348.干し芋
女の子を助けたすぐ後、アヤたちもやってきた。
「あー、兄ちゃんが女の子をナンパしてる~」
「なんでやねん!」
俺が女子と話しをしてたりすると、いっつもこうだな。
「あ、丸山アヤさん!
それに、河合舞衣さんも!」
「ん?」
「おや、ボクたちの事を知っているのかい?」
助けた女の子は、アヤと舞衣さんの名前を知っていた。
もしかして、この娘……。
「申し遅れました。
私、『岩尾きみよ』といいます。
優勝した西村有沙さんが、なぜか失格となってしまったので、
【軽量級】準優勝の私が、繰り上がりで明日の大会に出場することになりました。
よろしくお願いします」
やっぱりそうか、【軽量級】の試合はあんまりみてなかったけど、
どこかで見たことがあるような気がしてたんだよね。
しかし、ごっつい名字だな。
見た目とギャップありすぎ。
「そういえば、空手大会の会場で見たことがある気がする~
きみちゃん、よろしくね!」
「あのアヤさんにちょっとでも覚えてもらっていたなんて、
光栄です!」
「きみちゃんは、大げさだね~」
きみよちゃんは、次に舞衣さんのところへ駆け寄った。
「河合舞衣さん!」
「なんだい?」
「あ、あ、あ……
握手してくだしゃい!」
あ、噛んだ。
「握手?」
「ちっちゃい頃からファンだったんです!」
今もちっちゃいけどね。
きみよちゃんと舞衣さんが握手を交わす。
そんな二人を、百合恵さんが、恋人が寝取られた場面をみてしまったかのような表情で、睨みつけていた。
百合恵さん、時に落ちつけ。
こんなところで立ち話もなんなので、
宿泊するホテルに向かうことにした。
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空手道協会が用意してくれたホテルに到着した。
「ホテル……ボロっちいね」
アヤ、それは思っててもいっちゃダメだろ。
予めホテルに追加の部屋を予約しておいたので、
舞衣さんと百合恵さんの部屋、
アヤと、俺の部屋、
エレナとヒルダの部屋の、合計3部屋になった。
きみよちゃんは、一人部屋だそうだ。
チェックインを済ませ、とりあえずそれぞれ自分たちの部屋へ。
「なんで、私が兄ちゃんと同じ部屋なのよ!」
部屋に入るなり、アヤがぶーたれてきた。
「仕方ないだろ、部屋が3部屋しか取れなかったんだから、
アヤがどうしても嫌っていうなら、
俺は、エレナとヒルダの部屋に泊まらせてもらおうかな~」
「そんなの、余計にダメ!!」
「俺は疲れたから、少し休ませてもらうぞ」
そういってベッドに寝転ぶと……。
アヤがいきなり、エルボードロップを仕掛けてきた。
「何するんだ!」
ギリギリで避ける。
「窓側のベッドは私の!」
「へいへい」
仕方がないので、俺は隣のベッドに移った。
「じゃあ、今度こそ、休ませてもらうな」
「兄ちゃん……」
「今度は何だよ」
「お腹すいた……」
俺、疲れたんだけど……。
「お・腹・す・い・た!」
「わかったよ~」
なんか、もの凄く疲れてきた……。
あとで、エレナに【回復魔法】で疲れをとってもらおう……。
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みんなを連れて、きみよちゃんを夕飯に誘いにきた。
トントン。
「きみよさん、夕飯に行きましょう~」
どんがらがっしゃーん。
ん?
何か物音が聞こえたような……。
「きみよさん、大丈夫ですか?」
「ソーリー、アイアムキミヨイワオ。
アイケームフロムジャパン!」
またテンパってるのか……。
「きみよさーん、俺ですよ~」
「オレさん……デスカ?」
なんとか冷静さを取り戻したきみよちゃんは、やっとドアを開けてくれた。
「すみません、慌ててしまって……」
「まあ、海外だし、仕方ないよね。
それで、みんなで夕食に行くけど、一緒に行かない?」
「夕食……ですか……」
きみよちゃんは、なぜか表情を曇らせる。
「まだ、お腹へってない?」
「いえ、そうではなくて……。
お金が……あまりないんです……」
「え?
もしかして、財布を落としたの?」
「いいえ、私の家、貧乏で……
あ、でも、日本から食べものを持ってきたので、大丈夫ですよ」
「何を持ってきたの?」
「これです」
そういって、きみよちゃんが見せてくれたのは……。
「干し芋?」
プラスチック容器に入った干し芋だった。
たぶん、手作り。
「はい、私、干し芋大好きなんです」
マジカヨ……。
「明日、試合があるのに、干し芋だけで過ごすつもり?」
「私……干し芋大好きなので……」
「そう……なんだ……」
どうしよう……。
話が重い……。
「ねえ、そのお芋、ちょっとちょうだい!」
アヤが空気を読まずに、変なことを言い出した。
「え? あ、はい」
アヤは、プラスチック容器をきみよちゃんからふんだくると、
遠慮なくパクパク食い始めた。
「もうお腹が減って死にそうだったんだよね~」
アヤは、プラスチック容器に入っていた干し芋の半分ほどを食べてしまった。
「おい、アヤ! バカ、食いすぎだ」
アヤの頭をコツっと叩くと、
アヤは舌をペロッと出して、アホ面を晒している。
「きみよさん、ごめん。
妹が……」
「い、いえ……、
大丈夫です」
「きみよちゃん、ごめんね~。
お腹が減って死にそうだったんだ~。
代わりに夕飯をおごるから許してね」
アヤはウインクしながら、きみよちゃんにゴメンのポーズをとっている。
なるほど!
自然な流れで夕飯をおごるようにするために、
アヤは、わざと干し芋を食べたのか!
「まあ、お金は、兄ちゃんが出すから、心配しなくていいよ~」
ですよね~。
「でも、その干し芋、本当に美味しいね。
もうちょっと食べてもいい?」
感心した俺がバカだった……。
アヤは、ただ単に干し芋が食べたかっただけだったみたいだ……。
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