193.つる
「兄ちゃん、こんなに【紫刺草】があったら、大金持ちだね」
アヤの瞳が、¥マークになっている……
「売らないよ」
「なんでよ!」
「薬品製作のスキル上げに使うに決まってるだろ」
「ああ、あれね」
なんでアヤは、薬品製作に興味を持たないんだろう?
科学実験みたいで面白いのに……
「よし、みんなで手分けして【紫刺草】を採取しよう!」
「「はーい!」」「はいはい」
アヤだけ、なんかテンション低いけど―
みんなで採取を開始した。
「セイジお兄ちゃん、この【紫刺草】は、ちょっとしおれてますけど、大丈夫でしょうか?」
ヒルダが、少し萎れた【紫刺草】を持ってきた。
ってか、『お兄ちゃん』って呼ばれるのは、まだちょっと照れくさいな。
萎れた【紫刺草】を鑑定してみると……
┌─<鑑定>────
│【紫刺草-2】
│魔除けに使われる紫色の刺草
│状態:萎れ
│レア度:★★★★
└─────────
「うーむ、状態が良くないみたいだな。
なるべく萎れていないのを選んだほうが良さそうだ」
「はい、わかりました」
しかし、見回してみると、状態のいい【紫刺草】は、あまり見つからない……
どうしたもんかな~
「兄ちゃん、【大地の魔石】を使ってみたら?」
「そうか! その手があったか!!」
インベントリから【大地の魔石】を取り出すと―
アヤが素早く【大地の魔石】を奪いやがった。
「私がやる!」
「おい、あまりやり過ぎると…」
アヤは、俺の話を聞かずに―
【大地の魔石】を両手のひらで挟んで、祈るように踊り始めた。
「ほら、ヒルダちゃんも一緒に踊って!」
「は、はい」
二人の踊りに合わせて、にょきにょきと元気になっていく周囲の【紫刺草】。
アヤは調子に乗って、どんどん魔力を込めていく……
気が付くと、元気のいい【紫刺草】で、その場所が埋め尽くされていた。
【鑑定】してみると【紫刺草+1】や【紫刺草+2】まで、チラホラ生えていた。
「やったー!」
アヤは、ヒルダと一緒に手を取り合って喜んでいる。
【大地の魔石】を使えば誰でも出来るだろ!
結局、合計で300本もの【紫刺草】が収穫できた。
これで薬品製作のスキル上げはバッチリだな。
「兄ちゃん、この草だけ他のと違うよ」
「どれどれ?」
にょろ。
「っ!?
それ、なにか動かなかったか!?」
「え? 兄ちゃんバカだな~
植物が、動くわけ無いじゃん!」
「いや、絶対に動いたって!」
「そこまで言うなら、これを抜いてみようか?」
「おい、ばか、やめろ」
俺は、急に【危険】を感じて、アヤを止めようとしたのだが……
「うわーー!!」
いきなり地中から現れた『つる』が、触手のようにうねり―
アヤの足首を絡めとって、逆さ吊りにしてしまった。
「ア、アヤ!」
「兄ちゃん、助けて!!」
しかし、アヤが逆さ吊りにされると同時に、エレナとヒルダにも『つる』が迫っていた。
先ずは、レベルの低いヒルダを守るのが最優先だ。
素早くエレナとヒルダに駆け寄り、二人を襲おうとしていた『つる』をぶった切った。
「セイジ様、ありがとうございます!
で、でも、アヤさんが!」
「兄ちゃーん!!」
振り向くと、アヤは……
ウツボカズラの様な袋状のものに、アヤは飲み込まれていく所だった……
「ア、アヤーーー!!」
「ギャー! と、溶ける!!!」
アヤは、袋の中でもがき苦しんでいる。
「今助けるぞ!!」
試練の刀で袋を支えている茎を切断すると、
袋が、ドサっと落ちー
ウツボカズラは、一撃で動かなくなった。
そして、落ちた袋の中からは―
どろどろに溶けた、アヤの……
ズボンが……
ズボン?
「兄ちゃん! こっち見んな!!」
「良かった、アヤ、無事だったのか!!」
俺は、思わずアヤに抱きつく。
「バカ! 抱きつくな!!」
アヤは、俺の頭をポカポカ叩いてくるが―
俺は気にせず、アヤをハグしていた。
「無事で本当に良かった」
「無事じゃない! 離して!」
「どこか怪我したのか!?」
俺が、アヤの体をくまなく見てみると……
けがなかった……
「見るなバカ!!」
俺は顔面を殴られてしまった。
アヤは、何とか体勢を立て直したものの、足から袋の中に落ちてしまい―
そして、袋の中で『へそ』の辺りまで『溶解液』に浸かってしまったらしい。
俺は、動かなくなったウツボカズラの袋から流れ出ている『溶解液』を【鑑定】してみた。
┌─<鑑定>────
│【紫ウツボカズラの溶解液】
│魔力が通う人の皮膚などは溶けないが
│衣服、毛などを溶かしてしまう溶解液
│レア度:★★★★
└─────────
衣服だけでなく『毛』まで溶かすのか、怖いな。
ん? 『へそ』から下? 毛?
このヒントから導き出される答えは……
「アヤ、ムダ毛処理の手間が省けて……
よかったな!」
「タヒね!!!」
頭にかかっていたら大変なことになっていた……
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