270.時間が停止した世界
「【トキ召喚】!!」
時間が止まっていた。
ボスが発射した銃弾は、すでに何発かが助さん格さんに命中していた。
俺は、【トキ召喚】を使うと同時に避けていたので、あたってはいない。
『人族のセイジよ、よくぞ呼び出してくれた』
召喚したトキは止まっていなかった。
トキは、妖精のような小さな姿で現れ、
そして、俺の肩の上に留まっていた。
「よくぞ? トキ、あなたは呼び出されるのを待っていたのですか?」
『ええ、私は、この地球と呼ばれている世界で生まれました。こちらの世界で呼び出されるのを楽しみにしていたのです』
「え!?」
トキの話によると――。
・200年ほど前に日本で生まれたトキは、餌に紛れていた不思議な石を飲み込んでしまい、【時空魔法】を習得した。
・大飢饉が発生した時に、仲間を連れて異世界へ避難し、向こうで定住してしまった。
こんな話らしい。
俺は、俺の肩の上に留まったトキの話を直立不動で聞いていた。
っていうか、動けないんだけど??
「あの、トキさん?」
『なんですか?』
「俺の周りにある、この硬い壁は何ですか?」
『空気です』
空気!?
そうですよね! 時間が止まったら、空気も止まって動けなくなりますよね~。
そう、俺の周りには、時間が止まった空気の壁があり、どんなに力を入れてもびくともしないのだ。
自分の周りの50cmくらいの空間の空気は動いているので、なんとか呼吸はできている。
時間が止まっているということは、温度による電子の振動も止まっているということで、温度が絶対零度になるところなのだが、
幸いなことに、触っても温度を感じることはなく、熱が奪われてしまうということもないみたいだ。
おそらく、止まった場所と動いている場所の間でエネルギーのやり取りが行われていないのだろう。
「トキさん、これじゃあ何も出来ないですよね?」
『そんなことはありません、同じ【時空魔法】の【瞬間移動】であれば、止まった時間の中を移動することが出来ます。
また、物に触れれば、それも一緒に【瞬間移動】することも出来ますよ』
「えーと、時間が止まった中で、ナイフを投げたりとかは?」
『空気の壁にあたってしまうので、物を投げることは出来ないと思います』
「じゃあ、ロードローラーは?」
『すいません、おっしゃっている意味がよくわかりません』
そんな~。
「それじゃあ、魔法攻撃は?」
『時間が止まった中で使えるのは、自分自身に対する魔法に限られます』
ですよね~。
仕方ないので、機関銃の弾丸にさらされている助さん格さんの所へ【瞬間移動】し、2人を1階ロビーへと移動させた。
2人は、すでに銃弾を何発か食らってしまっていたが、幸い急所を外しているので、死にはしないだろう。
ボスを倒した後で、【回復魔法】でもかけてあげよう。
『人族のセイジよ、そろそろ時間が動き出しますよ』
「え! もう?」
俺は、急いでボスの部屋に戻り、ボスの背後で時間が動き出すのを待ち構えた。
俺の肩の上に乗っていたトキが、とんぼ返りをするようにクルッと回りながら時空の彼方へ消える。
それと同時に、凍っていた時間が動き始めた。
ズバババババババ!!
誰もいない空間に向かって機関銃の音が再び響き渡たる。
しばらくして、異変に気がついたボスは、引き金を戻す。
ボスは、急に何かに気がついたように振り向こうとした。
バコ!
ボスが振り向くのと同時に俺の拳がボスの顔にめり込んだ。
手に抱えていた機関銃がボスの手からこぼれ落ち、3回転しながら部屋の壁に激突するボス。
しかし、ボスはすぐさま立ち上がった。
「おのれ!!
天に選ばれしこの俺様に、攻撃するとは!
万死に値するぞ!!!!」
『天に選ばれた』ってなんだよ!
地球側にもこんな奴が居たんだな~。
「この俺様は、ゆくゆくは大陸を治め、世界をも手にする男だぞ!!」
大きな夢を持つことはいいことだけど……。
流石に『世界征服』は、ちょっと……。
ボスは、懐からナイフを取り出し構えようとしたが……。
俺は、瞬間的に移動し、ボスの手を思いっきり曲がっちゃいけない方向に折り曲げてやった。
「ギャー!!」
その痛みにボスが叫び声をあげる。
今度は、その開いた口を下から蹴り上げる。
俺は、ボスが動こうとする度に、その動かそうとしている体の場所を容赦なく傷めつけた。
起き上がろうとすれば、頭を踏みつけ。
這おうとすれば、腕を踏みつけ。
声を上げれば、顎を蹴り上げた。
もちろん【鑑定】をしながら、HPが0にならないように調整しながらだ。
体を動かそうと思うのが嫌にやるくらいに、徹底的に何度も何度も傷めつけた。
その場所を攻撃するとHPが0になってしまう場合は、攻撃の前にその場所を【回復魔法】で回復してから、改めて痛めつけた。
気絶をすれば、【起床】や【電撃】、【水の魔法】で水をぶっかけたりして無理やり起こしてから傷めつけた。
そんな事を延々繰り返していたら、ボスはまったく動かなくなった。
よし。
ここまでやれば少しは懲りただろう。
ちょっとやり過ぎたけど、流石に頭にきちゃったんだよね。
俺は、誰だが分からないほどぐちゃぐちゃになったボスを1階ロビーまで引きずっていった。
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1階ロビーでは、縛られていた戦闘員の何人かが意識を取り戻し、縄から抜けだそうともがいていた。
俺は、そんな奴らの目の前に、血まみれで誰だか分からないほどにボコボコになったボスを転がした。
顔ではもうボスだとわからない状態であるが、服装などからボスである事を理解したのだろう。
戦闘員たちは、急に静かになった。
もし、このボスが、カリスマによって皆を率いていたのであれば、
ボスが倒されても、残された者達はボスの志を引き継いで歩み続けられただろう。
もしかしたら、ボスの再起を一丸となって支えてくれたりもしてくれたかもしれない。
しかし、こいつは、皆を暴力で支配していた。
それでは、より強い暴力によってボスが倒された時、組織は維持できなくなってしまう。
そう、これこそが暴力による支配の致命的な欠点。
まあ、こんなことを繰り返している人たちには、理解できないだろうけどな……。
……。
それはそうと、
この後、どうやって警察に来てもらおうかな?
ご感想お待ちしております。




