閑話 ~魔琴の過去~
すいません。キャラ紹介の前に閑話挟みます。
綺堂魔琴に親は居ない。
何故か?
目の前で殺されたからだ。
その時の魔琴は、ただただそれを見ていることしか出来なかった。
家は特別裕福と言うわけでも無かったのだが、まずまずの財産が有りそうな家には見えたのだろう。
ある日突然現れたそいつらは、金銭目的の強盗だった。
その日は平日であったが不幸にも魔琴の誕生日で、父と母に五つ下の妹の家族全員が揃っていた。
犯行はそれなりに計画的なものだったらしく、猟銃や拳銃あげくショットガンまで携行していた強盗たちは、抵抗しようとした父を始めに打ち殺して母と妹を人質にとった。
強盗たち本来の予定では魔琴たち兄妹を人質に危険度が低く財産を把握していそうな母親から金目の物を出させる手筈だったのだが、夫が撃ち殺されたショックで気絶してしまったため急遽その役を魔琴へ変更し母親も人質として確保したようだ。
閑話休題。
魔琴は目の前の現実を処理出来ず、頭が真っ白になり体が動かなくなっていた。
自分の家族が人質となる様を、見送ることしか出来なかったのだ。
しかし、ある意味それも仕方ないことである。
この時の魔琴は何の力も無い家族想いというだけの学生で、家族の死を見たのも初めてだったからだ。
そうして二人を人質にした強盗が魔琴にした要求は以下の通りだ。
1、二時間以内に多くの現金を用意すること。ただし、外部へ協力を求めるのは禁止。
二時間という猶予は家が利用中の銀行口座から、モノを引き落とす為の時間だろう。外部からの協力を禁止されたのは余り多くの人間にその痕跡を見られて足がついてしまう可能性を恐れたからだと考えられる。
2、万が一制限時間が過ぎたり、外部への協力要請が発覚した場合は人質の二人を殺処分することとする。
強盗たちはどうしても顔を知られたくなかったらしく、引き落としは魔琴に任せ自分たちは家で待っているということだった。確かに、少しでも犯行の発覚を遅らせたいなら目出し帽を被って銀行に入るわけにもいかないだろう。
魔琴はその要求に従うしか無かった。
銀行へと急ぎ、有りったけの現金を用意して約一時間半。
自宅へと帰りついた俺を待っていたのは、衝撃的な光景だった。
武装した強盗たちと、放心した妹。そして、血の海に倒れる母の姿。
わけがわからなかった。
自分は要求に従い、指示通りに戻ってきたのに。
何故、母親が殺されているのか。
しかし、蓋を開けて見ればなんのことはない。
強盗たちは、初めから全員生かすつもりなど無かったのだ。
妹が一人生きていたのも、戻ってきた魔琴の目の前で殺した方が楽しめるだろうという一人のメンバーが提案した余興であったらしい。
目の前で、妹の蟀谷へ銃口があてられる。
それを見た時、魔琴の中で何かが壊れ崩れる音がした。
その後の事を魔琴はよく憶えていない。
ただ、魔琴が目を覚ました時あったのは……。
――魔琴を見て脅える妹と、骨という骨が砕かれ沈む強盗たちの姿だった。
これを見た魔琴は意識を失くし、二度とその世界で目覚めることは無かった。
神様side
「そろそろ……奴も思い出す頃かの」
今頃は魔琴が生前の記憶を取り戻したころだろう。
神が魔琴を送り出してから既に半刻は経っているのだが、神が住む神界はその他のどの世界よりも経過速度が遅いため魔琴が無事? 東方project世界の上空へ放り出される瞬間を映像として観ていた。
「全く。よもや超常の力などとは無縁のあの世界で、あのように危険な能力を発現させてしまうとは……運が無かったとしか言えんじゃろうな」
そう。
魔琴は運が無かったのだ。
最後に自身の目の前で生き残っていた妹だけは助けようという想いからだったのだろうが、魔琴はあの土壇場で本来であれば一家全員が殺されていたであろう当時の場面を文字通り覆す力を現してしまった。
結果的に、妹を助けることは出来ただろう。
だがしかし、あの能力が発現してしまったのなら地球という世界に放置しておくわけにはいかなかった。
であるから今回の異世界転生は魔琴には手違いと伝えてあるが、本当のところは神の意図した事によるものということだ。
なんせ、魔琴が発現したあれは神にも等しい力。
万が一にでも暴発すれば、あのような弱小世界では瞬く間に崩壊していたことだろう。
一つの世界を護るためには仕方のないことであった。
「ま。かの幻想世界であれば、もうそんな心配も無用じゃの」
もともと多くの力が溜まりやすい東方projectの世界なら、大抵の力が許容される。
「綺堂魔琴……今度こそ、良き人生を生きるといい」
神は魔琴が異世界に転生して初めて地に足を付ける、その記念すべき一歩を見届け微笑んだのだった。
次回、「キャラクター紹介3」。
それではまた二週間後に(^^)/




