75.街で情報収集
空手道部の稽古場はアヤの竜巻のせいで、物が散乱していた。
「しかし、どう暴れればこんな風になるんですか?」
「ボクじゃないぞ、アヤくんのせいだ」
「ごめんなさい」
アヤが素直に謝るとは珍しいな。
アヤは一人で、稽古場の片付けを始めたが、舞衣さんと百合恵さんも、何も言わずに片付けの手伝いを始めた。
稽古場の片付けを終える頃には、三人はすっかり仲良しになっていた。アヤは舞衣さんの強さを認め、すっかり先輩後輩らしくなっていた。見た目は全然そんな風じゃないが……
百合恵さんは、色んな意味でアヤを気に入ったらしく、若干スキンシップ多めではあるものの、いいマネージャーっぽいかんじだ。
その後、三人は仲良くラーメン屋で細やかな新入部員歓迎会を楽しんでいた。
けっきょく舞衣さんは、アヤに魔法の事を聞いたりはしてこなかった。
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夕方近くになり、やっと活動を始めたエレナは、商店街に来ていた。和菓子屋のおばあちゃんの様子を見に来たのだ。
しかし、商店街を行き交う人達の態度が、微妙におかしい。いつもよりなんとなく余計に優しく接してくれてる感じだ。
和菓子屋に着くと、朴訥フェイスが一生懸命和菓子を作っていた。
「こんにちは、おばあちゃんの様子はどうですか?」
「エレナさん! 今朝はちゃんとお礼も言えず申し訳ありませんでした」
朴訥フェイスは、いつもとちょっと様子が違っていて、礼儀正しく深々とエレナに頭を下げた。
「いえいえ、それでおばあちゃんは?」
「はい、もうすっかり良くなって、直ぐに働きたいなどと言い出す程です。今日くらいはしっかり寝ているように言ってあるので、奥で寝ています」
なんかコイツ、雰囲気が変わりすぎてないか?
「おじゃましても、かまいませんか?」
「どうぞどうぞ!」
エレナが奥の部屋に上がると、おばあちゃんが布団で寝ていた。
「おばあちゃん、具合はどうですか?」
「これはこれはエレナちゃん! こんな老いぼれの命を救ってくれて、何とお礼を言ったらいいか」
おばあちゃんは、布団から飛び起きて、正座から深々とお辞儀をした。なんか神様でも訪ねてきたかのような態度だ。
「老いぼれなんて言わないで、私はおばあちゃんの和菓子が大好きなんですから、ゆっくり休んで早く元気になって下さいね」
「私なんかの和菓子だったらいくらでも、持って行っていいからね」
なんか、おばあちゃんもエレナに恐縮しっぱなしな感じだ。流石にやり過ぎたか? でも、命には代えられないし……
結局エレナは朴訥フェイスから大量の和菓子を貰って帰ってきた。
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その週は、特にこれといっておかしな事は起こらなかった。
アヤは空手道部で舞衣さんと稽古に明け暮れ、家でステータスを見てみたら【体術】がもうレベル3になっていた。
エレナは相変わらず、商店街でおまじないをしては色んな物を持って帰ってきたが、前よりもらってくる品物が高級になってるような気がする。
俺は部長から、例の物が次に何時手に入るかなどをしつこく質問されてしまい『来週の月曜日くらいには』と適当にはぐらかしておいた。ってか、もうあの1本を使っちゃったのかよ!
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そんなこんなで週末になり。
まずは恒例の、地球を旅するナンシーと、ドレアドス王国を旅するアジドさんの現在地確認タイム。
ナンシーはタイとインドを訪問していて、インドから出国する所だった。
アジドさんはシンジュの街に向けてイケブの街を出発する所だった。
来週にはシンジュの街に行けそうだ。
海外旅行はドレアドス王国の戦争問題を解決してからかな……
「さて、イケブの街で魔王軍に滅ぼされた村についての調査をしに行くか」
「はい」「はーい」
俺達は、イケブの街へ【瞬間移動】した。
この前来た時は気が付かなかったが、厳つい兵士がけっこうな人数彷徨いている。こいつらは何なんだろう?
兵士たちを気にしつつ、俺達はまず『冒険者ギルド』に向かった。
魔王軍に滅ぼされた村について聞いてみたところ、村の名前は『スカベ村』といい、北に数日行った場所にあるそうだ。しかし、ちゃんとした道があるものの、魔物が多く出没するようになってしまったらしく、今ではそちら方面に行く人は殆どいないそうだ。
日の出の塔の情報も聞いてみたが、得られた情報はアジドさんの情報とほぼ同じ程度だった。
取り敢えず、ギルドの仕事を確認してみたところ、Dランクの所にこんなのがあった。
┌─<討伐依頼>──
│【オーク】討伐 (常時依頼)
│内容:【オーク】を1匹討伐
│ 討伐した証に【オークの牙】を納品
│報酬:100ゴールド
└─────────
マジか、【オーク】なら100匹以上もインベントリに入っている。その牙を全部納品したら直ぐにでもCランクに上がれちゃうんじゃないか? まあ、特にランクを上げる意味は無いし、止めとくか。
Eランクの仕事で出来そうなのは、相変わらず【狼】討伐だけだった。
次に俺達は、『商人ギルド』に向かった。
相変わらず、小麦が不足しているらしく、この前教会で少し使ってしまった25kgの小麦粉を売った。少し使ってしまった状態だったが2500Gで買い取ってもらえた。
小麦不足について聞いてみると、イケブの街を治める貴族が、戦争のためと称して兵士を集めていて、その兵士の食料を確保するために小麦が足りなくなってきているということらしい。
次に『職人ギルド』に寄り【精力剤+3】を12本売却した。【精力剤+3】は1本2000ゴールドで売れ24000ゴールドにもなった。お金が余ってきてしまった、なんという贅沢な悩みだ……
次に作りたい【呪い治癒薬】の材料である【紫刺草】と【聖水】を探したが、どちらも置いてなかった。これも何処かで手に入れないとな。
街で行っておくべき所は周ったので、情報収集がてら街を探索していると、神殿らしき建物を発見した。
「エレナ、あれは神殿じゃないのか?」
「ええ、あれは『神託者オラクル』を崇める神殿です。この神殿はマナ結晶を祀っているのではなく、モノリスと呼ばれる平らな大岩が祀られています」
「そうか、マナ結晶意外の神殿もあるのか」
後は特にめぼしい情報は得られず、昼食がてら食堂で作戦会議を開くことにした。
「さて、目標はスカベ村に行ってみることだけど、どうやって行くかが問題だな」
「普通でしたら、馬車を借りて行くところですが…」
「馬車で行っても明日までに帰って来られないし、ちょっとむずかしいかな」
「走って行くとか」
「私が足手まといになってしまいそうです」
「いや、走るとしたら一人だ」
「セイジ様一人で行くんですか!?」
「いや、俺とアヤで交代で走ろう」
「私も!? でも、交代って?」
「アヤのいる場所にだったら【瞬間移動】で飛んでいけるから、交代の時に俺が飛んでいって送り迎えすればいいだろ」
「なるほど、じゃあ、残ってる方はエレナちゃんと留守番ってこと?」
「わ、私も走ります」
「悪いけど、エレナじゃ【運動速度強化】も、【追い風】や【クイック】なんかの速度アップの魔法も使えないから……」
「そうですよね……」
「エレナは俺やアヤが走って疲れて帰ってきたら、回復をお願いするよ」
「はい、わかりました」
作戦が決まり、午後はアヤが、夜は俺が走ることになった。
「アヤ、この道をずっと北に行けばいいだけだから迷ったりしないと思うが、魔物とかは気をつけるんだぞ?」
「うん、任せて!」
アヤは俺達に見送られながら、街の北の出口から意気揚々と旅立った。
日中なら危ない魔物と出くわす可能性も低いし、アヤのスピードなら、撒くのも簡単だろうから大丈夫だとは思うが、もし危険な時は【警戒】で気がつくだろうし、そしたら【瞬間移動】で助けに行けばいいかな。
俺とエレナは宿屋で部屋を借り、俺は仮眠を取ってエレナは部屋で大人しくしていてもらうことにした。
今日の話は細切れになってしまった。
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