救われた私と彼と転生トラック
グロ注意。処女作です。
目に映ったのは誰もいない運転席――なのに此方へ真っ直ぐ進んでくるトラックだった。
黒い、黒いナニカが滲みでる金属の塊がやってくる。目が離せない。小さく開いた口からヒュッと音が鳴る。短い私の足はモノクロの横断歩道に縫い付けられた。
すぐ目の前の猛威は無機質だが、黒い闇が取り巻くせいで酷く恐しい怪獣に見えた。
逃げれない
アレ(・・)は異常だ。私を殺す。幼いながらそう悟った――瞬間
左側に衝撃。
だけど優しく暖かみのある力によりトラックから目が離される。
身体が地から離れ、宙を飛ぶ。頭から飛んだから見えた。
大きな身体。赤いチェックのネクタイ。
それは茶色い髪が似合っていた隣の家のお兄ちゃん。顔を歪めながらもどこか安心している表情をしたお兄ちゃんだった。
手を伸ばす。だって離れたくない。でも届かなっ
「にいちゃっぁあっ! 」
放射線を描きながら私の身体はトラックの直進方向から外れた。そして鮮血――何故か衝突音が無かった。
「ギャツ………ぁあ゛あ゛あぁ――!!」
いつも優しい笑顔を見せてくれる顔が赤い。ボンネットにぶつかり、地面に叩きつけられたお兄ちゃんはタイヤに踏み潰されて身体を引き裂かれた。赤い血が周囲に飛び散る――まだ宙を飛んでいた私の口にも。
生臭い味。ナニこれ?
2つに別れた下半身と上半身は後輪にも巻き込まれ容赦無く潰される。赤いチェックのズボンが赤黒く変色するのが信じれなかった。
赤い液体が着いた小さな私の足ごしに見える殺戮に目が離せない。開いた口は今度は何も音をたてなかった。
帰り血を浴びた金属は全くスピードを緩めなかった。ソレが任務のかのように肉を引き裂きながら走りきる。
落下していることも忘れていた私は背中に刺すような激痛に歯を食い縛った。視界には緑の葉――どうやら植え込みに墜落したらしいが、そんなことはどうでもいい。前に身体を倒し、左足ですぐさま地面を蹴る。
兄ちゃんは?
身体がふらつき、胸から地面にぶつかる。空気が外に飛び出した。
「ごほっ」
涙目になりがからも見たのは赤い残骸を囲む円い光だった。
金色に泥を混ぜ込んだような気持ち悪い色の光が回転しながら模様を増やし、大きくていく。何十もの円が発生していった。
コンクリートに広がった赤にも、電柱に降りかかった肉片にも、私のお気に入りだった白いワンピースに染み込んだ生臭いモノにも円が発生した。
音が聞こえない。
私は呆然としていて息を止めていたし、不気味な円達は音を出さなかった。そしてお兄ちゃんは死んでいた。というかお兄ちゃんだと思われる物体に円が、何十もの円が発生していて見えなかった。
目を限界まで開いて、口を閉じて、音をたてないようにした。音をたてたらアレに呑み込まれる。そうして感じたのは生臭い鉄の味。お兄ちゃんのカケラだった。
円が盗っていく。模様が書き込まれて最大になった円は幼い私程に大きくて、回転して急激に小さくなって赤いカケラと共に消えていった。私のワンピースにまとわりついていた醜悪な円も目の前で消えていった。
何かから生臭いカケラを守るために私は口を閉じ続けた。口を開けたら駄目だ、お兄ちゃんがいなくなる。
小刻みに震える私を他所に、円は次々と消えていく。作業のようだった。連れていかないでと叫びたかった。でもそれは出来ない。唾が溜まるのを無視して私はただ口を閉じ続けて醜悪が消えていくのを悔しい思いで見つめていた。
最後の円が消えた時、残ったのは何も起こっていないように見える横断歩道とやはり異質なトラックだった。
トラックは急ブレーキの音もさせなかったのにすぐ側に止まっていた。揺らめく闇が周りを確かめるように漂った。私は身体に痛みを感じながらも、呻き声を漏らさずじっとする。鼻からだす息に気づくのではないかと恐ろしかった。ゆっくりゆっくりと息をする。
闇は金属の怪獣を中心に巨大な円を描いた。そしてやはり無音で模様が書き込まれて、回転しながら急激に小さくなり、黒い点となって消滅する――そこにはもうトラックは無かった。
「……ぁあ……ふぅ」
日常の風景に残された怪我した私だけだった。
それが私の記憶。後に会った人々が全員忘れていた“お兄ちゃん”の最後の出来事。この出来事が大きく私の人生を変えていくことになる。
転生トラックで死んだ彼彼女が助けた少年少女達はどんな気持ちなんだろうと思って作った作品です。
残された者の描写がないこと、トラックの描写があまりにも簡単に書かれていることが最近のなろう転生小説の気になったことだったので。一応死ぬのにあまりにもあっさり死んでいるのが、テンプレという言葉に頼り過ぎているのではいないかと危惧したのもあります。
文章と主人公の年齢があっていないのは、当時小学1年生だった少女自体が大人びていたのと、高校生くらいの時に回想している場面という設定だから。続きの話の内容は決まっていますが、書くかは未定です。
読了ありがとうございました。