364.ドラゴン騒動
24時間かけて、リオから日本に戻ってきた。
は~、疲れた。
早く家に帰って、エレナに肩を揉んでもらいたい。
そんなことを考えながら、手続きを済ませて到着ロビーへ出ると……、
なんか報道関係の人が、大勢で誰かを出待ちしていた。
誰か、有名人が帰国するのかな?
「来たぞ!」
あれ?
報道陣は、俺たち目がけて突進してくる。
後ろに、有名人がいるのかな?
振り返ってみても、誰もいない。
あれぇ~?
「河合舞衣さんと、丸山アヤさんですよね?」
「はい」「あ、はい」
標的は俺たちだったのか!
「世界空手大会優勝おめでとうございます。
今のお気持ちは?」
「長年稽古してきた結果が実って、嬉しい限りです」
お、いきなりの事なのに、舞衣さんがまともに受け答えしている。
あらかじめ、何を言うか考えていたのかな?
「え? これテレビ?
テレビに映るの?
いえーい、お母さん、見てる~?」
それに引き換え、アヤは……。
なんか頭痛がしてきた。
「ところで、ご一緒されている男性は、
アヤさんの彼氏ですか?」
「ち、違うし!
兄ちゃんだよ!」
アヤ。
もっと大学生らしい振る舞いをしてくれ……。
そして、テレビカメラに向かってダブルピースするのを止めなさい。
「それで……、
大会にドラゴンが出たという話を聞いたのですが……、
本当なんですか?」
なるほど、本命はこっちか。
「ホントだよ~」
「「おぉ!」」
バカ、アヤ。
もうちょっと情報をぼかせよ。
「アヤ選手。
そのドラゴンは、どれくらいの大きさだったんですか?」
「そうだな~。
象くらいだったかな~」
「「おおぉぉ!!!」」
アヤのやつ、報道陣にのせられて、
上手く聞き出されちゃってるな。
「その時、アヤ選手は何をされてたんですか?」
「私? 私は~、
赤ちゃんを抱えたお母さんが、逃げ遅れてて、
逃げるのを手伝ったりしてたかな」
「舞衣選手は?」
「私も避難誘導してました」
舞衣さんは、受け答えがしっかりしてて、
安心してみてられるな。
舞衣さんが妹ならよかったな~。
「お兄さんもドラゴンみたんだよね?
どんな感じでした?」
俺の所に来た!
どうしよう。
「えーっと、
ドラゴンというかですね~、
大きいトカゲというか~」
「あ、今のところカットね」
え?
レポーターの後ろにいた偉そうな感じの人が、
隣の人に指示をしていた。
どうやら、『トカゲ』という単語はNGらしい。
そんなこんなで、
1時間以上も
空手大会のことより、ドラゴンのことばかり聞かれまくった。
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「つ、疲れた~」
やっと家に帰ってきた。
飛行機に乗っていた24時間より、
報道陣に囲まれていた1時間のほうが、何倍も疲れた。
「セイジ様、おかえりなさい」
「セイジお兄ちゃん、おかえりなさい」
エレナとヒルダが出迎えてくれた。
なんか、これだけで疲れが癒やされるな。
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俺は、早くリラックスしたくて、
部屋で、いつものジャージに着替えていた。
トントントン。
あれ?
何かが振動している。
スマホかな? いや違う。
電動で振動するおもちゃかな? いや、そんなの持ってないし!
もしかしてアヤのかな?
あ、ジャージのポケットの中に何か入っている。
取り出してみると、それは魔石だった。
あれ? これって、何の魔石だったっけ?
こんな時は【鑑定】だ。
┌─<鑑定>────
│【双子魔石】
│二つで一組となる、ひょうたん形の魔石。
│どんなに離れていても、
│片方に振動を与えると、
│もう片方も同じように振動する。
│レア度:★★
└─────────
ああ、リルラに片方を渡してある魔石だ。
『連絡したい時は、叩いて知らせろ』って言ってあったんだっけ。
ということは、リルラが連絡したいことがあるってことか、
ちょっと様子を見てみよう。
様子を見てみると……。
リルラは、鼻水を垂らしながら、魔石を一所懸命に叩いている。
よほどのことなのだろう。
ものすごく必死に、泣きながら叩き続けている。
急いで行ってやらないと。
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俺は、ジャージ姿のまま、
【瞬間移動】で、リルラのところへ飛んだ。
「リルラ、何があったんだ?」
いきなり部屋に現れた俺の問いかけに、
リルラは鼻水を垂らしながら振り返る。
「セ、セ、セイジ~~~!」
リルラは俺をみるなり、いきなり駆け寄り、抱きついてくる。
ちょっ、お前、鼻水が……。
まあ、ジャージだしいいか……。
「それで、どうしたんだ?」
取り乱しているリルラをなだめつつ、話をきく。
落ち着いてきたリルラは、やっと話し始めた。
「実は、少し前に、遠くの北の空にドラゴンが現れ、暴れまくっていたのだ」
「え?」
も、もしかして……それって、俺のことか?
「物凄い爆音が鳴り響き、遠くの森で火柱が上がるのが、何度も目撃された」
ど、どうしよう……目撃されていたのか……。
「そ、それで……、何か被害が出たのか?」
「おばあさんが一人、音に驚いて転んで腰を打った」
「それだけ?」
「ああ」
よかった、被害はそれだけか。
「あんな大きなドラゴンが暴れていたのだ。
きっとここにもやってきて、
私は食べられちゃうに違いないのだ。
うわ~ん」
リルラは、また鼻水を垂れ流し、泣き出してしまった。
どうしよう……面倒くさいことになってしまった。
え~っと、そのドラゴンが俺だったなんて、
とてもいえな……きっと信じてもらえないに違いない。
他の人の言葉で、納得してもらう必要がある。
こういう場合に役立つ人物を、俺は知っている。
「たしか、トキの街の領主が『占い』の魔法をつかえるんだよな?
ドラゴンがどうなるか、占ってもらったらいいんじゃないか?」
「そ、そうだな! それがいい!」
その後、占いによってドラゴンが安全だという結果が出たのだが。
結果が出るまでの間ずっと、リルラは俺に抱きついたままだった。
おかげで俺のジャージが、鼻水まみれになってしまった。
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やっと帰ってきた俺に、さらなる追い打ちが襲いかかる。
「あ、兄ちゃん!
ジャージに何かネバネバした液体がついてる!
変態!!」
ご感想お待ちしております。




