007.囚われの姫君
エレナ姫は……
牢屋に入れられて、しくしく泣いていた……
どうしてこうなった!?
さっきまで何ともなかったのに、ちょっと目を離した間に、いったい何が起こったのか?
俺は、ちょっと防御力が高そうなGジャンとGパンに身を包み、玄関でちゃんとスニーカーを履いて、覚悟を決めてから【瞬間移動】を使った。
「しくしく……」
「姫様、こんにちは」
「!?」
牢屋の中央でしゃがみこんで泣いていたエレナ姫は―
俺の声に驚いて振り返った。
姫が振り返ると、瞳に溜まった涙がパラっと舞い散った。
「ゆ、勇者様!」
「セイジだろ」
「そうでした!セイジ様! 帰ったのではなかったのですか?」
「帰ったんだけど、君のピンチを感じて戻って来たんだ」
「セイジ様!」
エレナ姫は、俺に駆け寄り抱きついてきた。
思わず俺も、エレナを抱きしめようとしたのだが―
流石にこれはマズイと思い直して、我慢した。
「エレナ、これは一体どういう訳なんだ?」
「それは、お、お父様が……」
エレナは一所懸命話そうとしているが、えぐえぐしてしまって上手く言葉に出来ないでいた。
俺は右手をギュッと握って力を込め、エレナの目の前に差し出し、パッと手を開くと同時にインベントリから【ハンカチ】を取り出した。
『今は、これが精一杯』と名台詞を心のなかだけでつぶやきつつ、エレナにハンカチを渡した。ちなみに万国旗なんか持っていないので無しだ。
「あ、ありがとうございます」
エレナは俺から受け取ったハンカチで涙を拭くと、やっと落ち着いたのか、ニッコリ微笑んでくれた。
「落ち着いたかい?」
「はい、セイジ様ありがとうございます」
「では、何があったか話してくれるかい?」
「はい、私は、城のいろいろな人から【魔王】について聞いて回りました。新しい話は全然聞けなかったのですが、諦めて部屋に戻ってくると、お父様が何人もの兵士を連れてやって来たんです」
やはり王様か。
「私はお父様に、村が滅ぼされた件は【魔王軍】の仕業じゃないかもしれないと話をしたんです。そしたらお父様は、急に怒りだして、私を牢屋に閉じ込めろと、兵士たちに命じて……」
「それで牢屋に閉じ込められてたのか」
「はい」
なんて奴だ、実の娘だろうに!
「それでお父様は、【魔王軍】との戦争が終わるまで、お前をここから出す訳にはいかないって」
「それは、ひどいな」
「私はもう、どうしたらいいのか分からなくって」
「そうだ、俺が君を誘拐しちゃおう!」
「セイジ様が私を、誘拐しちゃうんですか?」
「うん、囚われの姫君を助けだすのは、勇者の役目だしね!」
「でも、お父様が……」
「気にしない気にしない。あ、そうだ、『姫を誘拐しました』って犯行声明を残しておこう」
俺は、インベントリにしまっておいた下敷き、メモ帳、ボールペンを取り出し、犯行声明を書こうとして、手が止まってしまった。
「考えてみたら、俺、この国の字を知らないや」
ピコン!
俺の頭の上に、また電球が点灯した!
そういえば、【情報魔法】に【言語習得】ってあったな。確か、沢山MPを消費すれば、習得の度合いが変化するって、説明文に書いてあったし、あれで字も書けるようになるのでは?
俺は、早速【言語習得】を試してみた。
┌─<言語習得>─
│【ドレアドス共通語】を習得します
│ 習得レベルを選択して下さい
│
│・レベル1(消費MP:50)
│ 片言で話が出来る
│
│・レベル2(消費MP:100)
│ 日常会話程度は話ができる
│
│・レベル3(消費MP:200)
│ スラスラと会話ができ
│ 簡単な文字のみ読める
│
│・レベル4(消費MP:500)
│ スラスラと会話ができ
│ 日常使う文字が読み書き出来る
│
│・レベル5(消費MP:1000)
│ 全ての言葉を使って会話ができ
│ 全ての文字が読み書きできる
└─────────
レベル4か5の二択だが、どっちにしよう。レベル5だとMPは1000も使うのか、まあ、今はMPがちょっとしか減ってなくて2000くらい残っているから、使っちゃってもいいか。
俺は、MPを1000消費して、レベル5【ドレアドス共通語】を習得した。
┏━━━━━━━━━━
┃王様へ
┃
┃ エレナ姫は誘拐させてもらいました
┃ 追ってくれば命の保証はありません
┃ もちろん、あなたの命の保証です
┃ では、ごきげんよう
┃
┃ 勇者より
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俺は犯行声明文を書いて、牢屋の壁にセロテープで貼り付け、エレナ姫の手を取って【瞬間移動】を実行し、牢屋から脱出した。
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