135.金銀 ☆
その後、コスプレ大会はつつがなく終了し、
打ち上げのために、みんなでケーキ屋さんに来ていた。
「ごめんなさい!!」
分厚いメガネの子が、畏まって頭を下げている。
この子が誰かというと―
『りんごさん』なのだ。
まさか、会場入りの行列で前に並んでいた分厚いメガネの子が、りんごさんだったとは……
「私のせいで、皆さんに迷惑を掛けてしまって、
なんとお詫びしたらいいか……」
りんごさんは、鼻ピアス男の事で、責任を感じてしまっているらしく、何度も頭を下げている。
「りんごちゃんのせいじゃ無いよ!
あのストーカーのせいじゃん」
アヤが一所懸命、りんごさんを慰めているが、
りんごさんは、謝りっぱなしだ。
エレナと舞衣さんも、りんごさんを慰めようとしているのだが……
百合恵さんが、コスプレ大会が終わっても、ずっとテンションが下がらず、
エレナと舞衣さんを左右にはべらせ、肩を抱いて離さないので、二人共、動けないでいるのだ。
ここは、俺が話題を変えて、この雰囲気を変えないと……
「そういえば、りんごさんは、アクセサリのデザインをしたいって言ってたよね」
「え!? りんごちゃん、アクセサリ作るの!?」
「私も、アクセサリ作って欲しい」
アヤと百合恵さんが食いついてきた。
「私が出来るのは、デザインだけです」
「どんなデザイン?」
「スケッチブックに描いたのなら持ってきてますけど、見ます?」
「見る見る!」
りんごさんの出してきたスケッチブックには、色々なアクセサリのデザインが描かれていた。
女の子たちは、アクセサリの話で大盛り上がりしている。
うーむ、こういう話題だと、話に入っていけないな……
りんごさんも元気が出てきたみたいだし、まあいいか。
女の子たちに話に入れない俺は、暇だった。
そういえば、ストーカーの鼻ピアス男はどうしているんだろう?
追跡用ビーコンを付けて置いたから、様子でも見てみるか。
鼻ピアス男は、汚いアパートの部屋にいた。
そして、何やら怪しげな器具を取り出し―
なんと!
自分の腕に、自分で注射をし始めた。
あー、きっとインスリン注射かな?
この若さで、糖尿病とは、可哀想に~
まあ、ぜったい違うだろうけど!!
絶対、ヤバイ薬物だろう。
注射してる薬物のパッケージに、インスリンとか書いてないし!!
俺が、あまりのヤバさに頭を抱えていると―
「兄ちゃん、決まったよ!」
アヤがいきなり言い出した。
「ん? 何が決まったって?」
「兄ちゃんに作ってもらうアクセサリだよ!」
どうやら、俺がよそ見をしている間に、
りんごさんのデザインを一人1つずつ選んで、俺に作らせる話になっていたようだ。
勝手に決めんなし!
アヤは、かっこよさげなブローチ、
エレナは、綺麗な感じの髪飾り、
舞衣さんは、可愛い感じの髪飾り、
百合恵さんは、アダルティーなネックレス、
りんごさんは、シンプルな感じのブローチだった。
俺は、デザイン画をスマフォで撮影し、
アヤが、りんごさんと連絡をとりあう約束をしていた。
~~~~~~~~~~
そんなこんなで、波乱万丈のコスプレ大会がやっと終わり、俺達は家に帰ってきた。
「兄ちゃん、ちゃんとアクセサリ作れるの?」
「加工はなんとかなりそうだけど、元の素材をどうやって調達するかだよな」
「私、プラチナがいい!」
「アヤ、プラチナがいくらするか知ってるのか?」
「しらな~い」
ネットでプラチナの価格を調べてみたのだが―
1グラム辺り4千円以上していた。
「高!」
「兄ちゃんなら、なんとかしてくれるはず!」
「なんとか出来るか!」
「しゃーないなー、じゃあ銀で許してあげる」
「ありがとうございます」
あれ? なんで俺がお礼を言っているんだ?
「セイジ様、銀なら10ゴールド銀貨が使えませんか?」
「銀貨なら使えそうだけど、ドレアドス王国の法律では、お金を傷つけたりしても大丈夫なの?」
「特にそのような法律は無いです」
「それじゃあ、平気か」
俺は、インベントリから10ゴールド銀貨を一枚出して、じっくり観察してみた。
「うーむ、この銀貨って、あまり品質のいい銀じゃ無さそうだな」
「そうですね、日本の製品の品質と比べると、あまりいいとは言えないかもしれませんね」
確か、質の悪い銀は、不純物が混ざったりしているんだよな。
魔法で不純物を取り除いたり出来ないのかな?
俺は、銀貨を握りしめ、【土の魔法】で色々やってみた。
結果は―
ダメでした。
形を変えることは出来ても、品質を変える事は出来なかった。
うーむ、他にいい方法は無いかな~
ピコン!
久しぶりに、俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
土の魔法でダメなら、雷の魔法を使えばいいじゃないか!
「【電気分解】!」
俺は、10ゴールド銀貨に、【電気分解】を掛けた。
すると、200g程の銀貨は―
50gの錫の粉末、50gの銅の粉末、
そして、100gの純銀の粉末に分解された。
50%しか銀が入っていないじゃん!!
100gの純銀の粉末を、土の魔法で固めると、
美しく輝く純銀の塊が出来た。
「うわー綺麗、さっきとは比べ物にならない」
「すごいです! まるで鏡みたいです」
調子に乗った俺は、100ゴールド金貨でもやってみたのだが―
こちらも100gの純金が出来てしまった。
不純物は、50gの銀と、50gの銅だった。
純金の相場を調べてみたら、プラチナと同じくらいの値段だった……
たった100gの純金で、
45万円位になるそうです……
ヤバイ、ヤバ過ぎるーーーー!!
【電気分解】は、22話で登場して、やっと日の目を見ました。
ご感想お待ちしております。




