358.リオでドラゴン戦
ドラゴンは、ソレを美味しそうに丸のみしてしまった。
一瞬のことで、さすがに対応できなかった。
それをみた会場全体が、大パニックを引き起こす。
逃げ惑い出口に殺到する人たち。
腰が抜けて立つことができず、這うように逃げようとする人。
そんな中で、観客席のお母さんの抱いていた赤ちゃんが、泣き始めた。
お母さんの方は、呆然と立ち尽くしたままだ。
ドラゴンは、その赤ちゃんの方を見ると、舌をペロッと出した。
もしかして、あの子を狙っているのか?
ドラゴンは、勢いをつけてジャンプした。
そして、その勢いのまま口を大きく開けて、赤ちゃんとその母親に襲いかかる。
マズイ!
俺は、ドラゴンの行く手に【瞬間移動】で移動し、
大きく開かれたドラゴンの上顎と下顎を、両手でそれぞれ捕まえた。
「ぐぎゃ!?」
ドラゴンは、急に口が閉まらなくなり、混乱していた。
「今のうちに逃げろ!」
「ひぃ!!」
母親に話しかけてみたが、恐怖のあまりまったく動けない。
「アヤ~!」
「なあに、兄ちゃん」
アヤを呼ぶと、すぐに駆けつけてきた。
「俺の後ろにいる赤ちゃんとお母さんを、安全な場所へ連れて行ってくれ!」
「了解!」
アヤは、赤ちゃんを抱いたお母さんごと抱きかかえて、
安全なところへ移動させてくれた。
会場の方を見ると、気を失っているオリガ選手を、エレナとヒルダが担架に乗せて運び出しているところだった。
二人ともグッジョブ!
下に移動したほうが良さそうだ。
「お前は、下にもどれ」
俺は、ドラゴンをグイグイ押して、
観客席から、会場の方へ突き落とした。
ドラゴンを突き落とす時、観客席の手すりを少しぶっ壊しちゃったけど、
コレくらいは、許してもらえるよね?
「お兄さん、ドラゴン退治をボクも手伝うよ」
下に降りると、
舞衣さんが助っ人に加わろうとしてくれていた。
しかし。
「舞衣さんも、アヤと一緒に、一般人の避難を手伝ってきてくれませんか?」
「いいけど、ドラゴンはどうするんだい?」
「まあ、後で俺が倒しますよ」
「よく分からんが、わかったよ。
あと、ドラゴンの胸のあたりに強い魔力が見える。
きっとアレが、あいつのコアだよ」
舞衣さんは、一般人の避難誘導に向かった。
コアが見える魔眼の人だったのか……。
さて、
俺は、一般人が全員避難するまで、こいつを抑えておかないといけない。
面倒くさいな~。
本当だったら、こんなやつ一撃で倒せるんだけどな~。
しばらくドラゴンを押さえ込んでいると、
会場の扉が空いて、誰かが入ってきた。
「あれ?
みなさん、どこに行っちゃったんですか?
試合は?」
現れたのは、百合恵さんだった。
「ちょっ!
百合恵さん、どうしてここに!?」
「あれ? お兄さん。
お兄さんこそ、ここは関係者以外、立入禁止ですよ?
それに、さっきから……何を……抑えて、いるんですか?」
百合恵さんは、まだ、ドラゴンに気づいていない様子だ。
そして、メガネの位置を調整して……。
ドラゴンと目が合った。
「どどど、ドラゴン!?
ななな、なにこれ!?」
驚き戸惑っている百合恵さんに、
ドラゴンの尻尾が襲いかかった。
ヤバイ!
ドラゴンの尻尾は、
さっそうと現れた舞衣さんによって、受け止められていた。
「ぶ、部長!」
「っ!?
さすがドラゴンの攻撃。
けっこう強いね」
ドラゴンの尻尾攻撃を受け止めた舞衣さんの手が、少し赤くなっていた。
「部長……手が!?」
「なあに、コレくらい平気さ。
それより百合恵くんは大丈夫だったかい?」
「私は平気……。
でも、部長が……私をかばって……ケガを……」
百合恵さんの周囲に、黒いモヤのようなものが渦巻き始めた。
「ちょっ、百合恵くん。落ち着いて!」
「私の部長をケガさせた……。
このトカゲ野郎! もう許さない!!」
百合恵さんのスカートから黒い触手が伸びて、ドラゴンを襲う。
そして、その触手はドラゴンに巻き付き始めた。
しかし、
ドラゴンが暴れるせいで、完全には動きを封じることが出来ず、
百合恵さんは、悪戦苦闘していた。
しばらくして、エレナ、ヒルダ、アヤが、
一般人を全員避難させ、戻ってきた。
「兄ちゃん、一般人は全員避難したよ~。
って、あれ?
なんで百合恵さんがいるの!?」
「何で……みんな戻ってきちゃったの?
ドラゴンは私が食い止めておくから、
今のうちに、みんな逃げて!」
百合恵さんは、一所懸命にドラゴンを押さえ込もうとしている。
そんな百合恵さんに舞衣さんが近づく。
「百合恵くん。魔法を使えることに気がついていたのかい?」
「え?
ええ……。
たぶん、本当の私は、魔法の国のお姫様なのです。
みんなが驚くのも無理はありません。
でも!
みんなに魔法がバレてしまったからには、
私は、魔法の国に帰らないといけないと思うんです。
今まで一緒にいてくれて、ありがとう」
百合恵さんは、涙ぐんでいる。
どうやら、自分が魔法を使えることに気がついて、
それを誰にも言えずに、悩んでいたのだろう。
そして、マジで自分を魔法の国のお姫様だと思っているらしい。
なぜ、そう思った?
「早く、逃げて、もう、持たない……」
百合恵さんの触手は、ドラゴンを抑えきれず、
今にも拘束が解けそうになっていた。
仕方ないな~。
俺は、インベントリから【名刀マサムネ】を取り出し……。
スパン!
ドラゴンの首を、一刀両断にした。
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