404.穴掘り上手
もうすぐ終業時間だ。
あいつらは大丈夫だろうか?
『ちょっと敵が多すぎ……』
アヤから、弱気な声が聞こえてきた。
しかも、音声チャットではなく【追跡用ビーコン】からの音声だ。
アヤのいるトキの街の海岸の様子を見てみると、
魔物が大量に押し寄せてきている。
ぜんぶ海産物系の魔物だ。
タコ、イカ、クラゲ、クジラ、トビウオっぽいのやら、
そして、そのすべてが陸に上がってきている。
空中を泳いでいるやつもいる。
街を攻めようとしているのか?
そして、これも台風の影響なのか?
しかし俺は重要な会議中なので、今は動けない。
ヒーローがピンチに遅れてくることって、よくあることだけど……。
その理由が、『仕事中だったから』というのも締まらない話だな。
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トキの街。
アヤが、苦戦していた。
巨大なタコの魔物に片足をつかまれて、身動きがとれないのだ。
「きゃー!」
とうとう、両足ともつかまれ、転倒してしまう。
「はーなーせー!」
アヤは、振りほどこうとあがくが、振りほどけない。
そして、逆さ吊りにされてしまった。
「やめろー」
敵に言葉が通じるわけもなく、
両手両足を捕まれ、完全に手も足も出ない状況だ。
そして、おもむろに、
一本の触手……じゃなくてタコ足が、
アヤの大事な所へ伸びてくる。
「だめー! やめてー!!」
まったく関係ない話だが、
タコの足の1本は『交接腕』と呼ばれ、先端が生〇器になっているそうだ。
そして、そのタコ足が、ウネウネとくねりながら、
アヤにゆっくりと近づいていく。
「だ、だめ!
兄ちゃん、タスケテ……」
アヤが足の間から迫りくるタコ足を見上げると……。
そのタコ足が、ペチャリとアヤの顔面を直撃した。
そして、タコ足がウネウネと動き回る。
「なにこれ! ギャー!!!」
アヤが無茶苦茶に暴れまわると、
手足を掴んでいたタコ足の力が弱まり、
スルスルと拘束が溶けて、
逆さまの体勢のまま、落下してしまった。
「ぎゃー!!!!」
「アヤ、さっきからうるさいぞ」
「え?」
アヤは、俺の腕に抱かれていた。
巨大タコ?
ああ、あれは俺の『名刀マサムネ』でぶつ切りにしておいた。
「に、兄ちゃぁんー」
アヤは俺に抱きついて、エグエグし始めてしまった。
「もう少しで私の大事なものを失うところだったよ」
「大事なもの?」
「私のしょ……」
「しょ?」
「何言わせるのよ! 兄ちゃんのヘンタイ!」
なぜかグーで殴られてしまった。
わけがわからないよ!
「あ、兄ちゃん。スーツのままじゃん」
「あ!」
俺のスーツが……。
雨とアヤの鼻水で、大変なことに。
後でクリーニングに出しておこう……。
俺は【変身の魔石】で、いつもの冒険の時の服に着替えた。
「ところでアヤ、いつまで俺に抱っこされてるつもりだ?」
「疲れたから、もうしばらくこうしとく」
まったく、いつまでたっても子供だな。
「まだ魔物が残ってるのに」
「兄ちゃんなら、私を抱えたままでもやっつけられるでしょ?」
「まあな」
いつの間にか、俺たちは魔物に囲まれていた。
「アヤ、ちょっと耳をふさげ」
「うん」
「【落雷】!」
バリバリバリ!
俺とアヤの周囲に、何百という雷が落ちた。
激しい稲光が止むと、
俺たちの立っている砂浜に、こんがりと焼きあがった海産物の山が。
そして、周囲に美味しそうな匂いも漂っている。
そうだ。
来週のランチは、焼き魚を食べよう。
たっぷりの大根おろしに、醤油をぶっかけて。
後は、白いご飯と味噌汁があればいい。
そうしようそうしよう。
海産物の後処理は町の人たちに任せて、
俺は、アヤを抱っこしたままエレナとヒルダのところへ飛んだ。
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「エレナ、ヒルダ、大丈夫か?」
「セイジ様」「セイジお兄ちゃん」
「中にいる人たちは無事です。
でも……、出入り口が泥で埋まってしまって……、
掘っても掘っても流れ込んできてしまうんです」
エレナもヒルダもそうとう疲れているらしく、顔色が悪い。
そして、泥だらけだ。
「アヤさんは、大丈夫なのですか?」
「ん?」
ああ、アヤを抱っこしたままだった。
「後は、俺がやるから3人は休んでいてくれ」
「はーい」「「はい」」
まずは、現場一帯に【バリア】を張って、
これ以上水が流れ込んでこないようにする。
3人が休める場所を確保してから、
崖崩れが起きた鉱山の入り口に取り掛かった。
「さてと、ここが鉱山の入り口か……」
エレナとヒルダが一生懸命に掘り起こそうとしていたのだろう。
穴をほった場所にドロが流れ込んでしまって、大変なことになっていた。
まずは、グチョグチョになったその入口を、
少しずつほぐすようにかき出していく。
「兄ちゃん、がんばれー」
後ろで3人が、応援している。
仕事を終えたばかりで疲れてるけど、
ここはひとつ、がんばるかな。
しばらくしてクパァと、奥へ通じる穴が姿を現した。
俺は、ここぞとばかりにその穴を無理やりこじ開けていく。
穴はぱっくりと広がり、もう出入りができる状態になった。
「おー! 兄ちゃん、穴掘り上手!」
「さすがセイジ様!」
「すごーい!」
後ろから俺への惜しみない称賛の声が上がる。
「さて、中に閉じ込められていた人たちを助けるぞ」
「おー!」「「はーい」」
俺たちは、意気揚々と穴の中へ入っていった。
ご感想お待ちしております。




