343.取り調べ
警備員室で、西村玲子に対する取り調べが開始された。
「西村玲子さん、
なぜ呼ばれたか分かりますか?」
大会役員のおじさんが、怖い顔で西村玲子に話しかける。
「さ、さあ……」
西村玲子は、白を切るつもりらしい。
「では、こちらの男性と面識はありませんか?」
「し、しらない」
「ではAさん、あなたは西村玲子さんと面識はありませんか?」
「し、しらん」
どうやら、二人で口裏を合わせているらしい。
「ではAさん、あなたは自分の意志で、今回のことを実行したというのですか?」
「ああ、そうだよ」
「そうですか……」
「なんだよ、話が終わりなら、俺は帰らせてもらうぞ」
そう言って犯人Aは、出ていこうとする。
本当に、自分の仕出かしたことの重さを理解していないらしい。
「ダメです。
これから警察が来ますので、帰すわけにはいきません」
「け、警察!?
な、なんでだよ。
ちょっと悪ふざけしただけだろ!
こんなことで呼んだら、警察もいい迷惑だろ!」
そういって逃げようとしたところを、警備員に取り押さえられてしまう。
「く、くそう……
は・な・せ!」
「Aさん、あなた、丸山アヤさん以外にも、
7人の選手にレーザーポインタを照射しましたね?」
「さ、さあ……どうかな……」
「その7人は、今、病院に搬送されている最中です」
「び、病院?
お、大げさなんだよ」
「いいえ、その人たちは……
失明の危険もあるそうです」
「ししし、失明!!!!?
ななな、なんで!」
ようやく、事の重大さを理解し始めたらしい。
「あなた、レーザーポインタの説明書の注意書きは読まなかったのですか?」
「いや…だって、受け取ったのは…モノだけで、説明書は……」
犯人Aは、ゴニョゴニョいいながら、西村玲子の方をチラチラみている。
「受け取った? 誰から受け取ったのですか?」
「私は知らないわよ!
全部、こいつが悪いのよ!!」
聞かれてもいないのに、西村玲子が喚きだした。
「なんだと!
俺一人に罪をなすりつけて、一人だけ助かるつもりか!!
やってられるか! 全部、喋ってやる!
俺は西村玲子に命令されてやったんだ、悪いのは全部こいつだ!!!」
犯人Aもムキになって暴露しはじめる。
「なんですって!
あんたが任せておけって言ったんじゃない!
だから私が、通販でわざわざ」
「バカじゃねえの!
誰が、こんな危険なのを買えって言ったよ!
もっと安全なのにしとけば、こんなことにならなかったんだろ!」
「あんたが高いほうがいいって言ったんじゃない!」
こいつらバカだ……。
全部言っちまいやがった。
こんな奴らのせいで……、
ケガをした人たち、かわいそう過ぎる‥‥。
そこへ、もう一人、別の女性が連れてこられた。
ちょっと幼い感じの可愛らしい子だ。
この子、誰だ?
「あれ? お姉ちゃんどうしたの?」
お姉ちゃん?
「あ、有沙……」
なるほど、西村玲子の妹か。
雰囲気がぜんぜん違うな。
「お姉ちゃん、私、勝ったよ!
【軽量級】の優勝だよ!!」
有沙ちゃんは、無邪気に喜んでいる。
そういえば【軽量級】もやっていたっけ……。
あ!
俺、わかっちゃった。
西村玲子が不正をしてまで、舞衣さんのエントリーを【重量級】に変更したのは、
妹の有沙ちゃんが、舞衣さんと戦わなくて済むようにする為だ。
こんな愚かな西村玲子も、妹は可愛いのか。
「残念ですが、西村有沙さん。
貴方は……失格です」
大会役員のおじさんが悲しそうな顔で、有沙ちゃんにそう告げた。
「え?
し、失格?
な、なんでですか?」
どうやら、この子は本当に何も知らないみたいだな。
「貴方の優勝は、貴方の実力によるものではありません。
貴方の対戦相手が、外部から妨害を受けていました」
なるほど……、
やけに負傷した人が多いと思ったら、
西村玲子の対戦相手だけじゃなくて、
妹の有沙ちゃんの対戦相手も、被害を受けていたのか。
「ちょっと待ちなさいよ!
妹は関係ないでしょ!」
横から西村玲子が口を挟んできた。
「西村有沙さんが、この件に関与したかどうかは分かりませんが、
事が事なだけに、このまま優勝とすることは出来ません。
7人もの若い選手が、一生残るかもしれない傷を追ったのですよ!」
大会役員のおじさんが、声を荒げる。
「え? どういうことなの?
お姉ちゃん、これ、何なの?」
「……」
西村玲子は、黙ってうつむくばかり。
大会役員のおじさんが、有沙ちゃんに事情を説明した。
「お、お姉ちゃん、
う、嘘だよね?
何かの間違いだよね? ね?」
「……」
有沙ちゃんは、周りを見回す。
しかし、誰も目を合わせようとしない。
「そ、そんな……
今までずっと稽古してきたのに……
あ……、
ああ……、
ああああーーー!!!!」
有沙ちゃんは、その場に泣き崩れてしまった。
----------
全員が泣き崩れた有沙ちゃんに注目するなか、
コソコソと部屋を出ようとしている者がいた。
犯人Aだ。
「あっ!」
俺が、逃げようとしている犯人Aに気がついて声を上げると、
全員の視線が犯人Aに注目した。
「くそう、こんなんで警察に捕まるとか、ゴメンだ!!!」
犯人Aが、いきなり部屋の入口付近にいる警備員にタックルをかます。
「うわー」
警備員さんが、タックルされて吹き飛ばされた。
そして、なんと犯人Aはナイフを取り出して構えた。
この期に及んで、まだ罪を重ねるのか、
なんてバカなやつなんだ……。
「君、止めなさい!」
警備員たちは近寄れないでいた。
「玲子、お前も来い!」
犯人Aが西村玲子に呼びかける。
「えっ、ええ」
西村玲子は、犯人Aに言われるがまま、部屋から出て行ってしまった。
「お姉ちゃん!
もうバカな真似は止めてー!!」
有沙ちゃんの悲痛な叫びは、虚しく響くだけだった。
ご感想お待ちしております。




