008.姫のウォークインクローゼット
今の俺が【瞬間移動】を使って移動できる場所は、2箇所しか無い。日本への移動は1日1回の制限が有るので、明日にならないとダメだ。残るのはこちらの世界で行ったことのある、『謁見の間』と『エレナ姫の部屋』だけだ。
流石に姫を誘拐している状態で、『謁見の間』に行くわけにもいかないので、『エレナ姫の部屋』へ飛んできたのだ。
「あれ? ここは、私の部屋」
「君は僕に誘拐されちゃうから、着替えとかあった方がいいかと思って」
「凄い魔法ですね、こんな魔法聞いたことがありません。あ、着替えですね、少々お待ちください」
「今の格好だと目立つから、地味目の服があるといいんだけど」
「はい、分かりました」
俺はエレナ姫が準備をしている間に、部屋にバリアを掛けておいた。取り敢えず、だれも入ってこないように【物理バリア】と、部屋の中の音が外に聞こえないように【音バリア】を掛けておいた。
バリアを貼り終えて振り向くとー
「きゃっ!」
エレナ姫様は、着替え中だった。
「ご、ごめん」
俺は、姫様を見守りたい気持ちをぐっと抑えて、後ろを向いた。
「い、いえ、もう少々お待ちください」
「あ、はい」
後ろから、なまめかしい着替えの音が聞こえて来て、『振り向け』と悪魔が囁いたが、変に緊張してしまって身動きが取れなかった。
「すいません、終わりました。もう、こちらをお向きになっても大丈夫です」
「ああ、終わっちゃいましたか」
エレナ姫は、あまりお姫様に見えない感じの服を着ていた、これで大丈夫だろう。
「今着ている以外に、着替え用の服はある?」
「目立たない服は、これくらいしか持っていなくて」
「うーむ、取り敢えず着替えは、エレナが持ってる服を全部持って行くか」
「えっ? 全部ですか? ムリです、とてもカバンに入りきれません」
「まあ、俺に任せなって」
姫様に案内されて、ウォークインクローゼットに踏み入れると、とんでも無い量の服が飾られていた。
「凄い量だな」
申し訳無さそうにしているエレナ姫を尻目に、大量の服を、どんどんインベントリに放り込んでいった。
「ふ、服が、どんどん消えていきます。これは、魔法なのですか?」
「ああ、後で自由に取り出せるから安心していいよ」
「す、すごいです!」
エレナ姫の感嘆の声に、変な興奮を抱きつつ、俺は全ての服をインベントリにしまい終えた。
「ホントに、全部入っちゃいました」
「あと他に、持っていく物は?」
「本を持って行ってもいいですか?」
「ああ」
本棚に行ってみると、こっちも結構な量があった。
段々手馴れてきて本は直ぐに仕舞うことが出来た。
もうちまちまやるのが面倒になってきて、俺は部屋の物を片っ端から、インベントリに放り込むことにした。
「ふー、取り敢えず部屋にあるものは、全部しまえたかな?」
「ベッドまで入ってしまうのですね、凄すぎます」
部屋は、もぬけの殻になっていた。
「さて、持ち物もまとめられたし、後は何処に逃げるかだな」
「私は、セイジ様のお住まいに行ってみたいです」
「ごめん、異世界への移動は1日1回しか使えないから、俺の部屋に行くには、明日にならないとダメなんだ」
「そうなんですか、そうしましたら、まずは宿屋に泊まらないと行けませんね」
「そうか、じゃあ、まずは街に行かないとな」
「でも、お城から出れるでしょうか?」
「大丈夫大丈夫。城の外が見える場所って、どこかある?」
「はい、こちらの窓から、城下町が見渡せます」
俺は、エレナ姫に案内された窓から、外を眺めた。
城下町は、大きな通りが十字に交差していて、中央には噴水のある大きな広場があった。
「取り敢えず、あの広場でいいか。エレナ、お手を」
「は、はい」
俺はエレナの手を取り、噴水広場に向かって【瞬間移動】を実行した。
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