十一話 ~図書室~
十一話サブタイを『~図書館、そして初仕事~』から『~図書室~』に変更しました。
「これは……凄いな」
永琳が扉を開いた先は、出入り口の玄関などではなかった。
どういった原理によるものか、そこには永琳が口にした図書室が広がっていたのだ。
「この研究所全体に術式を施して扉から直接行きたい部屋に繋がるようにしてるのよ。入って、まずは資料整理をやってもらうわ」
どうやらここは想像以上のSF都市らしい。
初めは手に入れた拠点を失いたくないがために引き受けた助手業だったが、こういった超技術が見られるのなら永琳の助手もなかなか良いかもしれない。
そう考えていた時期が俺にもありました。
「それじゃあ私は急ぎの研究があるから、ここにあるだけ整理よろしくね」
永琳の言葉も耳に入らず俺は目の前の白い塊、もとい高さ約二メートル超の書類の束×5にその部屋から永琳が居なくなるまで茫然としてしまっていた。
幸いその現場に行き着く前に今日こなす仕事の説明は受けていたため、業務を開始した一時間前から手を止めることなく作業を進められてはいるのだが……。
「多過ぎだろ」
まあ? 初めに見たときからある程度予測はしてたけど、一時間休み無く動き続けて減ってる感覚が無いとか……今日初めて働く人に振る量じゃないよね?
仕事内容こそ街の外の調査資料をそれぞれのカテゴリーに分けてそれを記録していくというだけの簡単なものだが、ここまで量が多いと今やってる普通の方法じゃ 今日中に終わらせるのは不可能だと思われる。
「はぁ……」
だからホントに、こいつが居てくれて良かったよ。
俺は目の前に積まれた資料の山に掌を向けて、その力を発動した。
「情報を検索する程度の能力、発動」
さて。ここでなぜナビの力、情報を検索する程度の能力を使う必要があったのか。
それは今の俺がやっている作業に関係している。
一枚一枚只管に資料を見て名簿に記録し、記録した資料は本状にまとめ収納。それが今やっている作業なのだが、情報を検索する程度の能力を使うことでこの仕事の第一工程、資料内容の確認を省くことが出来るのだ。これだけでも、だいぶ処理速度は上がるだろう。
ちなみに、今ナビは俺の中で絶賛爆睡中だ。
情報を検索する程度の能力にナビという一つの意識を与えた今の俺はこいつが中に居なければこの能力を発動出来ないようになってるが、逆に言えばナビ自身に意識が無くても俺の中にさえ居れば今の俺も情報を検索する程度の能力を使うことが出来る。
閑話休題。
情報を検索する程度の能力による検索は無事に終わった。
そして全ての資料内容の検索が終了したことで、これらの資料が一貫してある存在に関する情報をまとめた物であることを知る。
「妖精、ねぇ……」
永琳からは薬剤を研究していると聞いていたため、てっきりこういった資料もその薬剤に関係する類のものかと思っていたのだが、どういうわけかここに置いてある資料は全てその妖精関係の調査資料だったのだ。
「……ふむ」
そこからは淡々と作業を終わらせていった。
永琳side
八意研究所、実験室。
その研究所の名前を関する一人の少女、永琳はその部屋の覗窓から日の沈みかけている外の様子に気がついた。
「今日の実験はここまでか……」
今日の成果をノートに付けてしっかり机の引き出しへ保管する。
「あとは、……大丈夫そうね」
帰りの支度を整え予定表を確認し、やり残している作業が無いことを確認した永琳はそのまま机に置いてある各部屋備え付きの転送装置へ今現在も資料整理に苦闘中の魔琴が居るであろう図書室の字を入力し、その場を後にした。
「えー、と。魔琴は……」
実験室から図書室備え付けの転送装置へ転移してきた永琳は、周囲を見回すようにして助手の姿を探した。
と言っても、図書室自体がそこまで大きなものではなかったためその背中はすぐに見つけられたのだが。
「?」
何か違和感を感じる。何だろう?
どうやらまだ何か作業をしてるらしく机に向かったままの状態のようだが……。
永琳はその違和感の正体がわからず不審には思ったが、とりあえず今日は魔琴にも切り上げさせようとその背中に声をかけた。
「魔琴。今日はもう終わりで良いから、一緒に帰りましょ」
「――……」
「……魔琴?」
返事が無い。よほど手元に集中しているのだろうか? それにしてはピクリとも動かないけど……。
「まさか、居眠りしてるんじゃないでしょうね……?」
そりゃあ、あんなの絶対一日で終わる量じゃなかったし……地味な作業で飽きちゃうこともあるかもしれないけど、仕事中に居眠りって……。ここは一つ責任者の私が叱らないといけないわね。
「ちょっと魔琴!」
そう永琳が再び声をかけながら魔琴の肩に手を置いた、その時。
「え?」
先ほどまでそこに居たように思えた魔琴がいつのまにか消えていた。
そしてその代わりになるように永琳の手に有ったのは、今日魔琴に任せていた資料整理の進捗記録ノートだった。
「何でよ……」
いや、今の魔琴が本物じゃなく変わり身の類だということは予想つくけど……。
そんな思考の海に呑まれながら何とか己の手の中に現れたノートを開くと、永琳は思わず目を瞠ってしまった。
「これって……」
永琳は自分がいま見たものをすぐには信じられず、資料の山が置かれていた机に顔を向ける。が、そこには既に何も無い。
続いてノートに記されていた本棚を周る。そこにはしっかり、机に山積みとなっていた資料がまとめて収められていた。
「嘘、本当に今日だけで終わらせたの?」
あの量はとても一日で整理できるものではなかったのに。
しかし、現に資料は全て本棚に有るし、ノートにも記録されている。
「何か能力でも使ったのかしら」
あのチート能力だしね。何ができても不思議じゃないか。
「?」
何やらノートの隙間から紙切れのようなものが落ちてきた。何だろう?
永琳が床に落ちたそれを拾い上げてみるとこのように書かれていた。
『気になることが出来た。先に帰っててくれ by魔琴』
何故だろう、魔琴は私が心配しないようにこうして書置きを残していったと思うのだが……。
――嫌な予感しかしない。
そう永琳が呟くとともに、倒れていた魔琴の変わり身も煙となって消えるのだった。
永琳「どうも、八意永琳です。今回は私があとがきと務めさせていただくことになりました」
永琳「え? 作者はどうした、ですか?」
永琳「申し訳ございません。作者は前回うちの姫様にピチュられてしまったので、私の研究所にて療養してます」
永琳「ええ、私の研究所は医療施設も兼ねてますから。はい、なので今回のあとがきは私が代理に入りましたのでよろしくお願いします」
永琳「さて。今回いよいよ正式に魔琴が私の助手として仕事をしたわけですが、本当に同じ人間なんですかね? 一日で終わらせられる量じゃないですよ、アレ」」
永琳「まあしっかりやってくれる分には問題無いんですが、仕事を終わらせた魔琴はいったいどこに行ったのか気になるところです」
永琳「それでは、次回もまたお会い出来ることを祈って。さようなら」
――ピチューン




