017.買い物とお寿司
「きゃー!」
エレナは俺に抱きついていた。
「エレナ、大丈夫だよ」
「でも、大きくて速くて、こ、怖いです……」
「もう、エレナちゃんてば! 兄ちゃんなんかに抱きつかないで、私に抱きつけばいいのに~」
「あれは、自動車って言って、馬車みたいなものだよ」
「馬車? で、でも馬が居ませんよ」
「エンジンで動いてるから、馬は要らないんだ」
「えんじんですか?」
「そう、それによく見てご覧。ちゃんと人が乗ってるだろう?」
「あ、ホントです、人が乗ってます。きゃー、今度はもっと大きいのが!」
「あれは、バスだよ。あれにだって人が乗ってるだろ?」
「そ、そうですね。で、でも、怖いです」
「もう、エレナちゃん! 私に抱きついてよ~!」
何だか疲れてきた。
やっとのことで、駅前の大通りを渡り終えて、商店街に差し掛かった。
「すごい、人がいっぱいです。みなさん、セイジ様とアヤ様と同じ髪と目の色です。全員ご親戚なんですか!?」
「ほとんどの日本人は髪と目が黒いけど、それほど親戚というわけじゃないよ」
エレナは、周りの人達を覗きこむように見回しているが…… こちらが周りを覗く時、周りもこちらを覗いているのだ。
エレナは金髪とブルーな瞳なのにもかかわらず、【言語一時習得の魔石】のお陰で日本語ペラペラなのだ。激しく目立ってしまい、注目されまくりだ。
エレナはというと、すれ違う人と目が合う度に会釈をして、ニッコリ微笑みかけている。
そんなこんなでしばらく歩いて行くと、とうとうモーゼの様に、人波が左右に割れて道が出来上がり、凱旋パレードの様になってしまっていた。
アヤはアヤで、有名人になったかのように、周りに手を振って喜んでいる。注目されてるのはお前じゃ無いぞ!
俺たちは、第一の目的地である100円ショップにやって来た。
「100円ショップ? スーパーじゃないの?」
「スーパーにも行くけど、その前にちょっとな」
エレナは沢山の品物に、目を回しそうになりつつも、「これは何ですか?」と質問の嵐を浴びせかけてくる。
俺は【ライター】、【ボールペン】、【レポート用紙】、【コップ】、【皿】、【スポンジ】、【プラスチック容器】なんかを大量に買い込んだ。
100円ショップで買い物を済ませ、次にスーパーへやって来た。
スーパーの大量の品物に、目をキラキラとさせながら、さらなる質問の台風を発生させているエレナを、なんとか引き連れつつ。
俺は、【新じゃが】、【新玉ねぎ】、【人参】、【豚肉】、【鶏肉】、【ソーセージ】、【ハム】、【カレー粉】、【小麦粉】、【チューブ入りにんにく】、【チューブ入り生姜】、【レタス】、【卵】、【牛乳】、【バター】、【ヨーグルト】、【シリアル】、【お菓子】などを買い込んだ。
妹よ、買い物かごにこっそり、【チョコレート】を入れるな! まあ、買うけど。
スーパーでの買い物を終え、人が見ていない内に、さっとインベントリにしまいこんだ所で、妹が変なことを言い出した。
「【お寿司】を食べたい」
「は? なんでいきなり、お寿司が出てくるんだ?」
「だって、せっかくエレナちゃんが日本に来たんだから、ぜったいお寿司を食べなくっちゃ」
「本当は?」
「私が食べたいから」
「こらー!」
「【おすし】とは、なんですか?」
「ほらー! エレナちゃんも食べたいって!」
「まあ、いいか」
「やたー!」
「か、回転するのでもいいですか?」
「まあ、しかたないな~」
「す、すいません」
ナゼ俺が謝ってるんだ?
「「らっしゃぃさっせー!」」
いきなり威勢のいいお出迎えに、エレナはちょっとビビっていたが、エレナの方もまた注目を浴びていた。
一番奥のファミリー席に着くと、エレナはベルトコンベアで流れる寿司を見て、目を丸くしていた。
「こ、これは、どういう……」
「こうやって流れてくる料理を、好きなのだけ取って食べるのよ」
とか言いながら妹は、すでに3皿も平らげていた。い、いつの間に。
「ど、どれを取ればいいんでしょう」
エレナは、おどろきとまどっている。
「エレナ、まあ待ちな、俺が注文してやるから」
「は、はい」
「すいません、この子にサビ抜きおまかせで握ってもらえますか?」
「はいよ!」
その時、妹は5皿目のウニ軍艦を、箸で口に運んでいた。そ、それは、この店で一番高い皿! 俺の金だと思って、高いのばっかり食いやがって、いつか【奴隷の首輪】を付けてやる!
ん? 箸?
「あ、そういえば! エレナは【箸】なんて使えないよな?」
「【はし】ですか? しらないです」
「どうしよう?」
「じゃあ、私が頼んであげる」
「え? アヤ、頼むって何を?」
「すいませーん! この子にナイフとフォーク下さい」
「ばか! 寿司屋にナイフとフォークなんて、あるわけ無いだろ!」
「あるよ!」
「「え?」」
「ナイフとフォーク、あるよ」
「お、お願いします」
寿司屋にもナイフとフォークがあるのかー
知らなかった。
<※現実には、あるかどうか知りません>
しばらくして、お任せで握ってもらったエレナのお寿司が、ナイフとフォークとともに出てきた。
なんと!
ナイフとフォークで食べやすいように、小さな一口サイズのお寿司を、わざわざ作ってくれていた。
「すごいです! 小さくて可愛くて、とっても美しいです。ずっと見ていたいくらい!!」
特製ミニミニお寿司に、エレナは大興奮している。
「ほら、せっかくエレナの為に作ってくれたんだから、そんなこと言ってないで食べな」
「はい!」
ちょうどフォークに乗る大きさのお寿司を、ナイフとフォークで上手く掬い上げ、エレナのかわいい口に運び込まれた。
「おいひいです!!」
エレナが、とっても美味しそうにミニミニお寿司を食べている姿を見て、俺とアヤはホッコリした気分になっていたのだが…… 気が付くと、店の板前さんたちも、みんなほっこりとした笑顔で、エレナが食べるのを注目していた。
一時はどうなることかと思ったけど、ここに連れてきて大正解だったな。妹のわがままも、たまには聞いてやるもんだな~
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