025.エリクサー
俺達は、街に戻ってきた。
今回は噴水広場ではなく、人のいない裏路地に【瞬間移動】してきた。
【なんちゃら騎士団長】が俺らを狙っていると分かった以上、これまで以上に目立たないようにしておかないと。
俺達は、大通り沿いの食堂で、昼食を取ることにした。
出てきた料理は、素朴な味だった。
日本の味の濃い食事に慣れているせいで、若干薄味に感じる。もしかしたら【亜鉛】不足かな?
「食べながら、今後のことを話しておこう」
「今後のこと?」
「今日は宿屋に泊まって、明日は朝一で日本に帰ろうと思う」
「えー、もうちょっと観光しようよ~」
「【なんちゃら騎士団長】に狙われてるのを分かってて言ってるのか?」
「あ、そうか、狙われてるのか。兄ちゃんとエレナちゃんどっちが狙われてるの?」
「おそらく、どっちもだよ。俺を倒してエレナを奪還するのが目的だと思う」
「なるほど、あの冒険者もエレナちゃんを連れて行こうとしてたもんね」
「そんな理由で、この街に長居するのはやめといた方がいいかもな」
「でも、兄ちゃんの【瞬間移動】は、この街にしか来れないんでしょ?」
「それが問題なんだよな、どうしたものか…… それはあとで考えるとして。この後は、いったん【商人ギルド】に行って、もうちょっとお金を作って、宿屋を確保しておいてから、教会に行く流れかな」
「【商人ギルド】? ここは【冒険者ギルド】に行って、変な奴に絡まれるのが、テンプレじゃないの?」
「何処の世界のテンプレだよ」
~~~~~~~~~~
食堂を後にした俺達は、【商人ギルド】にやって来た。
「これはこれはセイジ様、ようこそいらっしゃいました」
なんか上役っぽいオッサンが、手をスリスリさせながら声をかけてきた。
「えーと、お会いしたことありましたっけ?」
「すいません、申し遅れました。わたくし、当ギルドの副長を任されております、『ギルデ』と申します。以後お見知り置きを」
「どうも」
「先日は、大変貴重な物を売っていただいて、大変助かりました。それで、本日はどのようなご用向きで?」
「また、何か買い取ってもらおうかと思いまして」
「そうですか、そうですか、では、こちらへどうぞ」
俺達は窓口ではなく、奥の個室に連れて行かれた。
「早速ですがセイジ様、先日の塩をお持ちでしたら、前回の3倍の価格で、買い取らせていただきたいのですが。いかがでしょうか?」
「3倍!?」
うーむ、たかが塩に何故こんな値段が付くんだ?
何だか怪しいな。
確か前回の取引は、100gくらいで10000ゴールドだった。
1ゴールドが100円位だから…… 100万円!?
それが今回は3倍だから300万円……
流石にこれは、何か裏がると見るべきだ。
直ぐに飛びつくのは止めておいて、取引するのはもっと情報を得てからにしよう。
「あの塩はもう手元にありませんので、ご勘弁を」
「そうですか、残念です」
「実は商人ギルドに来たのは、聞きたいことがあったからなんです」
「聞きたいことですか?」
「聞きたこととは、【エリクサー】のことなんです」
「え、【エリクサー】!?」
なんか【エリクサー】の話をした途端、ギルデさんの顔色が青くなった。一体どうしたんだろう?
「どうかされましたか?」
「セイジ様もお人が悪い」
「はて、何のことでしょう?」
「わたくしの負けです…… あれほどの塩を仕入れてくるほどのお方なら、あの【塩】が【エリクサー】の材料となることくらい当然ご存知だったのですね」
なんだと!? あの【塩】が【エリクサー】の材料だと!?
俺は表情を出さないように気をつけながら―
「ま、まあな」
「やはりそうでしたか」
もしかして前回の【塩】が【エリクサー】になって【ライルゲバルト貴族連合騎士団長】に渡り、奴の手首を治すのに使われたのか?
「もしかして、依頼人は【ライルゲバルト貴族連合騎士団長】ですか?」
「!!? ……そ、そこまでご存知とは…… すいません、その件はご内密にお願いします」
「ああ、分かってますよ」
うーむ、あいつに渡るとなると、おいそれと【塩】を取引するわけには行かなくなるな。
「それでは、今回お持ち頂いた品物を見せていただけないでしょうか」
「ああ、今回買っていただきたいのはこれだ」
俺はビニールに入った白い粉を、テーブルの下から取り出した風を装って取り出した。
「これは、【塩】の様に見えますが、違うのですか?」
「これは【砂糖】です」
「【さとう】? わたくしはこの国で取引される、全ての品物を把握していると思っていたのですが…… 思い上がっていたようです」
どうやら、本当にこの国に【砂糖】は存在しないようだ。
「では、少しご馳走しますので、申し訳ありませんが【紅茶】を頂けませんでしょうか?」
「はい、分かりました」
チリンチリン
副長さんは鈴を鳴らして人を呼び、【紅茶】を用意してくれた。
「では、失礼して。紅茶に、この【砂糖】を一杯入れさせていだきます」
「これは、【紅茶】に入れるものなのですか?」
「まあ、それ以外の用途もあります。どうぞ、味をお確かめください」
副長さんは【紅茶】を口にした。
「っ!!? あ、甘い!! いやしかし、この甘さは美味しいですね、紅茶の風味を逆に引き立てている」
「では、こちらもご一緒にどうぞ」
「これは?」
「これは、【砂糖】を使った【クッキー】です」
「ん!? これも美味しい!」
「どうですか?」
「この【さとう】は【はちみつ】から出来ているのですか?」
「いいえ、材料は他のものです」
どうやら【はちみつ】は存在しているようだ。
「取り敢えず、今回は【はちみつ】と同じ価格で買い取らせていただきます。いろいろな方面の、料理人などに使ってもらって見ますので、そちらの反応を見て、次回の価格は決めさせていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「では、それでお願いします」
結局、1kgの【砂糖】は1000ゴールドで買い取ってもらえた。
前回の【塩】と比べると安いけど、【砂糖】なら安心して取引できる。
「あー、あと、こんな商品もあるのですが」
俺は副長さんの前に【ライター】、【ボールペン】、【レポート用紙】を並べてみせた。
「これはこれは、どれも見たことのないものばかりですね」
「これは【ライター】という魔道具で、火をつけることが出来ます」
シュボッ
俺はライターで火を付けてみせた。
「!!!? こんなに小さいのに、着火の魔道具なのですか!?」
「そして、これは100枚つづりの紙です」
「この紙は、恐ろしく薄くて綺麗な作りですね」
「そして最後の【ボールペン】は、字を書く普通の【ペン】です」
「変な形の【ペン】ですね。ん? ペン先が変な形をしている。試し書きをしてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「では、【インク】をもってこさせますね」
「あ、待ってください。この【ペン】を使うときは【インク】は必要ありませんよ」
「【インク】を必要としない!? それはどういう事ですか?」
「それでは、私が書いてみますね」
俺は【レポート用紙】に【ボールペン】で、字を書いてみせた。
「【インク】をつけていないのに字が!! しかも、線が細い!」
結局、【ライター】は1つ1000ゴールド、
【レポート用紙】は1冊200ゴールド、
【ボールペン】は1本200ゴールドで、それぞれ10個ずつ買ってもらった。
【砂糖】と合わせて、合計15000ゴールドの、お買い上げです。
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