165.臭い水
「落とし穴? これが?」
俺達の前に、大きな穴が現れた。
「兄ちゃん、大きい穴だね」
覗き込んでみたが、暗くて奥が見えない。
「さて、どうやって降りるかな」
「ここを降りるのか?」
リルラも心配している。
「セイジ様、下が真っ暗で何も見えません。
このまま降りるのは、危険なのでは?」
「そうだな、先ずは下がどうなっているかを確かめないと……」
俺は、インベントリから取り出した適当な木の棒に、いらない布切れを巻きつけ、キャンプ用の着火剤を染み込ませた。
「ヒルダ、これに火を点けてくれないか?」
「はい!」
ヒルダが【着火】の魔法を使うと、即席松明は勢い良く燃え上がり、煌々と辺りを照らしだした。
「兄ちゃん、なんでわざわざ松明?
それに、その明かりでも下まで照らせてないよ」
「まあ、見てなって」
俺は、俺自身に付けていた【追跡用ビーコン】を、松明に付け直して、穴の中へ放り込んだ。
松明は、数十メートル落下し、ボチャンと水に落ちる音がして、火が消えてしまった。
「あ、消えちゃった」
「下は水か! 参ったな」
「でも、火が消える前に何か見えたよ」
「確認してみるか」
俺は、松明に付けていた【追跡用ビーコン】の映像を最初から再生してみた。
「セイジ! こ、これは何だ!?」
いちいち驚いてくれて、照れくさいな。
リルラだけじゃなく、ヒルダも驚いているみたいだ。
「これは、あの松明から見えた風景だよ」
「そんな魔法まで……」
水に落ちる寸前で映像を一時停止すると、下の風景が見えた。
穴の下は部屋になっていて、部屋の中は黒いドロドロした液体が満ちてしまっている。
その液体が、どれくらいの深さかは、映像からは分からなかった。
部屋の中には、黒い液体だけではなく、瓦礫のようなものも見える。
形から推測するに、元は階段だった物じゃないだろうか?
ということは―
この穴には、前は階段があって、何らかの原因で崩れてしまった状態なんじゃないだろうか?
「なんだか、下は危なそうだね」
「あの瓦礫の上に【瞬間移動】すれば、降りられるかも」
女の子を行かせる訳にはいかないし、下の瓦礫の上に大勢で乗ったら、崩れちゃいそうだしな~
先ずは、俺一人で行ってみるか。
俺は、心配そうなみんなに見送られて、
ひとり、【瞬間移動】で穴の底へ移動した。
~~~~~~~~~~
穴の下に【瞬間移動】すると、
一瞬、足元の瓦礫がガタリと揺れて、転びそうになってしまったが、なんとか転ばずに耐えることが出来た。
しかし、この匂いは何だ?
なにやら、油っぽい匂いが漂っている。
【白熱電球】で光を灯し、あたりを見回すと―
そこは広めの部屋で、部屋全体が黒い液体で床上浸水している。
ちょっと先を見てみると、出入り口が見える。
先ずは、あの出入り口を目指してみるか。
俺は、インベントリから適当な木の棒を徐ろに取り出し、黒い液体に挿してみた。
棒は直ぐに床に到達し、水の深さは20cmくらいであることが分かった。
これなら歩いて行っても大丈夫そうだ。
インベントリから『長靴』を取り出して履き替え、棒で足元を確認しながら、出入り口に向かった。
出入り口までたどり着き、部屋から出ると―
通路が続いていた。
見た限り、通路は分かれ道が何箇所かあり、部屋の入口と思われる場所も複数見える。
隠し通路が有るだけなのかと思ったら、完全にこれは『地下一階』だな。
地図を確認してみると、正体不明の敵が広範囲にわたって分布している。
ダメだこりゃ。
一旦戻って、みんなに状況を伝えるか。
~~~~~~~~~~
俺は、【瞬間移動】を使って、みんなの所へ戻ってきた。
「兄ちゃん、臭い!」
「第一声がそれかよ!!」
俺は、長靴を履き替え、【水の魔法】で長靴の汚れを洗い流してからインベントリにしまった。
「兄ちゃん、まだ臭いよ」
「仕方ないだろ、臭い水の中を歩いたんだから」
「セイジ、下はどんな様子だ?」
俺につけていた【追跡用ビーコン】の映像を流しながら、状況を説明した。
「セイジ。つまり、地下一階を攻略する必要があるということだな」
「そういう事だ」
「兄ちゃん、私、臭い水に浸かりながら歩いて行くなんて、嫌だからね!」
「お前な~」
まあ、俺としても、あの場所にエレナやヒルダを連れて行くのは、ちょっと嫌だな。
後は、普通の長靴じゃなくて、ズボンと一体化している長靴が欲しいところだ。
日本で用意してから再戦するか。
「まだ早いけど、今日はこれくらいにして、
続きは、また来週にしよう」
「来週?
明日も攻略するのではないのか?」
「水の中を進むための装備が欲しい。
あと、俺たちは、別の仕事も持っている。
毎日、冒険者をする事は出来ないんだ」
「そうか、それなら仕方ないな」
~~~~~~~~~~
『日の出の塔』を出ると、
外は、夕日が赤く染まっていた。
冒険者ギルドへ到着すると、中は冒険者達でごった返している。
受付で、魔石を売却し、
落とし穴の下に地下一階が有る事、
4階へは地下から行ける可能性がある事、
などを報告したら、えらく驚かれてしまった。
どうやら、俺たちが遭遇した魔物も、けっこうレアな魔物ばかりだったらしい。
戦利品売却と地下発見の報酬は、以下のようになった。
【大ネズミのしっぽ】3G×50
【大ネズミのしっぽ+1】10G×2
【土強化魔石】10G×2
【闇大ネズミのしっぽ】30G
【闇強化魔石+1】30G
【狐の尻尾】3G×20
【闇狐の尻尾】50G
【闇強化魔石】10G
【狐の尻尾+1】20G×2
【土強化魔石】10G×2
【雷狐の尻尾】100G
【ビリビリ魔石】10G
【氷狐の尻尾】300G
【氷狐の毛皮】500G
【冷やし魔石+1】500G
【ゴブリンの耳】3G×20
【魔法使いゴブリンの耳】30G×5
【冷やし魔石】200G×5
【ボディビルゴブリンの耳】500G
【微光の魔石+1】500G
【ホブゴブリンの耳】200G
【土強化魔石+1】50G
『地下一階の発見』1000G
合計金額は、5300Gだった。
「さて、俺たちはこれで失礼するけど、
リルラは、まだこの街に居るのか?」
「ああ、もうちょっと魔石を確保できるまで、この街に居る」
「じゃあ、また来週来るよ」
「ああ、待っている」
名残惜しそうなリルラに別れを告げ、俺達はヒルダを連れて、日本に帰国した。
日の出の塔攻略編、第一部、完?
ご感想お待ちしております。




