105.伝説の鉄壁
ゴブリンプリンスだ!
他のゴブリン達が全滅してから登場とか、頭おかしいんじゃないのか?
大きさは昨日のプリンスよりも、更にデカくて筋肉のつきも良く、代わりに頭が悪そうだった。
ドスンドスンと、地響きを立ててゆっくり近づいてくるゴブリンプリンス。
これはもう、一軒家が迫ってくる様な感じだ。
兵士と冒険者達が浮足立つ。
全員腰が引けてしまっていて、少しずつ後ずさりしてしまっている。
リルラは、クルッと振り返り。細剣を高々と掲げて、叫んだ!
「全員、退却!!」
兵士と冒険者達は、待ってましたとばかりに、わき目もふらずに退却し始めた。
まあ、仕方ないか。ここまでよく頑張った、後は俺達で……
しかし、退却を指示したリルラは、足をガクガクブルブルさせながら、その場にとどまっていた。
足がすくんで逃げられないのかと、思いきや。
リルラは、プリンスの方を向き直り。盾と細剣を構え直した。
まったく、足が震えているくせに、よくやるぜ。
俺とエレナは、リルラに続いて武器を構えた。
プリンスに【スロウ】を掛け、俺達3人に【クイック】をかけ直したところで。
プリンスの持つ斧が、リルラに向かって振り下ろされた。
【バリア】を貼って威力を殺したが、リルラの構える盾に斧がヒットした時、リルラの体の全体から、軋むような、嫌な音がした。
激しい苦痛に、顔を歪ませるリルラ。
エレナは即座に、リルラの傷と体力を【回復魔法】で回復させる。
プリンスの斧とリルラの盾が、激突する音を聞いた何人かの兵士が、何事かと振り返る。
そして、それを目撃した兵士が、一人また一人と立ち止まり、その場に立ち尽くした。
幾度と無く繰り出される斧と、それを受け止めるリルラの盾。そして、即座にダメージを回復させるエレナ。
俺は、その隙にプリンスの後ろに回り込み、背中をメッタ斬りにした。
その場所は、プリンスの体がじゃまになって、兵士や冒険者たちからは見えていない場所だ。
俺に背中をメッタ斬りにされているせいで、プリンスの攻撃は弱くなっていった。
徐々に【バリア】なしでもリルラが攻撃を受け止められるほどになってきた。
背中を攻撃されて怒り狂うプリンスは、ついにブチ切れて。俺を攻撃しようと、体ごと振り返る。
しかしそこに俺は、もういない。動作が遅すぎるのだよ。
無防備に振り返ったことで、リルラに背中を晒すことになってしまったプリンス。
ここぞとばかりに繰り出した、リルラの連続攻撃が、プリンスの背中に何度も突き刺さる。
プリンスは、たまらず、リルラの攻撃に吹き飛ばされるように、ぶっ倒れた。
プリンスのぶっ倒れる音は、まるでビルが崩れ落ちるような、すさまじい音だった。
「「うおぉー!!」」
後ろから湧き上がる歓声に、何事かと振り返ってみると。
50歩ほど離れた位置に兵士たちが立ち止まっていて、リルラに向かって歓声を上げていた。
冒険者達は、更に離れた100歩ほどの位置でこちらを見ていた。
リルラは、肩で息をしていた。
そして、俺に向かってにっこり微笑んだが。
俺がまだ、プリンスの方を向いて武器を構えているのを見て。リルラもプリンスを睨みつけた。
「グウォーーー!!!」
ぶっ倒れていたプリンスは、雄叫びを上げて立ち上がり。怒りに狂った目でリルラを睨みつけてきた。
リルラも負けじとプリンスを睨み返す。
「グオー!!」
プリンスは再び雄叫びを上げると、斧を持つ手に力を込め、斧が怪しい光を放ち始めた。
何か技を仕掛けてくるつもりか!?
【警戒】魔法が『危険』を知らせている。これはまずい。
俺が、プリンスに向かってダッシュすると、リルラも追いかけるように俺に続いた。
しかし、それを狙いすましたかのように、近づくリルラに向けて、プリンスの怪しく光る斧が振り下ろされた。
俺は、とっさに【電撃拳】を放ち、プリンスの攻撃を止めようとしたが。
斧が慣性の法則に基づき、そのままリルラに向かう。
【バリア】も張ったが、それも突き破り―
リルラが構えるミスリルの盾に激突し、ものすごい衝撃音があたりに響いた。
リルラは膝をついたが、しかしリルラの盾は、プリンスの斧をしっかりと受け止めていた。
よく見ると、リルラの盾も何やら光りに包まれている。なにかしらの盾スキルを使用したのだろう。
それでもリルラの体は受け止めた衝撃で、あちこちから血が流れ出ていて。体力が大きく削られているのは、誰の目にも明らかだった。
エレナは急いでリルラの体力を回復させていた。
プリンスは、やっと【電撃拳】のしびれから立ち直り、追撃を仕掛けようとしたのだが。
体力の限界からか、足が前に出ず。
プリンスもまた、膝をついてしまった。
そこへ、エレナに体力を回復してもらったリルラが、すっくと立ち上がり。
立ち上がれずにただ睨みつけているだけのプリンスに向かって、リルラは細剣を構え、力を込める。
リルラの細剣が、薄っすらと光をまとい。
次の瞬間!
プリンスの額に、リルラの細剣が、深く突き刺さった。
プリンスは、そのままゆっくりと仰向けに倒れ、完全に動かなくなった。
「「うおぉぉーー!!!」」
遠巻きに見ていた兵士たちから、大歓声が上がり。
大挙してリルラの元へ駆け寄ってくる。
リルラは、集まってきた兵士たちに。
「撤収!」
と、叫ぶと。
そのまま、前のめりに倒れて、意識を失ってしまった。
俺がとっさに抱えたので、地面との激突は避けられたが。
ダメージと回復を何度も繰り返し、精神的にもかなり限界に来ていたのだろう。
ちょっと無理をさせすぎてしまった……
俺がリルラをお姫様抱っこで抱えると、兵士たちがザッと道を開いてくれて。
リルラを抱えた俺は、その間を街へ向かって歩いた。
俺達が街に入ると、街の人々が道の両側に並び、意識を失っているリルラと、兵士や冒険者達に、惜しみない拍手を捧げた。
その後リルラは、ゴブリンプリンスの軍勢に襲われたイケブの街を、たった150人で守りぬいた英雄として、長く語り継がれることになったという。
リルラはこれから、どうなってしまうのか。
ご感想お待ちしております。




