006.インベントリ活用法
目が覚めた。最近、朝早くに目が覚めてしまう、歳のせいかな? 昨日、早くに寝てしまったのも原因かもしれない。
俺は、寝ぼけ眼をこすりながらトイレに行こうとして、何かにけつまずいてしまった。バラバラと崩れる音がしたので見てみると、平積みに積み上げていた本が、崩れてしまっていた。
俺はラノベが好きで、大量にラノベを買ってきてしまう。大量に買ってきたラノベは、本棚に入りきらずに本棚の横に平積みになっていたのだが、ラノベの平積みによってタワーが作られ、今では第3ラノベタワーの建築が完了しているほど。
この前、夜中にちょっと大きめの地震があった時、寝ている俺の顔に、倒壊したラノベタワーが直撃してきて、かなり痛い思いをしたことがあった。
トイレを済ませて戻ってきた俺は、蹴飛ばして崩してしまったラノベタワーを見ながら考えていた。本棚を買って来るべきか、はたまた古本屋に売りに行くべきか。いやいや、もし売っちゃった後で、また読みたくなったらどうするんだ?
ピコン!
ここで、また俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
インベントリに入れちゃえばいいんだ!
有給をもらっていて、今日一日やることがないので―
俺は、部屋の掃除をすることにした。
しばらくして、全てのラノベをインベントリに収納し終えた俺は、思わぬ副産物を思いついてしまった。
通勤中にラノベを読むのが日課な俺は、出かける前に今日読むラノベをカバンに入れて出かけるのだ。
しかし、持っていったラノベが、けっこうあっさり読めてしまったりした場合、その日読むラノベが無くなってしまうという悲劇に、見舞われることが度々あった。
しかし、こうやって全てのラノベをインベントリに入れておけば、そのような悲劇はもう二度と起こることはないのだ。
しかも、本屋にラノベを買いに行く時、もう持っている巻を、間違って買ってしまうという過ちを、未然に防ぐことさえ出来てしまう。
こうして、ラノベを片付け終えた俺は―
『重大な使命』があったことを思い出した。
エレナ姫の、盗さ…げふんげふん
エレナ姫の、監視をしなければならない!
王様と対立して、ひどいことされたりしかねない。姫を助けるのは、勇者の務めなのだ!
俺はこっそりと【追跡】の魔法を使った。
異世界であっても、ちゃんと【追跡】の魔法が効くようで、バッチリとエレナの様子を見ることが出来た。
エレナ姫はお風呂に入っていて、あられもない姿で……
などということはなく。
ご本をお読みなされながら、お紅茶をお飲みあそばされていた。
俺の読むような、低俗なハーレム系のラノベなどではなく、きっと清楚な気品のあるご本なのだろう。
何だか、覗き見している俺が哀れになってきて【追跡】の魔法をそっと閉じた。まあ、特に危険な事になっているわけでも無いので、大丈夫だろう。
午前中いっぱいは、部屋の掃除を行った。といっても、部屋中の物を、どんどんインベントリに入れていくだけなのだが。これは楽だ! 楽すぎる!
昼前になって、俺の部屋はガランとしてしまっていた。俺の部屋がこんなに片付いたのは、何年ぶりだろう。
綺麗に片付いた部屋を眺めていると、腹が減ってきてしまった。冷蔵庫に何かないか漁ってみたが、冷凍ピラフしかなかった。取り敢えず、皿に冷凍ピラフを出してラップを掛けレンジでチンして、わかめスープで流しこみながらむさぼり食った。
ピラフを食いながら、テレビを見るような感覚でエレナ姫の様子を覗き見してみると。
エレナ姫は、大きなテーブルに一人で座り、何人かのメイドさんに見守られながら、優雅な昼食をとっていた。どうやら、あっちと日本は時差がほとんど無いみたいだ。
昼飯を食べ終えて一休みした後、冷蔵庫になにもないことを思い出して、スーパーに買物に行くことにした。なんといっても、俺にはインベントリがあるのだから! 10kgの米だって、らくらく運べてしまう。俺の好きな冷凍食品だって、インベントリにすぐに入れてしまえば、溶けちゃわないように、急いで帰ってくる必要も無いのである。買ってきたはいいものの、冷蔵庫に入りきれずに途方に暮れる心配すら無いのだ! もう冷蔵庫すら、いらなくね?
いや、これならいっその事、業務用の食料品を売っているスーパーで買ってきてしまったほうが、効率がいいのでは!? あそこの商品は、量が多すぎる代わりにめちゃくちゃ安いのだ。量が多くても、インベントリに入れて時間を止めておけば、傷んでしまうこともない。
俺は、スーパーをハシゴして、食料品やお菓子なんかを大量に買いだめし、ほくほく顔で部屋に戻ってきた。
買い物を終えた俺は、コーヒーを淹れて一息ついていたのだが。エレナ姫の【監視】の任務を思い出し、映像を確認してみた。
エレナ姫は……
牢屋に入れられて、しくしく泣いていた……
どうしてこうなったーー!!!?
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