156.リルラのディナー
俺達は、リルラに会いにイケブの街の高級宿やにやって来た。
リルラは、まだここを拠点にしているのか。
見張りの兵士にも顔パスで通してもらい、
リルラの部屋にやって来た。
「セ、セイジ! よく来た。
エレナ様と、アヤも。
と、もう一人?
ど、奴隷ではないか!」
「ああ、この子は、ヒルダだ」
俺が、ヒルダの頭をナデナデしながら紹介すると、
リルラは、急に不機嫌になって、怒鳴りだした。
「この部屋に奴隷を入れるとは何事だ!
外に出せ!」
奴隷は、ここまで冷遇されているのか。
まあいいか。
「じゃあ、帰るよ」
そう言って、部屋を出ようとすると―
「え!? ま、待て!」
「ん? ヒルダだけのけ者にするのは可哀想だろ?
俺は別にリルラに用事があったわけでもないし」
「そ、そんな……」
リルラは涙目になっていた。
「どうしたリルラ!
なぜ泣く?」
「泣いてなどいない!」
「で? ヒルダはいていいのか?」
「セ、セイジがそこまで言うなら、
い、いてもいい……」
当のヒルダは、物凄く気まずそうな顔をしていた。
ごめんな、ヒルダ。
「それで、ライルゲバルトから何か困っていることがあると聞いて来たんだが、何かあったのか?」
「えーとな、端的に言って、魔石が不足している」
「魔石不足は、戦争が原因か?」
「ああ、
この街の、前の当主であるブランフォードが、
戦争の準備のために魔石を大量に売って資金を調達していたんだが、
街を防衛するために使用する魔石まで売ってしまっていたらしく、足りなくなってしまっているんだ」
「魔石は、鉱山やダンジョンで取れるんだろ?」
「鉱山で取れる魔石は、何とかなるが、
ダンジョンでしか取れない魔石が、まったく足りていない。
この街では、いま、ダンジョンに魔石を取りに行く冒険者を探している所なんだ」
「ダンジョンって、『日の出の塔』だっけ?」
「ああ、そうだ」
「明日にでも行ってみるよ。
エレナ、アヤ、ヒルダもいいよな?」
「はい」「いいよ」「お供いたします」
「そ、そうか、行ってくれるか」
「じゃあ、今日はもう遅いし、
アリアさんの所に泊めてもらうかな」
「ん!? アリアとは誰だ!?」
「えーと、教会のシスターさんだが?」
「イカン!」
「俺達が、どこに泊まろうが勝手だろ?」
「ここに泊まっていけばいいではないか!」
「この宿屋に、ヒルダも泊まっていいのか?」
「くっ!
……い、いいに、決まってるだろ」
さっきは、部屋に入れるのも嫌がっていたのに、
どういう風の吹き回しだ?
「そうか、それならここに泊まっていくか」
~~~~~~~~~~
ちょうど夕飯時になったので、
皆で一緒にディナーを食べようとしていたのだが……
「なんで、ヒルダだけ別の部屋なんだ?」
「え? だってあの子は奴隷なのだろ?」
そういう扱いなのか……
「やっぱり、アリアさんの所へ行けばよかったかな~」
俺が、何気なくそうつぶやくと―
「え! ちょっと待って!」
リルラが、すごい勢いで、ヒルダの席を用意してくれた。
リルラってこんなに世話好きだったかな?
ディナーが終わって、各自部屋を割り振られた。
部屋割りは、アヤとヒルダが同室で、
それ以外は、それぞれ1部屋ずつとなった。
まあ、別に、奴隷少女とイチャイチャしようなんて、
ぜんぜん思っていないので、大丈夫ですよ?
俺は、ちょっと気になる事があって、アヤとヒルダの部屋を訪ねた。
「邪魔するよ」
アヤは、ヒルダを絨毯の上に座らせて、髪をとかしてあげていた。
「兄ちゃん、どうしたの? 夜這い?」
「何処の世界に妹を夜這いする兄が居るんだよ」
「じゃあ、何しに来たの?」
アヤの中で俺はどういう扱いになっているんだ?
まあいいけど。
「ヒルダ、さっきあんまり食べてなかっただろう?
あれじゃあ、お腹が減ってるんじゃないか?」
「あの、その、緊張してしまって……」
「まあ、ああいう雰囲気だと緊張しちゃうよね」
アヤは、ヒルダの頭をナデナデしていた。
「す、すいません」
「謝ることはないぞ、俺もアヤも平民みたいなものだし、ヒルダと同じだよ」
「え!? 勇者様なのに平民なのですか?」
「ヒルダ、俺は勇者じゃないよ」
「す、すいません」
ヒルダは謝ってばかりだな。
「と言うわけで、カップ麺でも食おう」
「お、いいね~」
「『かっぷめん』ですか?」
エレナも呼んできて、4人でカップ麺パーティーを開催した。
俺はインベントリから、色とりどりのカップ麺とヤカンを取り出し。
ヤカンに【水の魔法】で水を入れ、【電熱線】魔法でお湯を沸かした。
「そ、それは、火の魔法ですか?」
「違うよ、これは雷の魔法だ」
「か、雷!?」
ヒルダは仲間だし、俺達の秘密も教えていかないとな。
それぞれに食べたいカップ麺を選び、お湯を注いでいった。
ヒルダは、どれがどれだか良くわからないようだったが、一番小さいのを選んだ。
ヒルダ、その一番小さい奴は、全世界で一番売れている有名商品だぞ。ちなみに俺も大好きだ。
3分待って、俺とアヤとエレナは箸を、ヒルダにはフォークを渡して4人で仲良く食べた。
「お、おいひいです!!」
そうだろう、そうだろう。
なにせ全世界で一番売れてるカップ麺だしな。
4人で仲良くカップ麺を食べていると、リルラが訪ねて来た。
「アヤ、居るか? セイジが部屋にいないようなのだが、何処に行ったか知らないか?」
「兄ちゃんならここにいるよ」
「な、なに!?」
リルラが勢い良く扉を開けて入ってきた。
「よう、リルラ、どうした? 何かようか?」
リルラは、何故かネグリジェ姿だった。
そんな格好で、なにしに来たんだ?
「セ、セイジ、こんな所で何をしているんだ?」
「いやあ、ちょっと小腹がすいてしまってな」
「もしかして、料理が口に合わなかったのか?」
「そういうわけじゃ無いんだが、俺達は冒険者だから、ああいうディナーより、もっと冒険者らしい食事のほうが、落ち着くんだよ」
「そうか、冒険者か……」
リルラは、何やら考えこんでしまった。
ほんと、なにしに来たんだよ?
とうとう、ダンジョン編突入か!?
ご感想お待ちしております。




