49.ガドルとハルバ
俺が選手控室に戻ってっくると、部屋は異様な雰囲気に包まれていた。
「先の試合はなんだ! わが一族として、あのような醜態を晒すなどとは、あってはならん事だということが分からんのか!」
「しかし、兄様、あれは……」
「口答えするな!!」
竜人族の男『ガドル』が、同じく竜人族の女性『ハルバ』を殴りつけていた。
妹を殴りつけるとは、許せん!
「お前などを連れてきたのが間違いだった。もうお前に用はない。ここで引導を渡してやろう」
「あ、兄様お許しを!」
「問答無用!!」
何がどうなっているのか一瞬わからなかった。
『ガドル』は試合用ではなく、おそらく自前の物なのだろう、禍々しい雰囲気の厳つい槍を、躊躇なく『ハルバ』に向かって突き出した」
「くっ!」
『ガドル』の槍は『ハルバ』の心臓を狙っていた。
しかし『ハルバ』が避けたことで狙いがわずかにそれ、『ハルバ』の脇腹辺りを貫通していた。
「きゃー!!」
アヤの悲鳴で正気に戻った俺は、猛ダッシュして二人の間に割って入った。
「てめえ、何してやがる!!」
「お前には関係のないこと、部外者は引っ込んでいてもらおう」
「引っ込んでいられるか!こいつはお前の妹なんだろが!自分の妹に何してんだ!!」
「こんな奴は俺の兄妹として失格なのだ、そんな奴は生きていても意味が無い」
「そんな事はお前が決めることじゃないだろ!」
「うぅ……」
俺の後ろで『ハルバ』が崩れ落ちた。
ヤバイ、キズは相当に深いらしい。
「アヤ!! エレナを!」
アヤは軽くうなずき、エレナを呼びに走った。
「ふんっ、どうせ助かるまい。あの世で自分の情け無さを反省しろ」
『ガドル』は、そう言い捨てると部屋から出て行ってしまった。
「兄ちゃん、エレナちゃんを連れてきた」
「セイジ様! こ、これは!」
「エレナ! 早く治療を、ヤバそうなんだ」
「は、はい、分かりました」
エレナは『ハルバ』のキズを魔法で治し始めた。
おのれ『ガドル』、絶対に許せん!
「エレナちゃん、どう? 助かりそう?」
「わ、わかりません、かなり危険かも」
『ハルバ』を【鑑定】してみるとHPが残り少ない。
これは助からないかもしれない。
「セイジ様」
「なんだ?」
「【体力譲渡】を使わせてください」
「しかし、あれはエレナも危険なんだぞ」
「分かっています、しかしこのままでは『ハルバ』さんを助けられません」
話している間に『ハルバ』のHPは危険な値にまで下がってきていた。
「わかった、しかし、自分のHPも回復させながら使うんだぞ」
「はい!」
エレナは【体力回復】で自分のHPを回復させつつ【傷回復速度上昇】と【体力譲渡】で『ハルバ』のキズとHPを同時に治して行った。
俺は【鑑定】で二人のHPを常に監視しエレナに指示を出し続けた。
「セイジ様、出血が止まりません。こ、これではいずれ……」
「【水の魔法】でなんとか出血を止められないのか?」
「【水の魔法】ですか?」
「血も水も似たようなものだろ?」
「は、はい、やってみます」
エレナは複数の魔法を使いつつ【水のロッド】を右手に握り【水の魔法】も追加で使い始めた。
周りに集まってきていた選手達や大会関係者達は、エレナの治療を固唾を呑んで見守っていた。
「だ、ダメです、血がたれてしまわないようにしても、後から後から血が出てきてしまって」
「まずは、傷口から血が出てこないようにしないと、傷口をぐっと押すようにして血管を塞ぐんだ」
「は、はい」
エレナは【水の魔法】で傷口に圧力を掛け、血があふれだすのを何とか留めている。
「さっきよりは良くなりましたが、それでも少しずつ血が溢れてきてしまいます」
マズイな、どうしたらいいんだ。
「エレナちゃん、血を元の血管に戻すことは出来ないの?」
「ダメだ、一度空気に触れた血は直ぐに固まってしまうから、血管に戻すのは危険だ」
「じゃあ、どうすれば……」
「セイジ様、血が空気に触れなければいいんですね?」
「ああ、そうだが、一体どうするんだ?」
「セイジ様、お水を出してください」
「ああ、分かった」
俺はミネラルウォーターを出して蓋を開け、エレナに渡した。
エレナはミネラルウォーターをコントロールして、『ハルバ』の傷口に覆い被せた。
そうか、水で傷口を保護するのか。
しかし、水はどんどん竜人族の青い血が混ざり、青く濁っていく。
「エレナ、水の中に血の通り道を作るんだ」
「血の通り道……
わ、分かりました、やってみます」
エレナは、傷口を覆う水の中になんとか簡易の血管を作り出し、血が溢れ出てしまうのを完全に防ぐ事が出来た。
【体力回復】、【傷回復速度上昇】、【体力譲渡】、高度な【水の魔法】と4つの魔法を同時に使っていた。
俺は、「エレナは凄いな」とつくづく思い知らされた。
しかし、エレナのMPもどんどん減ってきていたので、俺は【飴】を取り出し、エレナに舐めさせた。
しばらくして、キズの治る速度が急に早くなった。
なんと、エレナは【水の魔法】のレベルが3、【回復魔法】のレベルが4に上昇していた。
レベル上昇によって、キズは瞬く間に治っていき、ついにキズを完全に塞ぐことが出来た。
「「おぉぉ!」」
急激にキズが治っていくのを見た周りの人たちから感歎の声が上がった。
『ハルバ』のキズが完全に塞がった時、エレナのMPも底を尽きかけていた。
「エレナ、よく頑張った!」
「セイジ様、ありがとうございます」
「「わぁーーーー!」」
「すげえ!あんな凄いケガを治しちまったぞ!」
「何だか透明な水みたいなのがキズを覆っていたぞ!」
「キズが見る見る塞がっていった!」
キズの塞がった『ハルバ』は、他の救護班の人達によって救護室に搬送された。
「エレナ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
しかし、エレナが立ち上がろうとした時、ふらついてしまっていた。
「ぜんぜん大丈夫じゃ無いじゃないか」
俺はエレナをお姫様抱っこした。
「あ! セ、セイジ様」
「俺に任せろ」
「は、はい」
俺は、エレナも救護室に連れて行った。
エレナは恥ずかしそうに顔を赤らめながらニッコリ微笑んで、俺に抱っこされていた。
この話で10万文字達成っぽい?
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