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三話 ~八意永琳~

やっと更新でけました( ;∀;)

「はあ! はあ! はあ!」


 日も届かない鬱蒼と茂る森の中を、息を切らし流れる汗すら気にせず駆ける美しい少女が居た。

 少女が一歩踏み出す度に三つ編みに束ねられた銀糸は揺れ、所々が破り食われた ツートンカラーの衣服もどんどん傷んでいくが少女はそれすらも気にしていられないとばかりの追い詰められた表情で駆け抜けている。

 しかし、それもそのはず。

 少女は追われていたのだ。この森に住む十五匹の妖怪に。


「あ!」


 かれこれ十五分以上追われていた少女の体力は限界だった。

 そんな状態で走ることに専念していた少女は地面のツタに足を引っかけ転んでしまう。


「っ痛」


 少女は足を挫いたようで、また走って逃げるのは不可能となってしまった。

 そんな少女の元へ、十三匹の妖怪が追い付いた。


「やっと追い付いたぜ? 子猫ちゃん。いや、逃げながらも俺の眷属二体を屠った アンタに子猫はねえか。差し詰め子獅子ってところだなァ」


 そう言ってリーダー格の犬人妖怪は肩に担いでいた二メートル級の太刀を片手で向け、両隣に侍る十二体の狼は威嚇をしてくる。


「こいつらもアンタに兄弟殺されて頭きちまってるみえでな。大人しく食われてくれや」


 少女は相手との距離を測りつつ、自身の状態を確認する。


「(霊力は殆ど無い。足を直すことは出来るけど、今それをやれば霊力欠乏で気絶しちゃう。最悪の状況ね)」


 ――どうしてこんなことになってしまったのだろう?


 少女――八意永琳は数時間前のことを思い出していた。



「穢れの森へ?」

「うん」


 朝っぱらから人を叩き起こして何を言ってるんだろう? と私は思ったが、いかんせん目の前に居るのは私の研究者としての立場を保証している上司だ。

 いくら新薬の研究で徹夜していたところに入れていた仮眠から上司の執務室に呼ばれたのだとしても、ストレートにそんなことを言う勇気は、私には無い。


「すみません。あそこは現在妖怪の住処となっていた筈ですが、なぜ私がそこに行く必要が? まさか、そこの妖怪退治をしてくれとでも言うつもりは無いですよね」

「んー……駄目?」

「はぁ、わかりました。わざわざ薬剤研究員の私に頼むのには、何か相応の理由が在るんでしょう」

「ごめんね」


 この人が素直に謝ることは滅多に無い。

 こういう時はたいてい大仕事を押し付けられるというのが、私の経験則だった。


「月面移住計画。幹部である者は皆周知のこれは、当然キミも知ってるね?」

「はい」


 月面移住計画。

 私たちがいま住んでいる地球から月へ移住する計画だ。

 この計画が立ち上がったそもそもの原因は、地球を覆っている穢れにある。

 穢れは私たち人間にとって怪我や病、寿命の原因にもなっているものなのだ。

 だから私たち人間は、穢れの無い新天地として月へ行く計画を立てた。


「その計画が、何か?」

「ああ」


 上司は一拍おいて驚きの事実を告げた。

「この計画が妖怪に漏れた」

「なんですって!?」


 妖怪。

 彼らの存在こそ穢れの元であり、私たち人間の敵だ。

 妖怪は人間を好んで食す者が大半で、絶対にこの計画を知られてはいけない存在だった。


「いったいどうして」

「実は、森に住んでいた犬人妖怪が僕たちの街へ潜り込んでいたようでね」

「ですから、そこでどうして情報が漏れたんです?」

「二週間前に、黒峰一佐が穢れの森の調査に出ていたでしょう」

「ええ、それが……ってまさか!?」

「そう、妖怪は黒峰一佐に化けていた」


そう言って、上司は乾血が付着した長弓を取り出した。


「それは! 黒峰一佐の?」

「ああ。二日前に帰還した幹部、黒峰大樹はその犬人妖怪。そして、おそらく本物の大樹は調査中に食い殺されたのだろう。その犬人妖怪が置いていった」


私は手ぬぐいを取り出し、その長弓を丁重に受け取った。


「大樹は、僕の良い飲み友達だったからね。通常であれば研究員であるキミに討伐依頼など、頼んでいいことではないのだが、今動ける人間で一番強いと言ったらキミしか浮かばなかったんだ。引き受けてくれるね?」

「……通常であれば組織に私情を持ち込んでほしくはありませんが、計画を知られてしまったのなら仕方ありませんね」

「もう門に護衛も待たせてるから、なるべく早く行ったげてね」

「失礼します」



 そう言って、私はここに来た筈なのに、結果は散々だ。

 私は組織でも上位の武を持っているからと自分の実力を過信し、相手が犬人妖怪という情報から待ち伏せを警戒しなかったばかりか、私の力を信じて着いてきてくれた護衛兵も皆死なせてしまった。

 永琳は自嘲気味に笑うとその場で立ち上がり、笑みから一転鋭い刃のような眼光で相手を刺した。

 そうして目の前の獲物が戦闘態勢を取ったのを見た犬人妖怪は、右手を上げ号令を掛けた。


「殺れ!!」


 十二体の狼はこれから味わえるであろう血の味を想像してか、疾駆のごとく少女へ飛び掛かった。


「(こうなったら、私の全霊力で黒峰さんの仇だけでもッ!!)」

「何!?」


 自分の両足に霊力を注ぎ込んだ永琳は飛び掛かってきていた全ての狼を置き去りに、犬人妖怪の後ろを取った。


「もらったああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ぐぅ!?」


 永琳は自身の過大霊力によって燃焼した蹴りを犬人の脇腹に叩き付けた。


「(勝った!!)」


 そう思っていた。


 ――ガシ


「え!?」

「捕まえたああああああああああ!!!!!!!!」


 自分の一撃を入れた筈の犬人妖怪は全く堪えた様子が見えず、それどころか蹴りを入れていた右足を掴まれていた。


「うおおおらああああああああああ!!!!!!!!」


 犬人妖怪は霊力が無くなった永琳の足を目いっぱい振りかぶると、そのまま投擲した。


 ――がン!


「がはッ!!」


 後ろにあった大木にぶつけられた永琳は、肺に吸っていた空気を無理やり吐き出さされ呼吸困難に陥ってしまう。


「おっと、内臓は綺麗な方がうめえからな。もちっと加減しねえと」


 酸欠で今にも意識が飛んでしまいそうになっている永琳は目じりに涙を溜めながらそれを必至に堪えていたが、十三体の妖怪が自身の前に来たところで限界を迎えてしまった。


「んじゃ、いただくとすっかあ!!」

「(もう、ダメッ……――)」


 永琳が意識を落としそうになった、次の瞬間。


「……え?」

「んだあ!? テメエは!!」

「どうも~、通りすがりの一般人です」


 永琳に向け振り下ろされていた犬人妖怪の太刀を片手で受け止めている、紺色の着物を着た人が見えた。


「さあて、お片付けといきますか」


 最後に聞こえた声は若い男性のそれで、銀髪が自分のそれより綺麗に見えてしまった永琳はショックで気絶した。

次は魔琴が戦うよ! 上手く描けるかなぁ。

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