90.属性強化魔石
俺達は、イケブの街の魔石店にやって来た。
「こんにちは」
「これはセイジさん、いらっしゃいませ」
この前助けた、魔石店の店長さん、お名前を『キセリ』というそうだ。
「キセリさん、その後、体調はどうですか?」
「おかげさまで、元気に働けております。今日は何かご入用で?」
「ここで【属性強化魔石】を扱っていると聞いて来ました」
「【属性強化魔石】ですか、風水土でしたら直ぐにでもご用意できますが」
「欲しいのは雷氷闇光なんですが……」
「氷と闇であれば、1ヶ月ほど待ってもらえれば、ご用意できます。雷と光は流石に……」
「1ヶ月って、そんなにかかるんですか?」
「氷や闇の【属性強化魔石】を作成する場合、その魔法を使える魔法使い様に、直接お願いする必要があります。連絡やらそこまでの行き来などの時間もありますので、どうしても時間がかかります」
自分たちがその魔法を使えることを、バラすかどうか迷ったのだが―
ひとつの提案をしてみることにした。
「もしここに、その魔法が使える魔法使いを連れてこれたら、作り方を教えてもらえませんか?」
「え?」
「もちろん、作った【属性強化魔石】は、他で売ったりしないと約束もします」
「え、ええ、あなた方は命の恩人ですし、別に構いません。しかし、そういった珍しい属性魔法が使える魔法使い様は、お忙しい方ばかりなので、そう簡単には……」
「これから話すことは、他言無用に願います」
「あ、はい」
「私は、闇と氷の魔法が使えるんです」
「え? えぇー!?」
「しー!」
「あ、す、すいません。本当ですか!?」
俺は、【影コントロール】と、【氷生成】をやってみせた。
「す、すごい、闇と氷両方使える人が居たなんて!」
雷も使えるとか言おうものなら、ぶっ倒れそうな勢いだ。
「それで、作り方を教えて頂けますか?」
「はい! もちろんですとも」
キセリさんは、また例の【ヌルポ魔石】を奥から持ってきて、テーブルの上に置いた。
「【ヌルポ魔石】ですか」
「はい。これに2つの魔力を同時に加えることで、【属性強化魔石】が出来上がります」
「2つの魔力?」
「1つは、作りたい属性の属性魔力、もう1つは、【肉体強化魔法】の【魔力強化】の魔法です」
「【魔力強化】? そんな魔法があったんですね」
「ええ、【魔力強化】は私が出来ますので、セイジさんは属性魔力の方をお願いします。【氷の魔法】を先でもいいですか?」
「はい、分かりました」
キセリさんと俺は、二人で挟むように【ヌルポ魔石】に手を置いた。
「では行きますよ。3、2、1、はい!」
合図とともに、【氷の魔法】を【ヌルポ魔石】に加えていった。
しばらくすると【ヌルポ魔石】が光り始め。
「はい、これで大丈夫です」
手を離すと光が収まり、【ヌルポ魔石】は、水色の魔石に変化していた。
【鑑定】すると、【氷強化魔石】になっていた。
「こうやって作るんですね~」
「は、はい、そ、そう、なんです」
ふと見ると、キセリさんの顔色が悪くなっていた。
「キセリさん、どうしたんですか!?」
「この、作業は、かなりの、魔力を、使うの、ですが…… ハアハア…… セイジ、さんは、魔力が、多いんですね」
「そうなんですか!」
自分を確認してみると、MPが100ほど減っていた。
俺にしてみれば、大したことはないけど。他の人にとってMP100は結構な量なのだろう。
「【魔力強化】は、どうすれば使えるようになるんですか?」
「【肉体強化魔法】が、使える方でしたら、少し練習すれば、使えるように、なると思います」
「そうなんですか、練習してみます」
「え!? まさか、【肉体強化魔法】も使えるんですか?」
「あ…… ええ、そうです」
しまった、思わず口が滑ってしまった。
「なんとも、羨ましい限りです……」
「くれぐれも、他言無用に願いますね」
「はい!」
まあ、真面目そうな人だし、大丈夫だろう。
「それで、この【氷強化魔石】なのですが…… 買い取らせて頂けないでしょうか?」
「買い取るも何も、作り方まで教えてもらったのですから、キセリさんの物ですよ」
「そんな、普通【氷の魔法】を込めてもらう作業は、結構なお金でやってもらっていますので、そういうわけには行きませんよ」
「じゃあ代わりに、何か面白そうな魔石を下さい」
「分かりました。セイジさんには敵いませんね」
キセリさんは奥から、変な形をした魔石を持ってきた。
「これなんか、どうでしょう」
「変な形の魔石ですね」
その魔石は、『ひょうたん』のような形をしていた。
「これは【双子魔石】といいまして、最近出土した、それなりに珍しい魔石です」
「【双子魔石】って事は、それは2つで1つの魔石って事ですか?」
「はい」
キセリさんは、くっついていた2つの【双子魔石】を、外して見せてくれた。
「このように、2つに分かれますが、近づけると、先ほどのように、くっつきます」
「くっつくだけですか?」
「いえいえ。では、2つに分けた片方を持って、そこで待っていて下さい」
そう言って、俺に魔石の片方を持たせ、キセリさんはちょっと離れた位置に移動した。
「それでは、これから【双子魔石】に振動を与えます」
トントン
キセリさんが、自分の持っている【双子魔石】を叩くと―
俺の持っていた【双子魔石】もトントンと、震えた。
「あっ!? なんか震えました」
「そうです、この【双子魔石】は、片方に振動を与えると、どんなに離れていても、もう片方も同じように振動する魔石なんです」
「なるほど、面白い魔石なんですね」
「まあ、それだけなので、あまり役には立たないのですが。この魔石で2つのペンダントを作り、恋人同士で身につけ、愛を確かめるのが、最近流行しておりまして」
「それは素敵ですね」
「お役に立てるかどうか分かりませんが、いかがですか?」
「いい!! これいいですね!! これ、もっと欲しいんですけど、もっとあります?」
「すいません、今はこれ一組しかありません。魔石掘りの人たちが戦争に借り出されていて、戦争が終わるまでは難しいと思います」
「そうですか、戦争が終わったら、これを仕入れておいてもらえませんか?」
「はい、分かりました。仕入れておきます」
俺はキセリさんと握手をして、店を後にした。
「兄ちゃん、【双子魔石】をそんなにいっぱい手に入れてどうするの? ハーレムを作って、一人ずつ【双子魔石】のペンダントを持たせるの?」
「まあ、見てろって」
俺は、インベントリから、紙コップとセロテープを取り出し、紙コップの底に、セロテープで【双子魔石】を片方ずつ貼り付けた。
「エレナ、これを持ってみて」
「は、はい」
俺は、少し離れ、紙コップに向かって話した。
『もしもし、エレナ、聞こえますか?』
向こうのほうで、エレナがビックリしている。
『セイジ様、聞こえます! これって、どうなっているんですか?』
『声は空気の振動だから、【双子魔石】でその振動を、遠くまで届ける事が出来るんだよ』
『す、すごいです!!』
さて、この思わぬ新製品を、何に使おうかな~
双子魔石のペンダントを渡す相手が欲しい。
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