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四話 ~偽物~

タグ変えよ。

「んだあ!? テメエは!!」

「どうも~、通りすがりの一般人です」


 いや~、危ない危ない。なんとか間に合った。

 チラリ、と魔琴は背後を見やる。

 そこには眠るように気絶した、銀髪の少女が確認出来た。


「(アンタが何者かは知らねえが、同じ人間のよしみだ。今回は助けてやるよ)」


 魔琴は妖怪が振り下ろしていた斬馬刀を素手で、それも右手一本で受け止めていた。

 通常ならそのような重さ重視の刀は素手でなくとも受けることは難しく、この場合は身体ごと切られてもおかしくはなかったが刀に掛けられている『力』そのものを操る魔琴には関係の無いことだった。


「その人間の仲間かッ」


 犬人妖怪が忌々しそうに言う。


「言ったろ? 通りすがりの一般人だって」


 対して魔琴はニヤニヤとした笑みでいい加減な態度を貫く。


「ちィッ!」


 ――ギィン!!


 と、素手と刀で迫り合っていた筈が刀で刀を弾くような金属音が響いた。

 犬人妖怪は魔琴の実力を未知数と判断。続けざまにもう一撃を打ち込んでから距離を取ったのだが、これを以てようやく目の前の相手が自分の全力を当てなければ勝てない強者であることを悟る。


「クッハッハ、イイぜ。久々に俺が本気を出せる相手とれんだ……楽しまなくっちゃなァッ!!!!」


 ――ゴゥ!!


 犬人妖怪の急激な妖力放出による圧が周りを支配した。

 並の人間や小妖怪であればこれだけで気絶するか、よくて動けなくなるほどの物だったが魔琴は未だ涼しい顔であった。


「(へっ、セオリーなら今の『ほう』で動きが鈍ったところで殺りたかったんだが、仕方ねえ)」


 犬人妖怪は己の得物である斬罵刀を地面へと突き刺し、パンっ! と空いた両の掌を合わせた。


「犬人妖術、『じゅう』!!」


 犬人妖怪の叫びと同時、それは起きた。


「ギャウ!?」


 魔琴の周りに居た狼達が一斉に苦しみだしたのだ。

 そして少しすると狼達は緋色の粒子となって犬人妖怪へ取り込まれていった。

「ア、アア。……どうにも『コイツ』は肩が凝るな」

 犬人妖怪が自分の肩を回しながら言った。

「なるほどな。狼共の妖力を吸い取ったわけか」

「んー……正確にはちげぇな。元々こいつらに分けてやってた力を回収しただけさ、そいつら自身にあった生命力込みでな」

「ああそう。ま、肩慣らし程度にはなってくれ」

「ほざけッッ!!」


 自身の本来の力を取り戻したからか、犬人妖怪は絶対の自信を持っていたのだろう。

 容易く挑発に乗り、地面に突き刺していた斬馬刀を引き抜いて特攻を掛けてきた。

 しかしそうなるのも仕方のないことで、特攻とは言うものの内容は妖力にて超加速を行った後ろへの回り込みだ。

 力量が一枚上手程度の相手であったなら、急に上がったスピードに対応することは出来なかったろう。

 しかし、犬人妖怪と魔琴との間の壁は、一枚どころか数枚――否。


 ――バキィーン!


「なにィ!?」



 ――――――――そのような枠には収まらない、絶対的な差が存在した。



 背後から下ろされた斬馬刀は、魔琴に傷一つ付けず、物の見事に折れてしまっていた。


「良い夢は見れたかよ。――妖怪」


 最後に、魔琴は妖怪の居る背後へ振り向くのと同時に自身が持つお遊び程度の妖力をぶつけた。


「がァッ!?」


 しかし、魔琴は知らない。

 魔琴自身が遊び感覚でぶつけた妖力は、ありとあらゆる『力』を操る程度の能力で発動した物で。

 最高の連度とコントロールで放たれていたそれは、目の前の相手程度の心臓を止めるには十分な威力を持っていた。


 ――斬!!


 が、魔琴はまさか既に自分がとどめを刺しているとは思わず手刀にてその首を飛ばしたのだった。





「なんか、弱かったね」


 現在、魔琴の中から出ているナビが隣で呟いた。


「……」


 二人の視線の先には、先ほど魔琴が仕留めた犬人妖怪の身体があった。

 そして、それを見ている魔琴は何か、得体の知れない違和感のような物を感じていた。


「マスター、どうかした?」

「いや、ナビ。あの死体、おかしくないか?」

「おかしい?」

「ああ。なんか分かんねえけど、……まるで、アイツが本物じゃねえみたいな気がしてよ」

「ちょっと待ってて」

そう言って、ナビは犬人妖怪の死体へ近づいて調べ始める。

「気をつけろよ」

「ん」


 魔琴の忠告に短く返すと、ナビはその身体へと触れた。


「『情報を検索する程度の能力』、発動」


 そうしてしばらく待つと、ナビは驚愕に目を見開いた。

 それでもナビは魔琴の元へと戻り、内容を口にする。


「マスターの言うとおり、アレは本物じゃなかった」

「じゃあ、影武者の類か? アレには実態があったし、ただの分身とは思えねえ」

「ううん、分身だよ。それも、ただ実体を持たせるだけで長続きしないような影分身でもない」

「そいつは……」

「うん。おそらくさっきアイツが使ってたみたいな眷属の術式を応用したものだと思う」

「自分のコピーを『個』として造り、確立させる分身か」

「そう。そしてこの分身は常時、その記憶を本体へ送っていた」

「なるほど。で、本体はさっきのよりどれくらい強いんだ?」

「さっきの分身から取得出来た術式情報からして、本体の力はさっきの……十倍程度」

「なんだ。只の雑魚じゃねえか」

「うん。余裕」

「ま、そんならわざわざこっちから出向くことはねえな。さっきのを本体さんも見てたってことだし、来ねえってんなら見逃してやるさ。メンドイし」

「飛び掛ってくる火の粉は、払えば良いしね」

「ん」

「次はどうする?」

「ああ、そうだな。とりあえずこっちの拠点を……ん?」

「どうしたの?」

「いや。ちょうど良いのが居るなあって」

「ん? ああ」


 二人の視線の先には、樹にもたれて気絶している八意永琳の姿があった。

これからもなるべく二週間ペースで投稿していきます。

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