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六話 ~交渉~

どうぞ。

 魔琴は目の前で気絶している少女――永琳を治すべくその右手を永琳の頭へ当てた。


「あー、この場合は何が良いか」

「『なおす力』、とか」

「おお、それな。んじゃ早速」


 魔琴は自身の右手に光が溢れるイメージを固める。

 その光は癒しの光、どのようなモノもたちまちナオス神の御業。


「力を操る程度の能力」


 ――なおす力。


 霊力と神力、魔琴の右手から発せられる神聖な光が永琳を包み込む。

 このとき魔琴の後ろに居たナビは、生まれて初めて見るその光景に目を奪われていた。


 光が収まった視界の先に居たのは衣服・体力を含めた全てのダメージを取り除かれた永琳だった。


「――……ん。? ここは」

「気が付いたか」

「…………貴方は?」


 覚醒したばかりで状況が飲み込めていなかった永琳の顔は疑問一色だった。


「俺の名前は綺堂魔琴。通りすがりの一般人さ」


 魔琴は目の前の少女が自分の状況を自分で正しく思い出せるよう、少女が意識を落とす直前に放った自己紹介を繰り返した。


「通りすがりの、一般人……」


 永琳は何か思い出そうとするように魔琴の顔をジッと見つめると、やがて目を見開いた。


「貴方……さっきの」

「思い出してくれたようだな」


 ――こっからが交渉だ。

 人間の女が居る時点で、ここが人間の国やら町、村や集落からそう離れていないと思われる。

 文字通り生きる力には困ってないが、一時的にでも腰を落ち着ける拠点くらいは欲しいのだ。


「(ここで何としても手にしてみせる!)」





永琳side



 光に飲み込まれて気が付いた私――永琳は視線を動かしてあたりを探った。


「気が付いたか」


 その時、目の前からそんな声を掛けられた私は驚くのも忘れそちらに目を向けた。

 そこに居たのは17歳から18歳ほどに見える、紺色の着物を纏った白髪の青年だった。


「…………貴方は?」


 現状を把握出来ておらず、本来であれば警戒するべき正体不明の青年に疑問しか浮かんでいなかった私はそんなことを訊いていた。


「俺の名前は綺堂魔琴。通りすがりの一般人さ」


 その青年――魔琴の答えを聞いて、私は意識を失う前の出来事を思い出していた。



『どうも~、通りすがりの一般人です』


 薄れゆく意識の中、わずかに捉えた。


「! 貴方……」


 不安など何も感じさせない後姿。


『さあて、――お片付けとといきますか』


 大妖怪相手にこんな余裕を見せて立ち塞がってくれた。


「さっきの……」

「思い出してくれたようだな」

「……ええ。助かったわ」


 どのような能力によるものか、自分が手も足も出なかった犬人妖怪の一撃を素手で受け止めた青年……綺堂魔琴。

 彼が何者なのかはわからないが、命を救われたことは理解した。


「どういたしまして。で、早速だが質問いいか? えーと」

「あぁ、私は永琳。八意永琳よ」

「そうか。じゃあ永琳、お前が今住んでいる家は在るか?」

「え、そりゃ在るけど」


 何でそんなことを訊くのかと思ったがすぐに思い当たる。

 どんな理由からかは定かでないが、この男は私を助けたのだ。何かしらの要求はあって然るべきだろう。

 そして、その予想は的中することになる。


「そこ、ちょっと貸してくれ」

「……それは、『拠点として提供してくれ』ということかしら?」

「ああ。それで合ってる」

「そう……」


 多少のお礼はしようと思ってたけど、それには厳しいものがあった。


「ごめんなさい。悪いけど、部外者無暗に街に入れることは出来ないわ。まして や、貴方のような能力持ち(スキルホルダー)は特にね」

「ほう、よく俺が能力持ちだって判ったな」


 それはそうだろう、と私は思った。

 あの犬人妖怪はただの人間が退けられるような妖怪ではなかった。

 ならば、その犬人妖怪を退けたこの男は必然的になんらかの能力を持っていることになるということだ。


「そういうわけだから、そのお願いを聞くことは出来ないわ。他には何か無いかしら?」


 私が端的にそう言うと、魔琴はニヤリとその口端を釣り上げた。


「いいのかな~。そういうこと言って」

「何の話よ」

「気づいてないのか?」

「だから何なの……よ」


 その時、私は魔琴が私の頭部を指さしていることに気付いた。


「(どう……して?)」


 そこは今の私にとって、示されてはいけない箇所だった。

 が、魔琴は街の人間ではない。もしかしたら私の心配とは別物ということも……。

 しかし、そんな私の希望も崩れ去ってしまう。


「その髪……――黒かったよな?」

「ちぃッ……!」


 このままでは自身の秘密が露見する恐れを感じた私は魔琴が治してくれたであろう体を、両腕を軸にコマのように回して目の前にて腰を下ろしていた相手の左側頭部へ回し蹴りを放った。

 しかし魔琴はこれに苦も無く対応して、片腕で防御。

 それを見た私はその脚を掴まれる前に、すかさず両腕を跳躍させて背後に回った。

 地に着地した私は接近戦は不利と判断し、背中の長弓を取って構えた。


「え……」


 が、弓を構えたその時、その場には既に魔琴の姿が無くなっていた。


「いったい何処に……?」

「ここだ」

「ッ!?」


 背後から声が聞こえた時にはもう遅かった。

 私の背中に密着した魔琴はその手刀を首筋へピタリと当てていた。


「会話、する気になった?」

「……ああ、もう。わかったわよ、降参よ。降参」


 そう言って両手を上げると、以外にも彼は素直に離れてくれた。


「すまなかったな。手荒な真似をして」

「それは先に手を出した私への皮肉かしら?」

「そうとも言うな」


 ニヤニヤとしてて考えが読めない、こいつの飄々とした態度は苦手だと思った。

 だが、こんなのでも私より強いことは先ほど事でハッキリしている。

 であれば下手に撃退しようとするより、こいつの言い分を聞き入れてこちらの要望も聞いてもらう形にした方が安全だろう。

 そう考えた私はそれを魔琴に伝えるべく口火を切った……。





 ――――こうして、魔琴たちはこの世界で初の拠点を手に入れた。

拠点ゲットです!

プロットは箇条書きで進めているので永琳と魔琴たちがこれからどのような関係になっていくのかは作者もドキドキしています。

七話の話も進行中ではあるのですがサブタイトルがまだ決まっていない為、次回はキャラクター紹介3を挟むかもしれません。


それではまた二週間後に(^^)/

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