014.水とペーパー
トイレに案内すると、エレナは固まってしまった。
「どうした?」
「あの、使い方がよくわからなくって……」
「お、おう」
俺は、トイレの中で女の子と二人っきりになり、下に関連する話をするという、なれない作業に戸惑っていた。
しばらく説明を続けていると、エレナが俺の話を遮ってきた。
「あの……」
「な、なんだい?」
「その…… そろそろ、が、我慢が限界なので……」
「おう! ご、ごめん」
俺は急いでトイレから出た。
「ここに居るから、わからないことがあったら、なんでも聞いて」
「は、はい」
しばらくすると、中から清らかな湧き水のような……
はっ! イカン!! あー、聞こえない! 聞こえない!
俺は自分の鼓膜を破壊すべく、両耳をバシバシと叩いた。早く俺の鼓膜を破壊せねば。
俺が鼓膜の破壊を行っていると、ふと、あることに気がついた。
そういえば、鍵の掛け方を教えていない!
ということは……
今、この扉は、鍵がかかっていないのでは!?
もし、万が一、何かの拍子に、この扉が開いてしまったら……
中でエレナが……
っ!!!! あー、知らない!! 知らない!!
俺は今さっき考えたことを、記憶から消去すべく、壁に頭をガンガンぶつけていた。
「あ、あの……」
俺が鼓膜の破壊と記憶の消去に失敗し、乱れた呼吸を整えていると、中からエレナが声をかけてきた。
「ど、どうした?」
「な、なにか、拭くものはありませんか?」
「ふ、拭くもの!?」
しまった、そういえばペーパーの使い方も説明していない!
「よ、横に、巻いた紙があるだろ?」
「あ、はい、あります」
「それを取り出して、折りたたんで使って」
「こ、これをですか? わ、わかりました」
カランカランと音がして、どうやら使い方を理解できたようだ。
「拭いたのをどうしたらいいんですか?」
「水の中に捨てちゃって」
「捨てちゃうんですか!? わかりました」
しばらくして、ガチャっと音がして、エレナが出てきた。
「お手数おかけしました」
あれ? 何かおかしい。いったい何が、心に引っかかっているのだろうか?
ピコン!
そうだ! 水を流す音がしなかった! つ、つまり、まだ、流していない!!
「エレナ、待って!」
「は、はい、なんですか?」
「あそこに金属のレバーがあるでしょ? アレをクイッとひねって来て」
「あ、はい、分かりました」
ザバー
やっと、トイレ終わりに必ず聞く音が聞こえて、安心していると。
「きゃー! み、水がー!」
エレナは急に水が流れ始めて、びっくりしている。
「大丈夫、水で洗い流してるだけだから」
「あ、水が治まってきました」
「ね」
「ビックリしました」
本日最大のピンチを乗り越えた俺は、エレナを洗面所に案内した。
「ここで手を洗えるよ」
俺が蛇口をひねって水をだすと、エレナはまた驚いていた。
「ついでに【ハンドソープ】も使ってみる?」
「【はんどそーぷ】ですか?」
俺はエレナの手を【ハンドソープ】のポンプの下に持って行き、ポンプを押し下げた。
「きゃっ! 何か白いのがピュッって出ました」
何故そのような言い方をするのか! まあいい。
「それをゴシゴシしたら、泡立って手がキレイになるよ」
「はい、やってみます」
ゴシゴシ、アワアワ
「凄いです! アワアワです!!」
エレナは、小さい子供のように目を輝かせて喜んでいる。
「ほら、いつまでも遊んでないで洗い流して」
「あ、はい」
泡を洗い流したエレナに、タオルを手渡した。
「はい、これで拭いて」
「ありがとうございます。この布も、フカフカですね」
手を洗い終わったエレナは、何故か自分の手をうっとりと眺めていた。
「手がすべすべになっちゃいました。すごいです!」
手を洗ったくらいで、こんなにはしゃいでいては、この先が思いやられる。とか思いつつ、何故か俺の心の中は、ホッコリしていた。
なんだか、異世界物とどんどん離れていっている気がする・・
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