005.帰宅 ☆
俺は【瞬間移動】を使って、とある場所に移動してきた。
「こんにちは、お姫様」
「ゆ、勇者様! ご無事だったのですね!」
そう、俺は【追跡】したままにしておいたエレナ姫の部屋に来ていた。
まあ、お別れの挨拶くらいはしといた方がいいかと思って。
エレナ姫は部屋で一人泣いていたようで、目には涙の跡が残っていた。
「姫様が、危険を知らせようとしてくれていたお陰で、なんとか殺されずに済みました。
一言お礼を言いたくて―
無礼かとは思いましたが、部屋に勝手に寄らせてもらいました」
「とんでもありません、お父様のせいでこんなことに巻き込んでしまって。本当に申し訳ありませんでした。お怪我はなさっていませんか?」
「ええ、かすり傷一つありません」
「流石は勇者様、お強いんですね」
お姫様にこんな事を言われるとテレてしまう。年齢は15、6歳くらいかな? 俺が30歳だから、ダブルスコアじゃないか! いや落ち着け俺、俺はロリコンじゃないはず。
「あの、勇者様、どうかなされました?」
「あ、いや、なんでもない。あ、そういえば、姫様に聞きたいことがあったんだ」
「あの~、できれば『エレナ』と、お呼びいただけないでしょうか?」
「じゃあ、エレナ姫」
「『エレナ』と呼び捨てで結構です」
「うん、わかったよ。じゃあ、エレナ、一つ質問していいかい?」
「はい、勇者様」
「うーむ、俺も『勇者様』じゃなくて『セイジ』って呼んでくれないか?」
「それでは、『セイジ様』」
「まあ、いいか……」
「それで質問なんだけど、エレナは【魔王】について、どう思ってる?」
「【魔王】ですか?」
「うん、王様の言うことは嘘っぽいし、できれば、エレナの感想を聞きたいんだ」
「そうですね~ 私もよく知らないのですが、少し前に、辺境の村が一つ【魔王軍】に滅ぼされたと聞きました」
「辺境の村? 乗っ取られたんじゃなくて、滅ぼされたの? その村はなにか重要な村だったの?」
「乗っ取られたのではなく、滅ぼされたのは間違いないと思います。そしてその村ですが、何の変哲もない、とても普通の村だったはずです」
「うーむ、【魔王軍】は、なんでそんな普通の村を、わざわざ滅ぼしたんだ?」
「そういえば、どうしてなんでしょう? そこまで考えたことありませんでした。すいません」
「エレナが謝る必要はないよ。本当にその村を【魔王軍】が滅ぼしたのか、怪しいかもしれないな、動機もなさそうだし」
「そうですね、改めて考えて見ると、ちょっと変ですね。これからは私もセイジ様の様に、何が正しいのかをちゃんと考えるようにしていきます」
なんか決意に満ちた顔をしているけど、大丈夫かな? あの王様と、対立するような事になったりしないか心配だな。
うーむ、これは【追跡】を使って、定期的にエレナを監視する必要がありそうだ。
か、勘違いしないでよね。べ、別に覗きとか、そんなことのために【追跡】を使うわけじゃないんだからね! 心配だから、心配だからなんだからね。
俺は、いったい誰に言い訳してるんだ? もうそろそろ帰るとするか。
「俺は、そろそろ退散します。こんなことになってしまった以上、俺はこの国のために行動する事は出来ないが…… エレナはお元気で」
「はい、セイジ様もお元気で」
俺は、エレナにサヨナラの挨拶をして、自分の部屋を思い浮かべながら【瞬間移動】を実行した。
~~~~~~~~~~
どうやら異世界から地球への【瞬間移動】は成功したらしく、俺は自分の部屋に戻ってきていた。
部屋に戻ってきて安心したのか、急に腹が減ってきてしまい、カップ麺を食べることにした。
俺は、リビングにおもむき、
買い置きの『カップ麺』を取り出し、
フタを開けて、電気ポットからお湯を注いだ。
しかしなんと!
途中でお湯が切れてしまった!
これはピンチだ!
このまま食べる訳にはいかないし、かと言ってお湯を沸かしなおして継ぎ足していれば、その間にカップ麺の下半分がお湯を吸って伸びてしまう。俺はこのピンチを乗り越えるために、頭脳をフル回転させた。
ピコン!
俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
「そうだ! このままインベントリに入れて、時間を止めれば!」
俺は、途中までお湯が入ったカップ麺を、そのままインベントリに入れて、時間を止めるように操作した。
そして、ヤカンで素早くお湯を沸かし、インベントリに入れておいたカップ麺を取り出し、改めてお湯を注ぎ直した。
「上手くいってくれ」
俺は祈るような気持ちで3分待ってから、素早くフタを取り去って割り箸で麺をすすった。
「やった! 伸びてない!!」
俺は人生で一番のピンチを乗り越え、伸びてないカップ麺を食べ続けた。
これはたった一杯のカップ麺の勝利ではない、今後カップ麺を食べる時に、お湯が途中で無くなったらどうしようという、人類最大の恐怖を、完全に克服出来た瞬間なのだ! 俺は、感動に涙しながら、カップ麺を食べ尽くした。
あれ? ついさっきまで俺は、もっと凄い危機に見舞われていたような気がするのだが? 気のせいかな?
腹が満たされ、急に眠くなった俺は、ベッドに潜り込み、そのまま寝てしまった。
やっと異世界から帰ってこれました
異世界と日本で話の落差がひどいけど大丈夫なんだろうか?
感想お待ちしております