281.日の出の塔13階
ジュエリー・ナンシーの新作ジュエリーの発表のあと、
俺はすぐに電話をかけてみたが……。
ナンシーママは、
『自力で、同じものを作ってみせる!』
と、張り切っていた。
大丈夫なんだろうか? 激しく心配だ。
まあ、どうしてもダメな時は、また手伝ってやるしか無いか。
上手く行かなくて困るのは、りんごも同じなのだから。
----------
そんなこんなで、
ジュエリー・ナンシーの事はひとまず置いておいて。
後回しになっていた『日の出の塔』攻略を再開することにした。
パーティの時の百合恵さんの様子も気になるし、あまり後回しにしておくことも出来ない。
ということで、土曜日の朝。
俺、アヤ、エレナ、ヒルダで異世界へ出発した。
~~~~~~~~~~
先ずは、いつもの通りリルラに会いに来た。
「ようリルラ」
「セ、セイジ!!」
まるで、ずっと会えなかった恋人にでもあったような態度だ。
先週来れなかっただけで、ずいぶん大げさだな~。
「先週は来れなかったけど、
なにか変化は無かったか?」
リルラの話によると、
各地の『悪魔族の像』を破壊したおかげで、悪魔族に因る襲撃は完全になくなっているそうだ。
やはり悪魔族たちは、あれを使ってやって来ていたんだな。
「こちらが問題なさそうでよかった。
他に問題とかは起きてないか?」
「問題では無いのだが……」
ん? 他に何かあるのかな?
「各街の領主どうしが会話できる、あの魔道具。
あれを使わせて欲しいという団体があって、セイジに許可をもらいたいのだ」
「団体? どこの団体だ?」
「冒険者ギルド、商人ギルド、回復魔法師協会の3団体だ」
なるほど、どこも情報網が必要な団体だな。
「俺としては問題ないぞ」
「そうか! それは良かった。
魔道具の料金は別途、話をしよう」
まあ正直、金は腐るほどあるし、それ程必要ないんだけどね~。
くれるって言うならもらっておこう。
「あと、リルラ。
あの魔道具の名前はどうするつもりだ?」
「通常、新しい魔道具は考案者が名前を決める。
出来ればセイジに決めて欲しいんだが」
「そうか……
じゃあ『魔石電話』でいいか」
「『でんわ』とは、なんだ?」
「俺の国であれと似た事のできる道具だよ」
「なるほど、お前の国には、あのような道具があるのか……」
リルラが、『私も連れて行って』という目で俺を見ているが……。
流石に用もないのに連れて来たりしないよ?
「じゃあ、俺たちはまた日の出の塔の攻略に向かうから、
何かあったら【双子魔石】で連絡よろしくな」
俺たちは、逃げるように日の出の塔に向かった。
~~~~~~~~~~
「ふう、
やっと、ダンジョン攻略を再開できるよ」
日の出の塔13階に来てみると――。
そこは、だだっ広い荒野が広がっていた。
「あれ? ここ塔の中なの?」
アヤが驚き戸惑っている。
「そうみたいだ、
まあ、下の階にも花畑とかもあったから、そんな感じのフロアなんだろうよ」
「ふーん」
しかし、何か他の階と違う雰囲気が漂っている。
「でも兄ちゃん、この階、風が吹いているよ」
そうか! 風か!
他の階で広い風景が広がってても、どこか嘘っぽく感じていた。それは多分、風がなかったせいだ。
しかし、この階には極自然に風が吹いている。
そのことが、本当に外にいるかのような雰囲気を作り上げているのだ。
「この階は、他の階となにか違うのかもしれない。
慎重に行動しよう」
「はーい」「「はい」」
俺たちが、辺りを探索していると――。
「兄ちゃん、鳥が飛んでる」
アヤに言われて上空を見てみると、
少し大きめのカモメのような鳥が飛んでいた。
「アレ、敵なのかな?」
【鑑定】してみると、
『アホウドリ』という魔物らしい。
「アホウドリだって」
「アホウドリ? アホウドリってあのアホウドリ?」
「アレも魔物みたいだから、地球のアホウドリとは違うのかもな」
俺とアヤがそんな話をしていると……。
アホウドリが俺たちに気がついて、襲ってきた!
アホウドリが俺にめがけて急降下してくる。
俺は、とっさにバックステップで避けた。
ボテ。
「あ」
アホウドリは、地面に激突して転んだ。
バタバタ。
アホウドリは、コミカルな動きで何とか起き上がり、
よたよたと歩いて逃げようとする。
俺が、逃げようとするアホウドリを白帯刀でやっつけようとすると――。
「兄ちゃん、待って!」
アヤが急に俺を止めた。
「アヤ、どうしたんだ?」
「だって、かわいそうだよ」
「かわいそう? だって魔物だぞ?」
「でも……」
アホウドリを見てみると、
よたよたと、一所懸命に歩いて逃げようとしている。
おそらく、一度地面に着地してしまうと簡単には飛び立てないのだろう。
「でも、逃したらまた襲ってくるかもしれないぞ?」
「その時は、私がなんとかするから!」
まあいいか、アヤに任せてみよう。
「よし、アヤ、なんとかしてみせろ。
もしダメだったら、俺がやっつけるからな」
「うん!」
しばらく進むと、別のアホウドリがまた襲ってきた。
「アヤ、来たぞ」
「わかってる!」
アヤは、風の魔法を使ってアホウドリを追い払おうとしている。
「この! てや! ナニクソ!」
アヤの風はアホウドリにあたっているのだが、
流石に鳥だけのことはある、
なんとか空中で体勢を持ち直してしまうのだ。
「どうしたアヤ、全然なんとかなってないぞ」
「だって……」
「あいつらは、地面に落ちれば動けなくなるんだから、
風を下に向けて吹かせたらいいんじゃないのか?」
「そうか! やってみる」
アヤが、下向きの風を発生させると、
アホウドリは、急に揚力を失い、地面に落ちてしまった。
「やったか?」
アホウドリは、死んではいないらしく、
なんとか立ち上がり、トコトコと逃げていった。
「やった! 下向きの突風、大成功!」
「下向きの突風か、『ダウンバースト』だな」
「『ダウンバースト』なにそれ、かっこいい!」
アヤは『ダウンバースト』が気に入ったらしく、
その後大量に攻めてきたアホウドリを『ダウンバースト』で蹴散らしていった。
「ぐははは! 私のダウンバーストを喰らえ!!」
アヤは、ノリノリである。
可哀想だから、追い払うだけにするんじゃなかったのかよ!
その後、アヤの大活躍のおかげで、難なくその階を攻略することが出来、
上に登る階段を見つけることが出来た。
ご感想お待ちしております。




