰相であることに気付く。
外交で忙しい女王に代わり、国内で民衆の集まる行事に姿を見せる宰相の顔はリリーもよく知っていた。
いつも柔和な微笑みを絶やさない努力と我慢の人として、伝記も出版されるくらいに国民人気のある人物なのだが、今日のその目は虚ろで…
『女王陛下、お目通りを』
言葉にも覇気がなかった。
そんな宰相の後ろに、見慣れない服装の青年が四人いた。
額や胸に防護装具を身に付けた者、頭から踝までのマントを纏った者、どこかの宗教の装束を着用した者、そして…顔だけが獣の者。
リリーは、息を潜めて彼らを観察する。
『勇者様方、暫くお待ちを…』
宰相がそう言って動きを止めた。
それが彼のプログラムらしい。
彼らは何者なのだろう…
耳を澄ませるリリーに聞こえたのは
「なんか、対応遅くね?」
「古いゲームだからね。動作が遅いのは仕方ないよ」
と言う防護装具とマントの青年の会話だった。
「女王の扉が開くまで抜けて良いかな?
長くなりそうだから、何か摘まめるもん準備してインするわ」
「あー、良いよ。戦闘始まる前には戻って来いよ」
ビュンと不快な音がしたと思ったら、宗教の装束の青年が消えた。
消えた?
この世界には魔道という力があるが、一瞬で姿を消すような魔道は聞いたことがない。
魔道の理では「この世にある全てに『素』なるモノがある」とされ、それに関与し個々の決められた動きを強めたり弱めたりする事が出来る者を魔道師と呼ぶ。
魔道師は物を動かす事や解体などは出来るが…物体そのものを消し去るほどの関与が出来る者は…唯一、伝説の魔道師一人だけだと言われていた。
さっき宰相は彼らのことを『勇者様方』と呼んでいた。
リリーはあることに気付く。
古の伝説を元にしたと云われる絵本を思い出したのだ。
この国の民ならみんな幼い頃夢中で読んでいるだろう『異国の戦士物語』という絵本の主人公。
伝説の魔道師と共に戦ったとされる異国の戦士のことを勇者と呼んでいなかったか…
ストーリーはこの世に魔王なる邪悪な化身が現れた時にやってくる四人の若者達が、魔王を倒す旅に出て魔王を打ち倒す話だったはずだ。
奇しくも目の前に現れた青年は四人。
今は一人いないが、絵本に描かれている姿とどこか似ている気がする。
『勇者様方、こちらに』
宰相が再び動き出し若者らを少し下がらせると、ギギ…と重い音を発てながら女王の部屋の扉が開いた。
あ、外開きだったんだ…
少しずれた感想を持ちつつ、リリーは扉が開ききるのを見ていた。
「あなた方が『勇者』…いえ、『プレイヤー』ですね」
奥から凛とした女王の声が響く。
宰相はまた動きを止めて扉の横で門番のように直立していた。
その向こうに御簾の掛かった台座があり、そこに女王が座っているらしい。
「あれ、女王は自立型AIなの?」
マントの青年が軽い口調で女王に話し掛けたことに、リリーは驚く。
リリーら国の民にとって女王とは、直接話すことが憚られる雲の上の人なのだ。
あんな風に口を利いては…親衛隊に抜刀されてもおかしくない。
リリーは真っ青になりながら、マントの青年の行く末を見守る。
「やはり、そう認識されているのですね」
だが親衛隊が姿を現すことなく、それどころか女王は自ら御簾を上げて姿を見せると話を続ける。
「勇者、名前は?」
「クラウド」
「それはゲーム上の勇者の固定名ですね?でしたら、あなたは獣人サーガ、あなたは魔道師クルス、そして…」
「大変だクラウド!!」
さっき消えた宗教の装束の青年が、ビュンという音と共に現れた。
「賢者ナイルですね」
「はぁ?なんで女王がプレイヤー名を知ってるんだ!?」
賢者と呼ばれた青年が、胡散臭げに女王を見ると
「自立型AIらしいよ」
魔術師と呼ばれた青年がそう伝える。
しかし女王は否定した。
「残念ながら私は自立型AIなどではありません。
そしてこの世界はゲームではありませんよ」
四人は台座の女王を見上げた。
「ここはザーブといわれる、あなた方の住むアースの平行世界です。分かりやすく言えば異世界ですね。
この国はサワーガー。私はサワーガーの女王マリー」
女王の言葉に、
「そんな設定あったっけ?」
「この国はルナじゃないのか?」
「説明書にはそんな事書いてなかったぞ」
勇者と賢者と魔道師の三人はボソボソと顔を寄せあって、意見を交換する。
そんな中、獣人だけが無言で成り行きを見守っているようだった。
「獣人サーガはどう考えているのですか?」
女王が、獣人に向かい話し掛ける。
「…俺は獣人の治めるセカムという星から来た。名はカムラと言う。
サワーガーの女王の言葉が真実ならば俺の世界であるセカムも、ザーブやアースの平行世界の1つだろう」
その言葉に驚いたのは女王よりも、勇者達三人だった。
「「「え?お前、俺達と同じプレイヤーじゃないのか!?」」」
「…ああ。黙っていて悪かった。俺も久々に見る人間に驚いて混乱していたんだ」
獣人カムラは、この国でも上流層のするような優雅さで謝罪の意を示す。
「カムラは王族ですね」
「はい。継承順位は後尾ですが…」
女王とカムラのやり取りを、三人はただ呆然と聞いており、壷の陰のリリーは目の前で交わされる会話の内容にパニックに陥りかけていた。
読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m
《登場人物設定》
リリー
ザーブのサワーガー国の西の僻地出身。
童顔、濡れ羽色の髪に煉瓦色の瞳。
魔道が使えるが経済的な問題から魔道学校には通わず、王都で有名なカフェの店員として働く一般人(21歳、164㎝)。
勇者クラウド(固定プレイヤー名)
勇者の設定は18歳身長184㎝細マッチョの金の短髪に水色の瞳。
地球では黒髪黒目の九州出身者で、上京して下宿暮らしの大学二年生(20歳、182㎝)らしい。
※バグのせいで本名が思い出せない。
魔道師クルス(固定プレイヤー名)
魔道師の設定は22歳で、身長176㎝銀の髪セミロング&緑の瞳。
地球では茶髪焦げ茶の瞳の関東出身者で、実家住みの営業課の会社員(24歳、176㎝)らしい。
※勇者に同じ。
賢者ナイル(固定プレイヤー名)
賢者の設定は26歳で、身長195㎝紫の長髪に金の猫目。
地球では黒髪焦げ茶の瞳の関東出身者で、バレー部所属の高校一年生(16歳、184㎝)らしい。
※勇者と魔道師に同じ。
カムラ
セカム(星1つが国)の王宮出身。
顔は黒豹で両肩から背骨に沿って尾っぽまで黒い毛皮に覆われているが体は人。マッチョで長剣を操る。
金と藍のオッドアイ。
セカム王の弟だが、セカム王の子供が50人ほどいるので王位継承権は無いに等しい(31歳、195㎝)。
※獣人サーガ
ゲームに出てくる勇者パーティメンバーの一人で、人型の獣でピューマ。戦うときは、完全獣化し四本足になる。
カムラと同じ黒毛の猫科のキャラだった。
マリー女王
ザーブのサワーガーの王宮出身。
見た目は20代後半で、銀髪に青紫の瞳。
遥か昔地球からトリップしてきた勇者と魔術師の子孫で、遠見の力を持っているため地球の事にも詳しい。
しかし、セカムの存在は知らなかった。
夫と子供4人と孫が3人いる(47歳、167㎝)。
誤字脱字や表現の誤り等に気付いた時は、断りなく訂正が入ると思います。
ご了承ください。