241.暗闇の着せ替え
「はー、疲れた~」
やっと日本に帰ってきた。
ヒルダもアヤに抱っこされてぐっすり眠っている。
アヤとエレナは、ヒルダを寝かせるために部屋に行ってしまった。
「舞衣さん、百合恵さんを家に送るから、手伝って欲しいんだけどいいかい?」
「手伝い? ああ、いいよ」
俺は、百合恵さんを抱っこしたまま、舞衣さんと【瞬間移動】で飛んだ。
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「真っ暗だね、電気つけちゃダメかな?」
「誰にも知られたくないから、我慢して」
「まあ、そうだよね~」
俺は【夜目】があるから見えるんだけど、舞衣さんは暗くて動きづらそうだ。
俺たちは、静かに行動し、
百合恵さんをベッドに寝かせた。
「それで、ボクは何を手伝えばいいんだい?」
「えーと、申し訳ないけど……
脱がせて欲しいんだ」
「え!?
お兄さんをかい?
流石にそれは……」
「違いますよ! 百合恵さんをだよ!」
「……エッチなことでもするつもりかい?
なんでボクが、お兄さんの変態行為の手伝いをしなくちゃいけないんだい?」
「もう! 違いますよ!!
百合恵さんが今着ている服は、悪魔族に着せられた服ですよね。
そういった異世界の証拠を残さないようにしないとダメって事ですよ!」
「あー、そうか!
ごめんごめん、勘違いしてたよ」
舞衣さんもやっと分かってくれたらしく、
真っ暗な中、百合恵さんの服を脱がし始めた。
「ねえ、お兄さん、
下着も脱がすのかい?」
し、下着!!?
いきなり全く関係ない話をすると、俺には【夜目】というスキルがあるのだ……
関係ない話をして申し訳ない。
「そそ、そうだね、脱がしたほうが、いいかもしれないね~」
「ねえ、お兄さん~
もしかして、見えてたりするのかな~?」
般若のような舞衣さんの笑顔が、暗闇の中で浮かび上がっていた。
「み、み、見えて、ない、で、ですよ~」
俺は、ゆっくりと回れ右をした。
後ろで、舞衣さんが百合恵さんを脱がしている音が聞こえてくる。
俺の中の天使と悪魔が、耳元で囁く。
『おい、振り向いてじっくり見てみようぜ!
真っ暗だし、舞衣さんもどうせ気が付かないよ!』
『いえいえ、百合恵さんの事ももっとちゃんと考えないといけません!
体に傷がないかを、確認する必要があります。
今すぐ振り向いてじっくり見てみましょう。
真っ暗だし、舞衣さんもどうせ気が付かないよ!』
あれ?
しかし、小心者のDTに、そんな勇気はあるわけもなく、
俺は悶々としながら、動けずにいた。
「お兄さん、脱がせたままだと風邪をひいちゃうから、パジャマを着させてあげてもいいかな?」
「はい! 舞衣さんの仰るとおりでございます!」
なぜか変な言葉遣いになってしまった。
「それじゃあ、タンスの中にパジャマが入ってるから取ってくれないかい?」
「はい! 分かりました!!」
俺は、舞衣さんの指示通り、タンスからパジャマを取り出し、
後ろを向いたまま、舞衣さんに渡した。
「やっぱり見えてるんじゃないか!!」
しまった!! 罠だったか!
俺は、百合恵さんの着せ替え作業が終わるまでの間、
ずっと土下座をしていた。
「お兄さん、いつまで土下座しているんだい?
危うく踏んづけるところだったじゃないか」
「作業はもう終わりましたでしょうか?」
俺は、土下座したまま尋ねた。
「うん、もうパジャマを着させたし、布団もかけたから、面を上げても大丈夫だよ」
舞衣さんの許しを得て、立ち上がり、百合恵さんを見てみると―
百合恵さんはぐっすりと眠っていた。
「舞衣さん、百合恵さんに追跡用ビーコンを付けてもよろしいでしょうか?」
「なんでボクに許可を求めるんだい?
このままここに置いていくしかないから、変なことにならないように監視しようってことだろ?
まあ、やむを得ないんじゃないかな?」
「それでは、僭越ながら、追跡用ビーコンを付けさせていただきます」
俺は、舞衣さんの許可を得て、
百合恵さんに追跡用ビーコンを取り付けた。
もう、枠を使い果たしてしまっているので、
代わりにシナガの街の入口のビーコンを外してしまった。
悪魔族の動向が気になるけど、仕方ないよね。
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翌朝、俺は百合恵さんが気になって早く起きてしまった。
追跡用ビーコンを確認してみたが、百合恵さんはまだ寝ていた。
仕方ない、朝食の準備をしながら起きるのを待つか。
俺が、百合恵さんの様子を確認しつつ、朝食の準備をしていると―
舞衣さんが起きてきた。
「お兄さん、おはよう。
百合恵くんの様子はどうだい?」
「おはよう。
百合恵さんはまだ寝てますよ」
映像を舞衣さんにも見えるようにしてあげた。
「うーむ、なんか歯がゆいな~
百合恵くんに電話して起こしちゃダメかい?」
「もうちょっと様子を見ましょうよ」
「うーむ、そうだね」
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みんな起きてきて、そろって朝食を食べている時になっても、まだ百合恵さんは寝ていた。
俺たちは、百合恵さんの映像を見ながら朝食を食べていた。
「まだ起きないね」
「やっぱり電話するかい?」
そんな話をしていると―
『ふわぁー』
映像の中の百合恵さんがあくびをして、ゆっくり起き上がった。
「あ! 百合恵さん起きた!」
百合恵さんは起きたが、寝ぼけているらしく、周りを見回している。
さて、どう出るか!
百合恵さんは、俺たちに見られてるとも知らずに、
フラフラと起き上がってテレビをつけて、目をこすりながらボンヤリとテレビを見ている。
「異世界の事、覚えてないのかな?」
「どうだろう?」
そして、百合恵さんが見ている日曜朝のニュース番組が、今日の日付をでかでかと表示した時……
百合恵さんは、ゆっくりと状況を思い出し……
じわじわと、慌て始めた。
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