2027
西暦2027年
20年前から突如始まった急激なオゾン層破壊により、世界の97%は海になり、人間の耐性以上の紫外線が降り注ぐため、陽の光を浴びれない世界になっていた。
日本も例外はなく、陸地のほとんどが沈み、急激な人口減少とともに、激動の時代を迎えていた。
「長老!部屋から出ても大丈夫ですか?」
紫外線を遮る巨大な建造物は自衛隊の潜水艦ドッグであった。
長老と呼ばれた老人はその建物の最高権力者である。
「大丈夫じゃよ。キース。真面目に働いておるか?」
「ええ、今日も面倒くさい仕事で一杯一杯ですよ。」
そう答えた若い男は潜水艦のメカニック達をまとめる補給部隊長である。
「そうかそうか。お前には期待しておるぞ」
「しかし今日は機嫌が良さそうですね。何かあったんですか?」
キースが怪しむように質問した。
「あぁ、やっとな、光がみえたんじゃよ」
「光?」
「そうじゃ。この世の中を照らす光をな…キース。お前さんには期待…」
「はいはい!期待はわかりました!」
「ふぉっふぉっ!おっ!そうじゃ、わしのかわいいペンタは?」
ペンタとは長老がこの基地にきた30年前からいつも一緒に行動しているペンギン型のロボットである。
「ちゃんとメンテナンスしておきましたよ。よっ」
キースはペンタのスイッチを入れた。するとそのロボットはあたりをキョロキョロして状況を把握したように両手をあげ長老に叫んだ。
「ペーーン!!!」
その日の夜、基地長室に一人の男が呼び出された。
コンコン!
「入ってよいぞい」
「失礼します」
長老の座る椅子の前に現れた男は50歳前後のヒゲを生やした男であった。
「艦長。先日の話の事じゃが」
「はい。私がその任務に当たらせていただきます。」
男は敬礼をしながら答えた。
「そうか。艦長…おまえさんには本当に酷な任務だと思う。ただ…」
「わかっております。長老。このままでは…」
「そうじゃ。現在、日本の戦力を握る市民防衛軍は上層部の水面下の裏切りにより、クラウスの私設軍隊じゃ…そして奴が狙うのは…」
「軍事テロ…」
「あぁ…それだけは絶対に阻止しなければならん。」
「しかし何故20年前のセンチュリオンを?」
「君は鳴海君という青年を覚えておるかね?」
「勿論。私のかけがえのない親友でした。センチュリオンがテロの標的になり艦と共に海に…」
「そうじゃ。彼とその双子の妹に不思議な力があるのは知っておるか?」
「不思議な力…?」
長老がさらに続けた。
「クラウスの部下にNo.13と呼ばれる男がおる。奴は人の精神を自由に操れる力を持っておる。」
「そんな事が…」
「ああ。No.13のその力に、そしてクラウスの潜水艦軍隊に対抗できるかもしれないのが鳴海君とセンチュリオンの力なのじゃよ。」
「ではまさかセンチュリオンがテロの標的にされたのは…」
「間違いなく標的は将来邪魔になるであろう鳴海君だったんじゃろうな…」
「そんな…」
艦長の目に静かな怒りが宿る。
「お願いじゃ。艦長。過去へ戻り、鳴海君が、センチュリオンが破壊される前にこの時代に彼らを時空転移させてくれ」
「しかし過去に戻るなどという事が本当に…?」
長老は足元に置いてあったペンタを抱え上げた。
「こいつとは昔から一緒の親友みたいなもんじゃ。こいつの体内に時空間転移装置を内蔵した。現代科学の最先端のを詰め込んだんじゃ。」
老人はペンタのスイッチを入れた。
「ペーーン!!!」
「こいつを連れて行き、30年前のワシに渡してくれ。過去のワシもこのペンタを見ればおまえさんの話をきっと信じるじゃろう。なんせ世界でペンタは一匹だけじゃからのぅ」
老人は笑い声を上げながらペンタを艦長に手渡した。
「わかりました。では30年前に戻り、その10年後、センチュリオンと鳴海君をこちらの世界へと必ず連れて参ります。」
「うむ。艦長。おまえさんには長い旅をさせてしまうが、頼んだぞ。」
数日後、日本の沿岸に20年前に爆発音を残し行方不明になったセンチュリオンが当時のままの姿で浮上するというニュースが日本を騒がせた。
「さぁ…忙しくなるぞい!キース!!!」
「え?じいさん、まさかあの連中、このドッグへ?」
「彼らは過去からの光なんじゃよ」
キースは怪しげな目で長老を訝しみながら工事内に指示を出した。
「補給物質用意-!!!!」