338.大会の準備
ニマちゃんに別れを告げ、
俺たちは日本に戻ってきた。
ナンシーママは、手に入れた【ヌルポ石】の加工を頼みに、提携している町工場に向かい、
リリィさんも、しばらくナンシーママの護衛を続けるそうだ。
俺は、時間がおそかったので会社には帰国の連絡だけを入れ、
そのまま、家に帰ってきた。
「にいちゃん、おかえりなさい。
疲れたでしょ~、肩を揉んであげるね」
アヤが、にこやかに出迎えてくれたけど……。
なんか怪しい。
「セイジ様、おかえりなさい」
「セイジお兄ちゃん、おかえりなさい」
エレナとヒルダも出迎えてくれて、
ヒルダは俺の右手を、
エレナは左手を揉んでくれている。
あ~、極楽極楽~~。
「で、
アヤ、何がほしいんだ?」
「何のことかな~?」
アヤは必死に誤魔化そうとしているが、
俺には分かる。
アヤは、疲れて帰ってきた兄の肩を揉むような、そんなやつではない。
何か魂胆があるに違いないのだ。
「じゃあ、何もいらないんだな?」
「えっと~、
実はね~」
やっぱりなんかあるんだな、
やれやれ。
「今週の日曜日に『大学空手道選手権大会』があるんだけど……」
「イカーン!!」
「なんでよ!
前は出てもいいって言ったでしょ」
言ったっけ?
「とにかくダメだ」
「もう出場申し込みしちゃったから、いまさら取り消しなんて出来ないもん」
マジか!
嫌な予感しかしない。
「私が言いたいのはその大会のことじゃなくて!
その大会で優勝したら、
リオで開催される国際大会の出場資格が与えられるんだって」
「リ…リオ…だと!
もしかして、オリンピック?」
「違うよ、オリンピックは来年でしょ」
「あれ? そうだっけ?」
「それでね~、
リオまで、【瞬間移動】で連れてってほしいな~」
「バカか、お前は。
密入国で空手大会に出場するつもりか?
ちゃんとパスボートを取って、飛行機で行かなきゃダメだろ」
「そ、そうか~
それは気が付かなかった」
こいつ、本当にバカだ……。
「そんなことより、ケガとかは大丈夫なのか?」
「兄ちゃんも心配症だね~
私が大会くらいでケガするわけ無いじゃん」
「違う違う、お前が相手にケガさせたりする可能性を心配しているんだよ」
「だいじょーぶ、ちゃんと手加減する練習しているから」
なにが、『だいじょーぶ』だ。
不安でたまらない。
「そういえば、舞衣さんは出ないのか?」
「でるよ」
「それじゃあ、二人のうち一人しか優勝できないんじゃないのか?」
「部長と私は、階級が違うから平気だよ」
なるほど、無差別級ではないのか。
「話を戻すけど、ちゃんと飛行機で行くから、
リオまでの飛行機代ちょうだいね」
うーむ、どうしよう。
「じゃあ、条件をクリア出来たら飛行機代を出してやってもいいぞ」
「条件?」
「その条件とは……、
『対戦相手にケガをさせないこと』だ!」
「なーんだ、簡単じゃん」
ほんとうに大丈夫なんだろうか?
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翌朝、会社に出社すると、
部長が待ち構えていた。
「おはよう、丸山くん」
「おはようございます」
「ブータンでは大変だったらしいね」
「ええ、そりゃあもう」
「まあ、君が無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」
そんなに心配してくれていたのか、
部長……。
「実は、仕事が溜まっちゃって困っていたんだ。
ちゃっちゃっと、やっちゃってくれ」
「えっ?」
プロジェクト管理システムにログインしてみると……。
大量の仕事が登録されていて、すべて担当者が俺にされていた。
「それじゃ、よろしくね」
部長は、そう言い残して足早に去っていった。
おのれ部長、こんど高いうなぎでも奢ってもらうからな~!!
俺は、自分に【クイック】の魔法をかけて、
ものすごい勢いで、仕事をこなした。
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1人月の仕事を1日で片付けた俺は、
クタクタになりながら、だいぶ遅くに家に帰ってきた。
こんな時間だとエレナとヒルダは、もう寝てしまっているだろう。
「あ、兄ちゃん、みてみて~」
リビングに入ると、アヤが露出度の高い服を来て、くるくる回っていた。
「何やってんだ?」
「何って、リオに着ていく服を買ってきたから、
ファッションショーしてるに決まってるじゃん」
「明後日の大会に優勝したらだろ?」
「私が部長以外に負けるわけ無いじゃん」
まあ、そうなんだけどね。
しかし、アヤの服、露出度が高すぎないか?
リオだから、これくらい普通なのか?
それに、随分涼しそうだな……。
あれ?
あ!
「アヤさんや……」
「何? にいちゃん」
「その格好だと、寒くないか?」
「兄ちゃんバカだな~。
今は真夏だよ?
寒いわけ無いじゃん!」
「アヤ、リオは南半球だぞ?」
「だから何?」
「南半球で8月だと、季節は何だ?」
「え?」
……しばらく、沈黙が辺りを包んでいた。
「もしかして……冬?」
「ああ」
「3万円もしたのに……」
アヤは、がっくりと膝をついた。
しかし、この服そんなにしたのか。
「まあ、でも、アレだ……。
赤道に近いから、けっこう暖かいかもな」
「そ、そうなの?」
顔を上げたアヤは少し涙目になっていた。
「ちょっと待ってろ、ネットで調べてみるから」
「うん」
俺は、急いでリオの8月の気候を調べた。
「アヤ、平均気温は25℃だってさ、
ギリギリ夏日な感じだから、大丈夫かも」
「ほんとう!?」
「まあ、朝夕とかは少し冷えるかもしれないけど、
その時は一枚羽織ればいいし」
「そうだよね!
もう、兄ちゃんが変なこと言うから心配しちゃったじゃん。
兄ちゃんは、いつも一言よけいなんだよね~」
アヤは、元気を取り戻し、俺に毒を吐きながら
また、くるくる回りはじめた。
まったく、
アヤは、いつまでたってもガキだな~
ご感想お待ちしております。




