126.雷精霊
「魔王、お前の『とっておき』は、こんなものか?」
「俺の【雷】を、『こんなもの』だと!?」
「ああ、その程度の魔法は、俺にも出来るぞ」
「バ、バカな。
【雷の魔法】は、俺だけが使える魔法だぞ!」
「それが、そうでもないんだよね~」
俺は、うずくまる魔王の側に―
魔王よりぶっとい、【雷】を落としてみせた。
「ひい!」
あの魔王が、悲鳴をあげてる。プークスクス
俺は、面白くなって、雷を何度も落としてやった。
「ひいぃ!」
魔王は、腰を抜かしてしまった。
「お、俺だけの魔法が……」
「雷の魔法の使用者が1人だけだったのは、数カ月前までの話だ。
今では、俺とお前を含めて4人ほど使える奴が居る」
「う、嘘だ!
この魔法は、選ばれし者だけが使える、王者の証……
そして、俺は、この魔法を極めたからこそ、魔王として……」
「そんな風に思ってたのか……
てか、君さー、【落雷】が使える程度で、雷の魔法を極めた気になってたの?」
「え!?」
「だって、君が出来るのは、【落雷】だけで、
その次の魔法は、使えないだろ?」
「つ、次が、あるのか!?」
「よーし、お兄さんが特別に見せてあげよう」
俺は、もっともらしく、ポーズをとったりしてから―
奴を呼び出した。
「【雷精霊召喚】!!」
「じゃーん! あたし、参上!!」
「な、なんだこれは!?」
「君が魔王君だね、ずっと会いたかったんだけど、
君ってば、いつまでたっても上達しなくて、
ヤキモキしてたんだぞ!」
「これは何なのだ!!」
「こいつは、雷の精霊だよ」
「精霊だと!?」
「魔王君」
「は、はい」
なんで、この雷精霊は偉そうなんだ?
魔王も、なんか、かしこまっちゃってるし。
「君って、【落雷】ばかり練習して、
雷を他に使うことを、全然やってないでしょ」
「え!? しかし、雷の魔法なのだから、
【落雷】の練習をするのは、当たり前では?」
「わかってないな~ セイジ、この魔王君に君の魔法を見せてやってくれよ」
「えーなんで、そんな事しなくちゃいけないんだよ」
「たった4人しかいない【雷の魔法】の使い手の一人として、仲間意識というものは無いのかい?」
「しゃーねーなー」
俺は魔王に、【白熱電球】魔法を使ってみせた。
「これは、光の魔法!?」
「違う、これも雷の魔法だ」
「いや、しかし……」
「セイジ、説明してやりな」
「めんどくせーなー。
つまりだ、雷が落ちるときに、ピカっと光るだろ?
雷には、もともと光を発する力が備わっているんだ。
今のは、その光を取り出した魔法だ」
「……」
魔王は、考えこんでしまった。
「セイジ、あれもやってみせな、
ほら、温かくなるやつ」
「【電熱線】魔法か」
俺は、近くに落ちていた木を拾って、
【電熱線】魔法で、木の発火点まで熱してやると―
木は勢い良く燃え始めた。
「火の魔法…… では、無いのか?」
「違う、これも、【雷の魔法】だ。
雷が木に落ちれば、木は燃え上がるだろ?
つまり、雷には物を燃やす力もあるということだ」
「俺は……
雷のことを、何もわかっていなかったのか……」
「そういうことだ」
「魔王君、これからは、ちゃんと【落雷】以外の魔法も練習するんだぞ、わかった?」
「精霊様、わかりました」
「うむ、あたしは、これで帰ることにするが、
次は君が、あたしを召喚してくれよな。
では、さらばだ」
雷精霊は偉そうな態度のまま、帰っていった。
魔王は、改まって俺に向き直り―
「俺の負けだ」
負けを認めやがった。
あっさりだな。
「くやしいが、
負けたからには、俺は、お前の部下だ」
「いらん」
「は!?」
「魔王を部下にするなんて、イメージ悪すぎる。
それに、俺は部下なんて要らないよ」
「では、どうしろというのだ」
「そうだな~
それじゃあ、俺から3つの命令を出す」
「わかった、何でも言え」
「1.人族となるべく仲良くしろ」
「なるべくでいいのか?」
「ああ、なるべくでいい。
余りにも我慢できないことがあれば、我慢してまで仲良くする必要はない」
「わかった」
「2.俺が魔族の街に遊びに行ったら、歓迎しろ」
「遊びに来るのか?」
「その刀、いい刀だから、似たようなものがあれば手に入れたいし。魔族の街も見てみたいしな」
「わかった、部下にも伝えておく」
「3.魔王を名乗るな」
「な、なんだと!?
わかった、では、
セイジ、お前が魔王を名乗れ」
「いやだよ! なんで俺が魔王なんだよ!」
「では、どうしろというのだ」
「人族と会話する時、『魔王』とは言わずに『魔族の王』と名乗るべきだ。
『魔王』ではイメージが悪い。
それが行き違いの原因になってる可能性がある」
「人族と会話する時だけ、でいいのか?」
「ああ、自国では何と名乗っても構わん」
「わかった、すべての条件を飲もう。
しかし、なぜお前は、人族と魔族を仲良くさせようとする。
お前ほどの実力があれば、魔族を滅ぼすことだって出来るだろう」
「魔族を滅ぼして、その後どうする?」
「その後とは?」
「今回のゴブリンキングの様な敵が襲ってきて、その時俺が居なかったら、
人族だけでは負けてしまうだろう」
「つまり、俺達魔族に人族の盾になれということか?」
「違う。そもそも、人族と魔族が共に戦ったからこそ、ゴブリンキングに勝てたのだろう?」
「そんな事はない、魔族だけでも勝てたはずだ!」
「知らないだろうが、ゴブリン側には、ゴブリンキング以外に、ゴブリンプリンスが4匹居たんだ。
キング1匹、プリンス4匹、ジェネラル100匹以上、普通のゴブリンを合わせると、合計で2万匹以上だ。
それでも勝てたか?」
「それは……」
「自分の力に溺れて、敵ばかり作っていたら、
いつかは勝てない相手が現れる、
たとえ勝てる相手でも、そいつらが敵同士で手を組んだら、それで勝てなくなる可能性もある。
ある程度、話が出来る相手なら、対話の道を自ら閉ざしては駄目だ」
「そうか、そうだな……
わかった、
なるべく人族と仲良くしよう」
「よし、では握手だ」
俺と『魔王』改め『魔族の王』は、
しっかりと握手を躱した。
~~~~~~~~~~
「ってかさー、魔族王、
雷のマナ結晶に参拝したことがあるの?」
「実は、子供の頃に、王都に住んでた」
「魔族なのに?」
「魔族も、子供の頃は角が生えていなくて、人族と見分けがつかないんだ」
「だとしても、なんで魔族が人族の街に?」
「しらんが、おそらく親と生き別れたんだろう。
物心ついた時は、王都で路上生活を送っていた」
「それでドレアドス共通語が話せるのか。
あれ? でも、マナ結晶に参拝するのには、雷のマナ結晶でも10ゴールドかかるはずだろ?
なんでわざわざ雷のマナ結晶に参拝したんだ?」
「しらんのか? 王都では、年に一度、マナ結晶の開放日というものがあって、その年に10歳になる子供は、その日だけ、タダで参拝できるんだ」
「なるほど、それで、マナ結晶に参拝して、雷の魔法を習得したのか」
「ああ、そのとおりだ。
雷の魔法を習得し、俺は浮かれていた。
そして、俺が雷の魔法を習得したのを聞きつけてきた魔法研究者と名乗る男が、鑑定士を連れてやってきて、【鑑定】させろと言ってきた」
「鑑定?
魔族なんだから、鑑定されるとまずいんじゃ?」
「その頃俺は、自分が魔族だとは知らなかった。
浮かれていた俺は、【鑑定】を了承してしまった」
「あちゃー」
「当然、俺が魔族であることが判明し、
俺は、追われる身となり、
なんとか人族の国から逃げ出して、
魔族の国に辿り着いた、という訳だ」
魔族王が【鑑定】を嫌うのは、この時の事がトラウマになっているからなのか。
やっと、戦争編解決か?
ご感想お待ちしております。




