365.社長の頼み事
リオに行っていた俺は、
今日、久しぶりに出社していた。
とはいっても、お盆で休んだのは月火水の3日間だけだけどね。
休み中にたまった仕事を、テキパキとこなしていると、
いきなり社長からお呼びがかかった。
何の話だろう?
またエリクサーでも欲しいのかな?
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「やあ、丸山くん、よく来たね」
「はあ」
呼ばれたから来たんだけど。
「テレビ見たよ。
妹さんが空手の世界大会で優勝したんだってね~、
おめでとう」
「ありがとうございます」
社長も、あのテレビを見たのか。
「妹さんって……、
あの妹さんだよね?
ほら、胸の薬の……」
「あ、はい、そうです」
「そうか~、あの娘が金メダルか~」
社長が喜んでくれるのは嬉しいけど、
俺は、いったい何の話で呼ばれたんだろう?
「ところで丸山くん、
一つ頼みがあるのだが……」
やっと本題か。
「なんでしょう?」
「実は、孫のめぐみのマネージャーをして欲しいのだ」
「え?
めぐみさん?
マネージャーって何ですか?」
「アイドル活動のマネージャー……なんだが……」
「アイドル……活動?
マネージャー?
俺が……ですか??」
仕事の話じゃないのかよ!
ずいぶん、いきなりな話だな。
「公私混同なのは十分承知なのだが、
頼める者が他にいなくてな」
「はあ……」
なんか、面倒くさそう。
しかし、めぐみちゃんはヒルダと仲良くしてもらってるし、
無下には出来ないな。
「引き受けてくれるか?」
「いつの話ですか?」
「今週の土日なんだが……」
「まあ、別にかまいませんよ」
「そうか、受けてくれるか!
お礼は、考えてるから、
よろしく頼むよ」
「はあ」
なんか、変なことを頼まれてしまった。
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その週の土曜日。
「セイジお兄ちゃんが、一緒に来てくれるなんて、嬉しいです!」
俺とヒルダは、おててつないで、
めぐみちゃんの家にやってきていた。
いつ見ても、でかい家だな。
確か、社長夫妻と長男家族、次男家族が同居しているんだったな。
立派な門があり、奥には広い庭があり、
その先に、巨大な豪邸が建っている。
本当に都内か?
呼び鈴を押すと、社長とめぐみちゃんが出てきた。
「丸山くん、すまないね。
今日は、よろしくたのむよ」
「あ、はい」
「ちょっと、丸山!
なんで私のヒルダと手を繋いでるのよ!」
めぐみちゃんは、ヒルダと手を繋いでいる俺の手をチョップした。
そして、俺からヒルダを奪い取ると、
ヒルダに抱きつき、俺から引き離し、
俺を睨みつけてきた。
ヒルダと仲がいいのは良いことだけど、
ちょっと独占欲が強すぎるんじゃないか?
「丸山くん、すまんね……」
社長が小声で謝る。
「いえいえ」
社長は、めぐみちゃんのことを俺に任せて、
家に戻っていった。
「丸山、私に感謝しなさいよね」
めぐみちゃんは、俺を指差して、こんなことを言ってきた。
「ん?
どういうことだい?」
「あんたバカなの?
私がお祖父様に、あなたを指名してあげたのよ?
あなたは私のおかげで、社長であるお祖父様に恩を売ることができた。
あなたの出世に貢献してあげたんじゃない」
「あ、そうですか……。
それは、どうもありがとうね」
「ふん」
うちは、社長に恩を売ったからって出世できるような会社じゃないんだけど……。
めぐみちゃんなりの優しさ……なのかな?
まあ、そう思っておくことにしよう。
「今日は、どんな活動をするんだい?」
「横浜で、大々的なオーディションがあるのよ」
ほうほう、オーディションか。
それで、いつもより気合が入っているのか。
「さあ、その荷物を持ってついてきなさい」
そこには、巨大な荷物が置いてあった……。
なるほど、
これのために呼ばれたのか。
俺は、めぐみちゃんの巨大な荷物を持ち、
3人で電車に乗って横浜に向かった。
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やっと横浜についた。
「めぐみちゃん、何で電車なんだい?
車で送ってもらえばよかったのに」
「……、
お父様が、反対しているのよ」
「え?」
「私が、お父様やお祖父様を、当てにしすぎているって、
お父様が……」
なるほどね。
社長は、だいぶ甘やかしすぎてる感じだけど、
めぐみちゃんのお父さんは、少し厳しい人なんだな。
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横浜駅から少し歩いて、オーディション会場についた。
ここで、オーディションをやるのか。
スゲーでかい会場だな。
そして、人がたくさんいる。
「あ!」
俺は、とある物をみて驚いた。
「セイジお兄ちゃん、どうしました?」
「いや、何でもない」
実は、何でもなくない。
地図上に、かなりの数の黄色いマークが表示されているのだ。
もしかして、めぐみちゃんのライバルが黄色く表示されているのか?
嫌な予感がする。
「それじゃあ、私たちは更衣室に行ってくるから、
荷物番よろしくね」
「ああ、いってらっしゃい」
めぐみちゃんは、持ってきた荷物の中から着替えを取り出し、
ヒルダを連れて更衣室へ入っていった。
俺は、また荷物番かよ。
しかし、大丈夫なんだろうか?
俺も更衣室までついていくべきなんじゃないか?
いや別に、覗こうとか、そういうことじゃ断じてない!
黄色いマークが、たくさん表示されていて、
めぐみちゃんとヒルダの、危険が危ないのだ!
これは、どうしようもないことなのでは?
危険が危ないという、大義名分があるからには、
【透明化】で更衣室に入るという行為は、
やむを得ない正当防衛とか緊急避難とか、そういう事になるはずだ。
ぜったいにそうに違いない!!!
やるぞ! 俺はやりますよ!
透明化! 更衣室! 正当防衛! 緊急避難!
やれば出来る! 俺! 今こそ立ち上がる時!!!
「丸山、なに独り言いっているの?」
「え?
あれ?
めぐみちゃん、着替えは??」
「なに寝言いっているの?
もう着替え終わったわよ!」
「え、あ、そうですか……」
よく見ると、
めぐみちゃんは、綺麗なステージ衣装に着替え終わっていた。
俺は、がっくり肩を落とし、
巨大な荷物を抱えて、めぐみちゃんについていった。
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